やばいスイッチ押したかも?

 お前はゲームの王様か!騎士が俺に渡してきたのは、何の変哲もない短剣。


「すいません。トール様が持てそうな武器はこれしかなくて……でも、ジュエルエンブレムを使えるトール様なら余裕ですよね」

 騎士は申し訳なさそうに頭を下げてきた……おーい、目が笑っているぞ。

(死人に口なし。俺を始末して適当な話をでっち上げるつもりなんだろうけど……底が浅いよな)

 善性を尊んでいるから、謀略が未発展なんだと思う。


「それでコボルトはどこに出るんですか?」

 騎士に話し掛けながら、カメラを起動する……良かった。ある程度好きな場所を映せる様だ。

(動かせる範囲は手が届く所だな。あの機能も……よし、大丈夫だ)

 

「町外れにある石切り場です」

 ……コボルトが石切り場?森に棲む魔物だぞ。

 遮蔽物のある所に連れて行きたいのは分かるけど、ちょっと無理がないか。


「そこまで案内してくれるのは、どなたですか?」

 あと俺領主の孫だぞ。質問される前に説明しろよ。日本の会社だと確実に説教だぞ。


「お守り役は俺だよ」

 声を掛けて来たのは、父さんと背丈が同じ位の騎士。横柄な態度とは裏腹に目に落ち着きがない。十中八九、俺を襲うつもりだろう。

 でも、なんでだ?コボルトの所為にしてまで、俺を殺すメリットなんてないと思うけど。


 特訓のお陰だろうか?修羅場に向かっているのに、平然としていられる。

(ピットブル型の殺気に比べたら、可愛いもんだな)

 何回も死闘を繰り広げたお陰で、殺気を感じ取れる様になっていた……出所は案内役の騎士。


「ここにコボルトが住み着いて、石工達が困っているんだよ」

 俺が案内されたのは、殺風景な石切り場。周囲には森どころか草すら生えておらず、荒涼とした風景が広がっている。

 採石場に着くと、騎士は俺の背後へ移動……話をする時は、相手の目を見て話しましょうね。


「コボルトはどこに巣を作っているんですか?」

 振り向いて話し掛けたら、見事に目を逸らされました……合コンで逸らされた事は何回もあるけど、男に逸らされたのは初です。

 俺はこの話を聞いた時、いくつかの疑問を抱いた。

 疑問その一、コボルトは本当にいるのか?

 コボルトの主食は、うさぎやネズミといった小動物。その他木の実も食べるそうだ。

どっちも石切りの辺では、獲れそうにない。


「あそこの採石場だ。早く行って退治してくれ」

 騎士の指し示した先にあったのは、真新しい採石場。丁度、岩の陰になっていてコボルトの姿を確認する事は出来ない。

(こいつ、コボルトの生態を知らないのか?ゴブリン並みに臆病な魔物なんだぞ)

 普通のコボルトは中型犬位の大きさしかない。だからオークや大型魔獣の恰好の餌になっている。

 こんな追いつめられやすく、上空から丸見えな所に巣を作るなんて考えられないのだ。

(採石場なら野良ゴーレムの方が説得力あったのに……そんな金ないか)

 この世界でゴーレムは、中々のお値段がするそうだ。なにしろ作れるのはジェイド伯爵家のみ。そして操れるのは一定のスキルを持った人だけらしい。


「分かりました。全部で何匹いるんですか?」

 スマホのカメラを起動。そしてインカメラに切り替え……ちゃんと騎士の姿が確認出来た。


「一匹さ。貴族様なら余裕だろ?」

 疑問その二、父さんは本当にコボルトに負けたのか?

 うん、確定。コボルトは群れで暮らす。そして父さんは何度もコボルトの群れを退治している。一匹のコボルトに負けるなんてありえない。


「どうですかね。コボルトにも色々いますから」

 まじでドーベルマン型やピットブル型に勝てたのは奇跡なんだぞ。ステータス操作していても、鬼の様に強かったし。

 角を曲がったら、確かにコボルトはいた。綱を付けられて、激おこなコボルトさんがいました。

 襲い掛かってきたコボルトを蹴り飛ばす。返すナイフで、ロープを切断。


「お前達さえ帰って来なきゃ、全部上手くいったんだよ!」

 インカメラに映ったのは抜刀しながら、俺に襲い掛かって来る騎士の姿。


「ストーンクリエイト……二人の部屋ルームフォアツー、足枷付き」

 相手の動きさえ見えれば、奇襲を躱す事は簡単だ。騎士の剣を避けた後、足を引っかけてコボルト君にプレゼント。邪魔したら悪いから、石で二人きりの部屋を造り上げる。しかもハンデの足枷付きだ。

 そしてお邪魔虫は無言で去るのだ。


 やばい。俺の第六感が危険を感知している。これは絶体絶命のピンチだ。


「トール……お姉ちゃんと約束したよね。知らない人に付いて行っちゃ駄目だって!」

 意気揚々と町に戻ったら、お姉ちゃ……お姉様が仁王立ちしていました……背後に阿修羅が見える。


「門番から坊ちゃまがフレイム家の騎士と馬車で出掛けたとの報告がありまして……詳しく調べたら、婿殿も怪我されたと聞きましたので、何があったのですか?」

 ニコラさんがカットインしてくれた。まさに天の助け。そこから、かいつまんでオブラートに包んで……少し捏造して刺激少なめにご報告。


「トール!貴方って子は!!どうして、そう無茶ばかりするの!」

 でも、お姉様はお気に召さなかった様でお怒りになっております。


「お姉ちゃん、ごめんなさい。耳を引っ張らないで」

 怒ったお姉様、ピットブル型コボルトより怖い説。


「それでその者は……お二人共、私の後ろに下がって下さい」

 ニコラさんが俺達を庇う様にして、前に出る。

(戻って来たか……ストーンクリエイトの持続時間短いもんな)


「この糞餓鬼っ!ふざけた真似しやがって」

 あの騎士が俺を追い掛けて来たのだ……それとお姉様、俺を庇わなくても大丈夫です。


「言葉に気を付けなさい。こちらにいらっしゃるのは、どなたなのかご存知なんですか?……それとも分かっていて、そんな態度をとっているのか?返答次第じゃ、たたでは済まないぞ」

 ニコラさんの言葉遣いが変わる。その迫力は凄まじく、例の騎士は何も言えなくなっている。


「分かって言ってますよ。そして父さんを襲ったのも、そいつですよ」

 疑問その3

 父さんの傷が、おかし過ぎた。どう考えてもコボルトにつけられた傷には思えなかったのだ。


「言い掛かりはよせ……ニコラ様、これは違うんです」

 俺に文句をつけようとして、直ぐに言い直す騎士……でも気持ちは分かる。今のニコラさんめっちゃ怖いもん。


「父さんの傷は背中にあった。コボルトの背じゃ、到底届かない場所だ。しかも、あれは刀傷……俺と戦った時、コボルトは何も持っていなかった。縄につながれたコボルトは、どこに剣を捨てに行ったんでしょうね」

 餓鬼だと思って侮ったな。こちとら何十年も矛盾展開と戦ってきた校正だぞ。少なくとも、俺が担当した原稿なら赤字入れまくりだ。


「もう直ぐ伯爵もおいでになる。レイン殿と一緒に弁明を聞かせてもらおう」

 ニコラさんが話し終えると、騎士は膝から崩れ落ちた。


 これにて万事解決……とはいかなかった。最後に超ド級の地雷を踏んでしまいました。


「お前、凄いな。俺と同い年なのにコボルトと戦うなんて」

 やんちゃな少年が興奮気味に話しかけてくる。初対面だけど、どこかで見た事があった。

 炎の様に赤い髪を短く刈り上げており、スポ根漫画の主人公みたいだ。

爺ちゃんが着くと同時に、この地を治める騎士の屋敷に移動。


 フォルテ・フレイム 年齢:八歳

 ジョブ:フレイム家次男(騎士見習い)

 髪の色:赤

 武器:大剣

 趣味:鍛錬

 好きなデートスポット:武闘場・武器屋

 好感度の上がる贈り物:奥義書・カツサンド 

 ジュエルエンブレム:ロードナイト ランクR オリジナルネーム・情熱(パッション)のレッド薔薇ローズ

 曲がった事が嫌いな熱血漢の彼。その所為で、レイラとは仲が良くないみたい。純情で恋には奥手だけど、きっと貴女を守ってくれる騎士になってくれる筈。

 

思い出した。こいつは主要攻略キャラの一人だ。

フォルテ・フレイム 属性は火。熱血漢の少年で、曲がった事が大嫌い。主人公の騎士を自任し、護衛を買ってでる。恋愛には奥手で初心。お姉様方の心を鷲掴みにしたキャラだ。


「凄いよね。その年で、ジュエルエンブレムを使えて戦闘までこなすなんて……僕はまだジュエルエンブレムを顕現出来ないのに」

 ポツリと呟いたのフォルテと顔のそっくりな少年。肩まで伸ばした髪は、血の様に真っ赤だな。フォルテより年上で、こちらは美術部にいそうな感じがする。

 でも、目がやばい。闇落ちしそうになっている。

 

 サングエ・フレイム 年齢:十一歳

 ジョブ:フレイム家長男(騎士見習い)

 髪の色:赤

 武器:レイピア

 趣味:絵を描く事

 好きなデートスポット:美術館

 好感度の上がる贈り物:絵画集、絵具

 ジュエルエンブレム:ロードナイト ランクA オリジナルネーム・マッドおしきレッド

 フォルテのお兄さんだけど、今はクラック帝国にいるみたい。弟想いの彼なら、新名の言葉に耳を貸してくれる筈。彼の優しい笑顔を取り戻してあげて。


レイラ・ルベールの悪行

その二、攻略対象キャラの兄に誹謗中傷を繰り返し、家出するまで追い詰める。ちなみに、そのキャラは敵に寝返る。

確か、こいつは悪役令嬢ねえちゃんにコンプレックスを感じて、闇落ち。そして魔王軍に寝返るやつだ。

姉ちゃんより先に俺が闇落ちスイッチ押しちゃったの!?


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