姉ちゃんを守る為なら
……不思議だ。異世界に転生して、早八年。今までで、一番リラックス出来ている。
「ここが
スラムだけあって汚いし、雰囲気も悪い……でも、ここは最高だ。
「おい、貴族様がスラムになんの用……坊主、ここは危ないから早く帰んな」
俺に話し掛けてきたのは、強面のフツメン。最初は機嫌が悪かったけど、俺の顔を見た途端優しくなった。
「どうしたんだ?」
強面の男に話し掛けてきたの、ポチャリ体型のフツメン。彼は俺と目が合うと、優しく微笑んでくれた。
「いや、馬車から子供が降りて来たから、貴族の餓鬼が冷やかしに来たのかと思ったんだけど、あの顔で貴族な訳ないよな」
当たり前だけど貴族にもフツメンは生まれる。でも男の言葉はある意味間違っていない。貴族にフツメンが生れると、高確率で養子に出されるのだ。
顔面淘汰と言うらしい……パパ、駆け落ちしてくれてありがとう。
「……あれ、領主様の孫じゃないか?ほら、駆け落ちしたお嬢様が連れて来た弟の方……可哀想に」
次にやって来たのは、眼鏡をかけたフツメン……そう、スラムにはフツメンしか住んでいなかったのだ。これほどコンプレックスが刺激されない場所があるとは。
「城を追い出されたら、何時でも来いよ……今からスラムに慣れさせておく寸法か……貴族も、悲しいもんだな」
言っていろ。このふざけた風習を、俺が改革してやる。
スラムに住んでいる人は、良い人が多いと分かっただけでも大収穫だ。
◇
……我が姉ながらチート過ぎる。
「トール、お帰り。どこに行ってたの?」
城に戻ると、高そうなドレスを着た姉ちゃんが出迎えてくれた。
ドレスを着ただけなのに、高貴オーラが半端ないです。血筋って凄い。
(なんか別人な感じがして、少し寂しいな)
「はくしゃ……爺ちゃんと開拓する土地を見に行っていたんだよ」
俺が伯爵と呼んでしまえば、姉ちゃんもそう呼んでしまうだろう。そうしたら伯爵との間に溝が出来てしまう。
「どんな土地だった?何が植えられそう?良いなー。私も行きたかったなー」
そう言って話し掛けてくる姉ちゃんは、俺の良く知っている姉ちゃんだった。
(どこで悪役令嬢ルートに入るんだろ?)
このまま育てば優しい貴族令嬢だと思う。ゲームのライラ・ルベールと共通しているのは、気の強さ位だ。
「ちょっと石が多いね。耕すのが大変そうだよ」
まじであの土地を耕すには根気がいる。耕しても土地改良もしなきゃいけないし。
「そかー。まあ、良い土がある土地を、ただで使わせてくれる訳ないよね」
姉ちゃんと他愛のない話をしていたら、ひそひそ話が聞こえてきた。
「廊下で立ち話なんて、お里が知れるわね」
「弟もジュエルエンブレムを使えるって言ってたけど、嘘じゃない?だってあの顔よ」
「なんで私達が農家の餓鬼に仕えなきゃいけないのよ」
メイド達の陰口である。俺達が農家から貴族にランクアップしたから、嫉妬しているんだろう。
文句を言っても聞き間違いで通す気なんだろうな。
(姉ちゃんの耳に入らない様にしないと……やべっ!滅茶怒っている)
姉ちゃんが頬を膨らませ、目を吊り上がらせている。
「トール、私注意しに行ってくる」
普通の女の子だと、大人に陰口を言われたら怯えるだろう……でもうちに姉ちゃんは気が強い。それに正義感も強いのだ。
(メイドからしたら厄介な相手だよな……あっ!)
もしかして、ゲームのライラもメイドに陰口を叩かれて、他人を信じられなくなったんじゃないか?
子供の姉ちゃんがメイドに対抗するとしたら、貴族の娘って立場を活用するしかない。
でもそれじゃメイドのフラストレーションが溜まるだけだ。陰口は更に悪化するだろう。
結果、ライラは心の壁を厚くして、他人に厳しくなったと。
「姉ちゃん、それより爺ちゃんの所に行こう。まだちゃんと話をしていないし」
爺ちゃんの所だけ声を大きくして、メイドに牽制を入れておく。勿論、爺ちゃんにちくる気はない。
でも、これで少しは大人しくなってくれる筈。その間に策を練っておかないと。
◇
姉ちゃんとメイドの関係を良好にする方法。それに必要なのは、お喋りで人の良いメイドさんである。
この城で、メイドに詳しい人。それは執事のニコラさんだ。俺はニコラさんにメイド達の事を告げた。
「そんな事があったのですか?早速その者達を解雇しますね」
ニコラさん、目がマジです。話が飛躍し過ぎだって。
「そんな事したら、余計にこじれちゃいますよ。ニコラさん、お喋りで人の良いメイドっていますか?」
出来たら美人なメイドも聞きたいです。そして俺専属にして下さい。
「数名思い当たりますが。それが何か?」
廊下で陰口を叩く位だ。お喋りが好きなメイドはいる筈。でも大事なのは、人が良いって事。
「その人達に俺達が村で幸せに暮らしていた事、夜襲で命からが逃げて来た事を言える範囲で伝えて下さい…姉ちゃんを悲劇のヒロインに仕立て上げて、同情をひくんですよ。そして爺ちゃんは過去のわだかまりを捨てて、娘一家に手を差し伸べた」
美しい行動が重要視される世界だ。賊に襲われた可哀想な子供を悪く言う奴は非難される筈。
「遅かれ早かれ夜襲に遭ったという話は広まりますしね……こっちで情報を統制するのが良策でしょう」
勿論、帝国のての字も出さない。突然幸せな生活を壊された可哀想な一家になれば良いのだ。
「それとこれは爺ちゃんの許可がいるんですが、俺達が帰ってきたお祝いとして、少額で良いので、一時金は出せますか?」
日本円で千円位あれば良い。人情話プラス現金、これは強い。
「分かりました。私にお任せ下さい」
結果、俺達に同情するメイドが続出。あのメイド達は居づらくなったのか、いつの間にか辞めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます