ROP

 まずい。このままでは、姉ちゃんが悪役令嬢になってしまう。

 でも、今の姉ちゃんは悪役令嬢と程遠い存在だ……なにが切っ掛けで悪役令嬢化するんだ?

(レイラ・ルベールって言ったら、あれだぞ。主人公をビンタしたり、生まれ故郷を焼き払ったり……あっ!)

 もしだ。もしも、あの時俺、両親や俺、村の誰かが死んでいたらどうなった?

 姉ちゃんは暴走して、もっと強力な火炎魔法を使っていたかも知れない。

 逃走経路に敵が潜んでいる事に気付かなかったら、先に逃げた人達は殺されて姉ちゃんに罪をなすりつけれていたかも知れない。

(誰かが姉ちゃんを悪役令嬢に仕立てようとしている?)

 何かが見えてきて背筋が寒くなる。まだ予想の段階だけど、危険性は少しでも排除しなくてはいけない。


「イ、イルクージョンまで行くお金はどうするの?」

 今俺が預かっている金では家族四人で一週間持つかどうかだ。頼む、行き先を変えてくれ。


「それなら心配ないわ……これを売るから」

 母さんはそう言うと、虚空から何かを取り出した。それは巨大なルビー、母さんの宝物だと聞いている。

 農婦には分不相応な物だと思っていたけれど、元伯爵令嬢なら納得だ。


「ライラ、それはお義母様の形見じゃないか!」

 お義母様……父さんと母さん格差婚なんだろうか?襲って来た騎士が駆け落ちとか言っていたし、その可能性は高い。


「そうよ。でも大事な家族や、村のみんなを救う為なら惜しくないわ」

 村のみんなが母さんの言葉に感動している……敵の標的が俺達一家である可能性は黙っておこう。

(一番の可能性はクレオ君だ。俺達一家の為に、あそこまで大掛かりな襲撃を掛けるのは割に合わない)


「父さん、この近くで一番大きい町はどこ?出来れば、イルクージョン行きの馬車がある所が良いんだけど」

 村に毛が生えた様な、この町だと高値でルビーを買い取りしてくれる店がない。

 何より一刻でも早く、遠くに行きたいです。なんだかんだ言っても、襲われるのは怖いのだ。


 初夏の道を馬車がひた走る。沿道では農家が麦の刈り取りをしている。本当なら俺達一家は収穫作業に汗を流していたと思う。

生まれ育ったポリッシュ共和国とも、これでお別れだ。

母さんのルビーは驚く程の高値で売れた。そして希望者分の馬車をチャーター……金の使い方に迷いがなく、お嬢様なんだなと思い知らされる。


「今から耕して夏撒きの野菜間に合うかな?」

 姉ちゃんが心配げに呟く。麦を収穫し終えたら、今度は秋採れ野菜を作る。なんでもブリーゼさんからルベール領で開拓民を募集しているって話を聞いたそうだ。

 父さん達は、それに応募するとの事。

 まあ、会った事もない孫を城に住まわせる可能性は低いし、姉ちゃんも貴族にはなりたくないらしい。

 悪役農民令嬢……うん、ヒロインの方が強いな。


「良い土地を借りれると良いんだけどね……そう言えば父さんと母さんはどうやって知り合ったの?」

それが分かれば襲撃の糸口が掴めるかも知れない。


「父さんは元々ポリッシュ共和国に仕える騎士だったんだ。ある事件でイルクージョンに派遣されて、そこで母さんと出会ったのさ」

父さんは爽やかに笑っているけど、客先派遣の社員が社長令嬢を口説く様なもんだぞ。当時の上司は胃を壊したと思う。


「その頃私には婚約者がいたんだけど、お父さんの事を好きになっちゃって……そして駆け落ちしたのよ」

我が両親の事ながら頭がスイーツ過ぎないか?確実に国際問題になるだろ。


「良く許されたね」

母さんの家は伯爵家だ。当然相手も、それなりの家柄だと思う。


「教会に天使様からお告げかあったのさ。アムール様が二人の結婚を祝福されているって」

 表面上は、元婚約者も納得したらしい。しかし政治的な判断で、父さん達は国外追放になったそうだ。


「帰ったらまずいんじゃないの?」

 そいつがまだ独身だったら、煽りにいく様なもんだぞ。いくらアムール教の教えに弱者に優しくとあっても、限度がある。


「その人も結婚して子供もいるから大丈夫よ」

 ソースはブリーゼさんらしいけど……そんな単純な話じゃないと思うんだけど。

 いくら家族でも長時間一緒にいると、会話がなくなる。姉ちゃんは疲れて寝ているし、父さんはずっと外を警戒している。

(今のうちにROPをチェックしてみるか)

 こっそり乳首を触り、スマホを立ち上げる。スマホの画面が出来たので、ROPをタップ……何故か畳の部屋が映し出された。部屋の真ん中には座布団らしき物が二枚重ねて置いてあった。

 今は突っ込んだり、意味を探る時じゃない。ここで何が出来るか、調べておくんだ。

ポイント交換画面をタップしてみる。


召喚能力            金の座布団一枚

ネットショッピング       銀の座布団五枚

ジュエルエンブレムパワーアップ 銀の座布団一枚

植物図鑑            銅の座布団二枚

イルクージョン王国基礎知識   銅の座布団二枚

設定集ダウンロード       銅の座布団一枚

魔物基礎知識          銅の座布団一枚

 ……まじで座布団だったのか。でも金の座布団とか銀の座布団って、なんなんだよ。

 このままじゃ埒が明かない。説明の項目をタップしてみた。

どうやら動画で説明するらしい。

 

「ようこそ、R《ロッキ》O《おおぎり》P《ポイント》へ。ここではROPの説明をして上げます。話は簡単、私が貴方の行動を面白いと思ったら、座布団を上げます。逆につまらないと思ったら、座布団を取り上げるので気をつけて下さいね」

 ……笑○かよ!座布団の数え方は枚だ。ページとポイントを掛けているからPなのか?


「銅の座布団を五枚集めると、銀の座布団に交換出来ますよ。そして銀の座布団を十枚集めると金の座布団と交換してあげます」

 思わずチョコボールかよと突っ込みそうになる。でも、駄目だ。この人は突っ込んだら負けな人だ。

 とりあえず設定集をダウンロード、残る座布団は一枚……召喚能力、遠いな。


 道中はスムーズだった。そう、道中は……。


「に、入国審査時間が掛かりそうだね」

 イルクージョンの国境に着くと、物凄い行列が出来ていたのだ。俺がキョロキョロしていると、気の良さそうな商人のおっさんが近付いてきた。


「三日くらい前にジェイド伯爵領で事件が起きて、多数の死者が出たんだとよ。その所為で、入国審査が厳しくなったのさ。坊主、イルクージョンは俺達みたいな男は生きづらいけど、頑張るんだぞ」

 なんでもジェイド伯爵領で、遠足中の子供が野盗に襲われるって事件が起きたらしい。

(野盗?まさかな)

 背中を嫌な汗が伝っていった。

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