信じてくれますか?
移動中に色々試してみたけど、設定集の使い方だけが分からず仕舞い。
(設定を弄ろうとしても“条件を満たしていません”って、しか出ないし)
入国手続きを待つ間、設定集を再チェックしておきたかったのに。
色々試してみたが、解放条件は謎のまま。
(……騎士がこっちに来る?しかし、随分綺麗な鎧だな)
騎士の鎧は、ピカピカに磨き上げられており新品その物。鍛錬していないんじゃないかって位綺麗だ。
「そこの四人家族、ちょっとこっちに来い……随分不細工な餓鬼を連れているな。イルクージョンに入国したいんなら、分かるよな」
騎士を俺に視線をロックオンさせながら、手で親指と薬指で輪っかを作った……騎士が露骨に賄賂を要求して良いのかよ。
「不細工な餓鬼?私の子供が醜いとでも言うんですか?」
ママン、怒ってくれるのは嬉しいけど、この世界だと俺は確実にブサメンですので。
後、この手の論争は確実に被弾しまくるので、早めに切り上げて欲しいです。
「はっ!親の欲目だな……餓鬼、覚えておけ。今は優しいママでも、ジュエルエンブレムが使えないと分かれば、あっさり手の平を返して他人の振りをするんだぜ」
……さっきまでムカついていたけど、もう彼を責められない。多分、彼はこの世界の被害者だ。
「私もトールも、ジュエルエンブレムを使えます。つまり、アムール様に認められたって事なりますよね」
この気の強さは、悪役令嬢の片鱗なんだろうか。姉ちゃんは物怖じせず、騎士に言い返した。
姉ちゃん、俺のジュエルエンブレムは移植された物なんです。女神様に認められた訳じゃありません。
「この餓鬼っ!俺は騎士だぞ。言葉に気をつけろっ!不敬罪で斬り殺されたいのかっ!」
そう言うと騎士は剣を抜いた。でも、騎士からは殺気を感じない。いわゆる威嚇行為って奴だ。
当たり前と言えば、当たり前だけど騎士が自国の民に暴力を振るうのは大罪だ。でも、俺達はまだイルクージョンの国民ではない。
危険人物と認めたので、追い払ったと言い張る事は出来る。
(多分、お咎めなしだと思うし)
その証拠に騎士の同僚は、検問から動こうとしない。
「確かに不敬罪ですね……愚か者っ!そこにおわす方が、誰か分からないのかっ!ルーベル伯爵のご息女ライラ様であるぞ……お久し振りでございます。お嬢様」
突然一人の中年男性が間に入って来た。しかも、ただの中年男性ではない。
激シブのイケオジである。ロマンスグレーの髪に、映画俳優顔負けの容姿。
絵に描いたような素敵なおじ様である……同じ中年男性なのに、前世の俺と大違い。
月とすっぽんじゃなく、月とダンゴ虫位違う。
「ニコラッ!なんで、ここに?」
どうやら母さんの知り合いらしい……うん?
スマホにメッセージが届いた。
『攻略対象キャラと遭遇したので、設定集を解放します』
ニコラ・アルジャン 年齢:49
ジョブ:ルーベル伯爵家執事
髪の色:ロマンスグレー
武器:杖
趣味:紅茶を美味しく淹れる事
好きなデートスポット:喫茶店
好感度の上がる贈り物:アンティークのティーカップ
ジュエルエンブレム:ブラッドストーン ランクS オリジナルネーム・
ルーベル伯爵家に仕える執事。前大戦で多くの戦功を上げた英雄。優しくダンディなおじ様。戦いだけでなく、恋も大ベテラン。貴方を大人の世界に連れて行ってくれるかも?
……いらない情報が多過ぎ!つうか、これ俺がチェックしていたキャラ紹介ページじゃん。攻略情報が欲しいんですけど。
「奥様が残された宝石には、魔法を掛けておいたんです。お嬢様が宝石を手放される事があったら、旦那様に分かる様しておきましたので」
いかにも母さんの事を心配していましたって感じはしているけど、この男はかなりの狸だ。
形見の宝石を手放すって事は、生活が困窮している証である。恐らくお嬢様育ちの母さんが、貧乏生活に耐えらなくなったら、直ぐに連れ戻すつもりだったんだろう。
「そうなんですか……ニコラ、お願いがあります。ルーベル領の開拓に参加させてもらえませんか?」
母さんはそう言うと、ニコラさんに向かって深々と頭を下げた。
「嬢様、お止め下さい。それに開拓なんて、とんでもございません。旦那様がお城でお待ちしておられます。勿論、ご家族四人一緒に来て欲しいそうです」
ニコラさんの誘いに母さんは、静かに首を振った。
「焼き討ちに遭ったとは言え、私も自分の意思でルーベルの家を出た身です。そこで甘える訳にはいきません。それに村のみんなを置いて、私達一家だけ、城に入る訳にはいきませんし」
焼き討ちと聞いた瞬間、ニコラさんの顔色が変わった……まあ、ポリッシュ共和国が漏らす訳ないよな。
「焼き討ちですと!……そんな馬鹿な」
恐らくポリッシュ共和国が緘口令を敷いたんだと思う。村を焼き討ちされた上に、賊を逃したなんて恥でしかない。
「村のみんなに聞いてみて下さい。ちなみに他国の貴族を頼れって言ったのは、息子のトールです。ジュエルエンブレムも使えるし、中々面白い子なんですよ」
ママン、なんてキラーパスを出すんですか。息子は平穏に生きたいのです。
「トール君、私と一緒に来て頂けますか?もし、私を説得出来たら、村の方を開拓民として受け入れますよ」
逃げられなくなったし、ハードル急上昇。
◇
連れて来られたのは、検問にある取調室。
「こんな所にお連れして申し訳ございません。周囲に漏れたら不味い話ですので……それで先程、お嬢様が言われた言葉は本当ですか?」
さて、どうする。子供口調で話すべきか。それとも素の口調で話すべきか。
「焼き討ちに遭ったのは、本当です。そして元騎士の村長や父さんは、訓練を受けた兵士の動きだって言ってました」
次の問題は、どこまで情報を話すかだ。もし、ルベール家にお世話になるのなら、味方が必要だ。それも情だけでなく、実利も含めて味方になってくれる存在。
「証拠はありますか?」
そうきたか。餓鬼の話を鵜呑みにして、他国を糾弾したら良い笑い者だ。
「証拠はありません。ただ損にならない話なら持っています……俺は前世の記憶があると言ったら、信じますか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます