ジュエルエンブレムの名前は?

 予想通り、例の騎士は商人から多額の賄賂をもらっていた。フレイム家では、あくまで騎士個人の犯行として片付けるらしい。


「トール様、フレイム家から人材の目途がたったとの書状が届きました。こちらでございます」

 書状には、名簿も添えられていた。確かに面接の予定日が近付くにつれて、大勢の人が領都に集まってきている。

(二、三人も来れば十分だと思っていたんだけど……さて、有望な人材はどれ位いるんかな)

 名簿に載っているのは、全部で三十人。既に宿に泊まっている人もいる。


「家族を連れて来ている人もいましたね。ジェイド領の被害って、そんなに大きかったんですか?」

 幸い、今回の宿代や旅費はフレイム家持ちだ。もし使える奴がいなくても、うちの財布が痛む事はない。でも被災民だとしたら、俺も同じ立場なんだし非常に断り辛い。


「直接被害に遭われた方は、学校関係者だけと聞いております。受験者の経歴を見て頂けたら分かると思いますが、この間の意趣返しをされた様ですよ」

 うん、分かる。手紙に“お優しいトール様なら、困っている彼等を見捨てませんよね”とか書いてあるし。


「攻撃魔法を使える人は皆無ですね…五級ゴーレム師?」

 ジュエルエンブレムだけじゃなく、ゴーレム師にも等級があるのか……その前にゴーレム師ってなんだ?


「ゴーレムを造り上げ、運用するのがゴーレム師でございます。五級となると、攻撃も運搬も行えませんので、何の役にも立ちません」

 一級ゴーレム師ともなると、体長三mの人型ゴーレムを操れるそうだ。見てみたいと思ったけど、一級ゴーレム師を呼ぶには多額の金が掛るらしい。


「ジェエルエンブレムはCとDだけですね」

  早い話がジェイド領では、冷や飯食いだった人達ばかりだ。


「これは体のいい厄介払いですな。再募集を命じますか?」

 再募集?とんでもない。こんな宝の山を捨てる訳ないだろ。

(ジュエルエンブレムを神格化し過ぎだっつーの。もったいないねー)

 魔法のない世界から来た男だから思い付く、低ランクスキルの活かし方をみせてやる。


「いいえ、ここから採用します。その前に、やる気のない人や怪しい奴は、書類選考で落として下さい。その後、面接と実技試験を行いますので」

 前回の事もあるので、俺が直接面接するのはまずいと思う。面接官はニコラさんにお願いして、俺は隣の部屋に隠れていよう。


 ◇

 書類選考で落ちたのは十人。スパイが三人。出自を鼻にかけて横柄な態度を取っていた奴が四人。やる気が感じられず、観光気分だった奴が三人。

(俺、継承権三位なんだよな……)

 隣だと声が聞こえなかったので、タンスの中に隠れています。なんか旦那と鉢合わせしかけけた間男みたいだ。


「私は、自分の周囲一mにある石を動かす事が出来ます」

 ただし速度は遅く威力がない為、攻撃には不向き。そして岩は動かせない……合格。


「俺は五級ゴーレム師です。人型は操れませんが、きっと役にたちます」

 この男はゴーレムその物を造る事が出来ないそうだ。都度、芋虫モール型にしたゴーレムを動かす事しか出来ないらしい。そして人や物を乗せられないと……合格。


「足元に深さ三十cm、幅三十cmの落とし穴を作る事が出来ます」

 掛かる時間は十秒、穴はかなり崩れやすいそうだ……合格。

 残りの人も似た様なスキルだった。結果、全員合格。


 ◇

 面接の結果を、爺ちゃんに伝えに行く。


「全員合格だと……低ランクの奴等になにをさせるつもりだ?」

 爺ちゃんの顔が曇る。実質、金を出すのは爺ちゃんだ。気持ちは分かる。


「石を動かせる人には、地下の石を掘り起こしてもらうんだ」

 周囲一mって事は、地下も範囲内の筈。地面が硬い場合は、先に穴を作ってもらう。石を取るだけだから、崩れても構わない。


「五級ゴーレム師は、どうするのだ?攻撃も物も運べないゴーレムなぞ、何の役に立つ?」

 この世界の人は戦闘に役立つスキルしか評価しない。でも、土木やライフラインに大いに役立つのだ。


「石を運んでもらうのさ。人や牛に運ばせるより、効率が良いし」

 石は大きさ別に分けて、保管しておく。捨てたららお終いだ。使える物は、ゴミでも使ってやる。


「低ランクの落とし穴スキルは、獣狩りにも使えないんだぞ」

 落とし穴の活用の仕方で、定番なのは罠だ。でも、俺は獣狩りなんて効率の悪い事はしたくない。


「水路を作らせようと思っている。直ぐに補強すれば、崩れる心配もないしね。それに繋げれば、大きな水路になるし」

 水路は畑だけでなく、畜産にも役立つ。鶏舎も作りたいので、水は一滴たりとも無駄にはしない。


「魔法のない世界から来た故の発想か……トール、お前の才は分かった。しかし、しばらくの間、大人しくしていてもらえるか?」

 ……他の低ランクスキルも集めたいし、鶏舎も作りたいんだけど。


「なにかあったの?」


「もう勘付いていると思うが、ニコラは密偵組織の長だ。この間、希望者を探らせただろ?ジェイド領から来たスパイの殆どが、お前の調査もしくは暗殺が目的だったんだよ」

 やっぱり、噂だけじゃ誤魔化せなかったか…小二の餓鬼がコボルトを倒したり、騎士を言い負かしたりしたら、怪しまれるよね。


「分かった。しばらくは学業と修行に専念するよ。でも何か思いついたら、計画書を上げるから」

 成長する前に殺されたら、意味がない。姉ちゃんも守る為に、秘かに爪を研いでおこう。


 ◇

 ROPの判断基準がマジで謎だ。追加された座布団は全部で四枚。人材発掘が一枚で、姉ちゃんに叱られたのが三枚。ちなみにコボルト退治は未評価でした。

(これで座布団が五枚か……銀の座布団に変えるか。それとも、まだためておくべきか)

 ジェエルエンブレムをパワーアップさせれば、戦力を上げれる筈。でも、ネットショッピングは捨てがたい。

 しかし、没収の危険性もある訳で……。

(銀の座布団に交換。そしてすぐさまジュエルエンブレムをパワーアップ)


 頭の中にメッセージが響き渡る。


 “ジュエルエンブレムがパワーアップ オリジナルネームは人工ルビーです”

 人工ルビー?手に魔力を篭めてみると、親指代のルビーが浮かび上がってくる。

 そしてルビーの周りには魔法文字ではなく、日本語でこう書かれていた。

 『安心安全の日本製』と……俺のジュエルエンブレムはパチモンなの?

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