姉ちゃんは悪役令嬢?

この世界に転生してから、いつも違和感を覚えていた。悪人が少なく、美男美女ばかり。こう聞くと天国みたく思えるけど、なにか引っ掛かる物を感じていた。

 俺達が避難した事を聞くと、町の人達はこぞって家に迎え入れてくれたのだ。


「皆様、大変でしたね。自分の家だと思って、ゆっくりくつろいで下さい」

 そして俺達一家を泊めてくれたのは、この町の町長さん。どう考えても村長一家を招く筈なんだけど……思いっきり作り笑顔なんだよな。

(イケメンだけど、なんか胡散臭いんだよな)

 心の底では、俺達一家を歓迎していないと思う。


「ありがとうございます。今夜、一晩泊まらせて頂きます」

 父さんが町長さんに向かって深々と頭を下げる。それに倣って俺も頭を下げた。


「気にしないで下さい。全てはアムール教の教えですから」

 ああ、そう言う事か。町長は親切心や同情で止めてくれるんじゃない。

 アムール教は見た目の美しさも重視するが、行動にも美しさを求める。困っている人助けるのは、アムール教徒の義務と言っても過言ではない。

 故に行動が美しくない者は軽蔑されてしまう。

(ストレスが半端ないだろうな……町長としては、きつい選択だし)

 町長って立場上、嫌だけど断れなかったんだろうと察する事が出来る。

 俺達がある意味招かれざる客、とんでもない爆弾を抱えた厄介者なんだし。


 ◇

 いくらなんでもおかしい。俺達が案内されたのは、客室だった。納屋でも文句を言えない立場なのに。


「父さん達は明日村のみんなで今後の事を話し合う。お前達も早く寝るんだ」

 今後か。村よりは大きいけど、ここは規模の小さい町だ。働き口は多くない。

(下手な考え休むに似たり……俺は俺に出来る事をしよう)

 頭の中に埋められたスマホを鑑定してみる。


 鑑定結果 スマホ

 スマホっぽい事が出来るスキル。レベル1 充電は魔力で行える。容量は筋力や魔力を上げる事で増えていく。 状態電源オフ(電源は右乳首にあります)

 ……どこに電源スイッチ設置してんだよ!

 ベッドに潜り込み、電源を入れてみる。

(これは懐かしのスマホの画面。使えるアプリが鑑定と懐中電灯……それとROP?)

 とりあえず鑑定をタップしてみる。今ダウンロード出来るのは異世界基礎知識・植物基礎知識魔物基礎知識・設定集の四つ。それぞれ1P必要との事。俺が今持っているのは4Pらしい。

(欲しいのは、異世界基礎知識と植物基礎知識だな……えっ!?)

 頭の中に膨大な量の知識データが流れ込んできて、俺はあっさりと気絶してしまった。


 ◇

 快適とは程遠い目覚めである。そりゃ、そうだ。あれは気絶の方が近いんだし。


「おはよう、寝坊助さん。さあ、会合に行くよ」

 事が事だけに村人全員集まって、今後の方針を決めるそうだ。


「会合は町の外でやるそうだ……流石に会場までは甘えられないしな」

 何でも会合は町のちかくにある草原でやるらしい。

 これはチャンスだ。せっかく新しい力を手に入れたんだ。色々と試したい。

(植物を鑑定っと……マジかよ!)

 ……植物基礎知識、凄かった。凄かったけど、使い辛い!

 これじゃ、前に進めません。


「トール、どうしたの?あの時、足を痛めたんじゃないの」

 俺が立ち止まっていると、心配した姉ちゃんが近付いてきた。

足が痛いんじゃない。視界が文字で覆いつくされてまともに歩けないんです。

 どうやら目に映る植物全てが鑑定対象になっているらしい。


「だ、大丈夫だよ。少し疲れただけだから」

姉ちゃんと会話しながら、鑑定を立ち上げる。

(スマホなら設定も出来る筈……あった、これだ)

 設定で食べられる植物に限定してみる……それでも、かなりの数が表示され、精度に不安がでてしまう。

 とりあえず足元に生えている雑草を鑑定


 鑑定結果 ビタークリセンマム 菊科の植物で苦み、えぐみが強い。茹でて水に晒せばなんとか食べられる 食用適性 D 防虫効果抜群、虫下しにも効果的

 食糧集めをしたかったんだけど、使用は後からにしよう。


(く、空気が重い……まあ、正にお先真っ暗状態だしな)

 一晩たって現状が見えてきたのか、皆顔が暗い。


「さて、今後の事じゃが、国内に頼れる親戚がいる者はおるか?」

 村長が問い掛けるも、誰も手を挙げない。そんな人いたら、あんな辺鄙な村に住んでないよね。


「首都で働いている息子ならいるけど……商家の下働じゃ、仕事の斡旋は無理だよな」

 隣のおじさんが深い溜め息を漏らす。学校のない村だから、働きにでても下働きか下女位しか働き口がない。

 当然、給金は雀の涙。自分の生活が精一杯で、家族の生活を助けるなんて無理だと思う。

「働くと言っても農家の経験しかないし……港町に行けば、荷運びの仕事があるんじゃないか?」

「ここから港町まで行くのに、どれ位時間が掛かると思っているんだ?その間の生活費をどうするんだ?」

 色んな意見が出るけど、どれも決定打に欠けた。

(みんな大事な事を忘れているよな)

 口を挟みたいけど、今の俺は子供。何か言っても相手にされる筈がない。


「トール、何か言いたそうじゃな。お前は変に世事に詳しい。言いたい事があるなら言ってみなさい」

 村長が俺に声を掛けてきた。出来れば目立ちたくないんだけどな……でも今は非常時だし。


「今の俺等を雇ってくれる所なんてないですよ。あれだけ大掛かりな夜襲を掛けて、一人も死んでない。つまり、ここにいる全員が事件の生き証人になります。あいつ等にしてみれば、目障りこの上ない存在なんですよ」

 一歩間違えば戦争になってもおかしくない事件である。目的は分からないんだけど、多分失敗している。実行犯は説教だけじゃ済まないだろう。


「……トール、それじゃどんな所に行けば良いと思う」

 父さんが真剣な目で俺に尋ねてくる。生意気な事を言うなと怒られると思ったんだけど。


「力のある貴族に庇護を求めるのが一番だと思う」

 クラック帝国への生きた牽制材料になるのだ。力がある貴族なら喉から手が出る程、欲しい存在だ。

 後は色々理由をつけて、イルクージョンとクラック帝国を除害すればミッションコンプリート……問題は、そんな雲上人にどうやってアポを取るかだ。


「皆俺と一緒にイルクージョンに行かないか?」

 父さんは何かを決意したかの様に、ゆっくりと口を開いた。お父様、そこは駄目。ゲームに近付くから嫌です。


「カイル……良いのか?」

 村長が真剣な表情で問い質す。とても口を挟める雰囲気じゃない。


「ええ、ルベール伯爵も俺が立ち去れば許してくれますよ」

 ルベール伯爵?この世界で一番聞きたくないワードなんですが。


「貴方、大丈夫よ。レイラもトールもネームド級のジェルエンブレムを持っているわ、きっとお父様も受け入れてくれるわ」


お父様?この流れでいくと、母さんの父さんは伯爵様って事になる。

 イルクージョン王国のルベール伯爵、俺はトール・ルベールになるのか。

 そして姉ちゃんは……悪役令嬢レイラ・ルベール!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る