転生リーマンは子守りをする

 いくら服飾が発展した村でも、俺は農家の子倅。お洒落な服なんて持っていない。

 今着ているのも茶色い貫頭衣チェニックに荒縄でしめるズボン。ちなみに親戚のおさがりです。


「村長おはようございます。トールです」

 深々と頭を下げる。リーマン時代の名残りなんだろうか。役職が付いている人には弱いのです。


「トール、良く来たな。今日はクレオさ……の事を頼むぞ」

 この村の村長は厳つい。なんでも昔は騎士をして、戦で活躍したそうだ。

(今クレオ様って言おうとしたよな……元騎士が様を付けるって)

 もしかしたらとんでもない地雷原に突っ込んでしまったんだろうか?


「おは……おっす。僕の名前はクレオよろしくな」

 うん、これはがちでやばいぞ。まず高貴オーラが半端ない。

 服は真っ白なシルクのシャツに、ビロードの短パン。顔は中性的で髪型はおかっぱ、ショタ好きが見たら大興奮だと思う。


「トール・ブークリエ、八歳です。今日はよろしくお願いします」

 村長の態度、そして豪華な服装……クレオ君は貴族の子供だと思う。なんでこの田舎にと疑問に思うけど、下手に藪をつついて蛇を出したくないです。


「それなら僕と同い年か……だったら、その大人みたいな言葉はやめろ。友達は、そんな言葉使わないんだぞ」

 多分俺がクレオ君と同い年だったら、カチンときていたかも知れない。でもおじさんは頑張ってガキ大将ぶる姿が微笑ましいのです。

(大人みたいな言葉か……大人イコール敬語ってのも、寂しいもんかもな)

 周りにいるのは、家に仕えている配下ばかり。当然、敬語を使うだろうし、壁もあるだろう。


「ああ、良いぜ。クレオ、お前は何をして遊びたいんだ?」

 横目で村長を見てみるが、怒る様子はなし。クレオ君は身分を隠しているから、言えないのかも知れない。


「僕、剣の練習がしたい。お父様は“お前には必要ない”って許してくれないんだ」

 まあ、ジュエルエンブレムを使える様になれば、剣技も上手くなるみたいだしね。

 それより加護を受ける為に、ダンスや詩のレッスンを受ける貴族の子弟が多いそうだ。


「それなら良い場所があるぞ。俺の秘密の場所なんだぜ」

 子供の好きなワードその1、秘密。俺も昔秘密基地作ったんだよね。


 ◇

 俺がやって来たのは、畑の近くにある空き地。木で囲まれていて、周りから見えない。近くに大人はいるけど、目線は気にしなくて良い。秘密基地と呼ぶにふさわしい場所だ。


「すげー!これトールが作ったのか?」

 空き地に置いてあるのは木で作ったベンチと打ち込み台。

 周囲は森なので、材料には事欠かない。基本自給自足だから、大工道具は各家庭にある。


「ああ、それと練習には、これを使うんだ」

 ベンチの下に置いてあった物をクレオに手渡す。


「これは木の棒?でも凄く軽いね」

 ジュエルエンブレムの弊害なのか、この世界では武術は殆んど発展していない。当然、練習道具は手付かずの状態だ。


「シナイっていうバンブーで作った剣さ」

 普通竹を乾かすには、数年かかる。でも魔法で乾かすと、数ヶ月で竹刀を作れるのだ。ちなみにベンチに使った木材にも乾燥を使いました。


「バンブーで作った剣?使ってみても良い?」

 子供は興味のある玩具を預けておけば、勝手に遊ぶ。俺も一緒に鍛錬していれば、それを真似するだろうから時間が潰れる筈。


 ◇

 子供の体力って凄いな。クレオは竹刀に夢中になって、二時間位鍛錬していた。

 今は休憩がてら、村の近くを流れる川に来ている。


「これ飲んでみるか?ムギチャって言うんだぜ」

 川に入れて冷やしておいた竹筒をクレオに手渡す。


「美味しい!僕は、ジュースよりこっちの方が好きだな」

 この世界のジュースは果物を使った生絞りジュースの事だ。ミキサーなんてないから、普段飲み出来るのは一部のお金持ちである。


「それなら良かったよ。違う遊びしようぜ」

 玩具なんてないけど、暇潰しの引き出しは沢山持っている……前世でもリア充なんて言葉とは無縁だったので、暇つぶしの引き出しなら沢山持っているのだ。


 ◇

 それから俺達は毎日の様に遊んだ。〇×に木登り、魚釣りにけんけん。お陰ですっかりクレオに懐かれています。

 竹刀をあげたら“宝物にする”って喜んだ。


「トール、僕冒険してみたい。少し遠くに行ってみたいな」

 冒険か。ゴブリン騒動が解決していないから、遠くに行くのは危険だ。

 近場で満足させられる物……。


「それじゃ木苺食べに行くか。俺のとっておきを食べさせてやる」

 あそこなら村と離れていないから、安全だと思う。

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