成就しない系ラブコメ!

知脳りむ

いつか、素直に話せたらいいな

「先輩っていつも一人ぼっちですよね! 友達いないんですか?」


 と、昼休みに三年生の教室へ訪れては言いに行ってみたり。


「うわ、なにそのストラップ、オタク臭満載ですよ? こんなの付けてるからモテないんじゃないですか?」


 と好きなものを否定してみたりしてきた。

 私はいつだってそうだった。

 先輩をからかって楽しんでいた。

 ――でも、今思うと――先輩からするとそれはからかいではなかったのかもしれない。

 私が現れると、先輩はいつもこんなことを言う。


「お前には関係ないだろ! もういい加減にしてくれ!」


 そんなことを言われた。

 言われ続けていた。

 でも、それでも、私は彼のことが好きだった。

 それに、彼だって本当は私に話しかけられて満更でもないのだと思っていた。

 あくまで『そういうスタンス』なのだと思っていた。

 だから、嫌がっていても、それをやめなかった。


「あれ、先輩今日もぼっちで登校なんですか? 朝から一人とかほんと寂しい人ですね! 私が来なければ、今日一日会話ゼロだったんじゃないですか?」


「うるさいな、そ、そういうお前だって一人じゃないかよ……」


「残念、私はあっちに友達待たせてるんで。先輩が一人でいたからからかいに来ただけですよ」


 そのやり取りをしている時だけは先輩は私を見てくれる。

 私がそうやって話しかければ、彼の視線は私に注がれる。

 だから、そうしていた。

 彼の視線は憎しみのこもっているものだとも知らずに。


「……なんなんだよお前! いつも僕のところに来て悪口ばっか言いやがって!」


 私が先輩の容姿を貶してしまった時、彼は今までにないくらい声を上げた。


「え、な、なんですか。そんな必死になっちゃって、そこまで大袈裟なことじゃ――」


「黙れ! もう沢山なんだよ! お前がいなければ……お前がいなければっ!」


 彼が叫んだ時、同時にホーム内にアナウンスが流れていた。

 今までと明らかに違う。

 それは本当に嫌そうで、本当に辛そうなもの。

 悲痛な表情をしているのに、私はやっと気づいた。

 でもそう気づいた時には、もう後戻りはできなかった。


「……もうほっといてくれよ。お前のことなんか大嫌いなんだよっ!」


「えっ……」


 そう言われた衝撃で、視界が霞んだような気がした。

 そうだ、その時から――私はあの時のことをよく覚えていないのだ。

 ただ、朧気に通過電車が遠くに見えた。

 それが、駅にどんどん近づいてきて、像が大きくなってくる。

 ついに急ブレーキは間に合わず警笛を鳴らし始めて――




 昼休み、教室の中は騒がしく様々な生徒の声が聞こえてくる。


「ねーねー、最近うちの生徒に自殺した人がいたの知ってる?」


「あー、知ってる知ってる、三年生の先輩でしょ?」


「そうそう! その人さ噂だけど、一年生の後輩の女子に虐められてたんだって!」


「えっ、ウチらと同じ学年の女子に? あーでも、自殺するってことは相当な虐めだったのかなあ」


「じゃない? どんなことしたんだろね?」


 私は、その噂話を幻聴だと思い込むことに必死だった。

 あの肉片だって、幻覚。

 嫌に気味のいい音を響かせて、ぐちゃぐちゃのミンチになった幻覚だった。

 だからこれだってきっとそうだった。

 


 そうだ。

 先輩のところへ行かないといけないのだった。

 先輩のために、今日はお弁当をつくった。

 どんな顔をしてくれるのかな。

 会うの楽しみだな。


 三学年の階層へ行くために階段を駆け上がる足取りは弾んでいる。

 急には無理だけど、今日は少し素直に話せたらいい。

 そうしていつかは、この気持ちを正直に話すことが出来たらいい。

 弁当箱を抱える私はそう思っていた。

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