病人として思うこと

 駿也は44歳のバツイチの女性に恋していた。


 名前は弥生さん。ミステリアスな雰囲気だが笑顔が可愛くて目がクリクリしている女性だ。駿也は28歳だ。年齢は16歳離れているが、いつも行っているカフェでたまたま隣に座ったときに、駿也がアイスコーヒーをぶちまけてしまい、弥生さんのスマホにかかってしまったのだ。偶然弥生さんのスマホは防水仕様で事なきを得たが、駿也はちょっとヒヤヒヤした。


 駿也がすみませんというと弥生さんはニコニコして大丈夫ですよと言った。それが恋のはじまりだった。


 弥生さんは毎週、金曜の朝にカフェに来る。駿也もこれからは金曜の朝にカフェに行くことにした。


 もちろん弥生さんに会うためだ。


 弥生さんはいつもピンクのカーディガンを羽織っていて、髪は茶髪で、化粧は薄めだが、若いときはかなりモテただろうなと思わせる独特な雰囲気を持っている。


 弥生さんとはその後、毎週隣に座って一緒にコーヒーを飲みながら、緊張しながら、ぎこちなくおしゃべりした。


 駿也は統合失調症で、今は作業所に通っているが、弥生さんは何の仕事をしているのか、気になった。


 駿也は弥生さんに何の仕事をしているのですかと訊くと、弥生さんは私は適応障害で、今は何も仕事をしていないの、と言った。


 駿也は特に驚かなかった。


 メンタルダウンしている人など、何人も知っているからだ。  


 逆に親近感が湧いた。  


 そしてこのとき、駿也は自分が統合失調症だと弥生さんにカミングアウトした。


 弥生さんは目を見開き驚いていた。


 でも病気の話は趣味の話にすぐ脱線した。


 今度、お食事に行きませんか?と駿也はある日言った。


 弥生さんは「いきましょう」と行った。


 予定を合わせようということになったが、ふたりの予定はなかなか合わなく、一ヶ月後になった。


 そして2週間がたち、ある日の午後、弥生さんから、「彼氏に駿也さんと食事に行くと言ったら、二人で行くのはやめてくれ、と言われた」とラインがきた。


 駿也は直感で、弥生さんは本当は彼氏なんかいないけど、僕と食事に行くのが嫌というか、ちょっと気まずいと思っているのだろうなと思った。でも本当に彼氏がいるのかもしれないなとも思った。


 駿也はしばらく、落ち込んだが、まあ、そういうこともあるさ、と気を取り直した。こればかりはしょうがない。


 元気出していこう。


 また出会いがあるかもしれない。


 駿也は相変わらず、金曜の朝にカフェに行くが、弥生さんはもう来なくなった。


 この前に弥生さんに訊いたことがある。


 彼氏が統合失調症だったら、嫌ですか?と。


 弥生さんは「そんなことないですよ」と言っていたが、内心どう思っているか、わからない。


 もし、統合失調症に偏見を持っていて、駿也のことをただの病人と思っていたら、残念だが、もしそう思われてもしょうがないなとも思った。


 駿也の希望だが、弥生さんには駿也のことをただの病人と思うのではなくて、ひとりの男として考えてくれたなら、うれしいなと思った。


 駿也はある日の春の朝、地元の氏神様に参拝し、「いつも護っていただき、ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。もし僕に何かできることがあれば、何なりとお申し付け下さい。」と心の中で言った。


 そしてこのあと、駿也に思いもよらぬ、出会いが訪れることになる。

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