出会い
春のある日、市のブックフェアが開催された。
駿也は自転車を漕ぎ、会場に向かった。ポカポカした陽気の中、風を切り裂き自転車を漕いだ。生ぬるさと冷たさの混じった風が心地良い。
会場に着くと、人が10人ぐらいいた。意外と人が少ない。
駿也は数人に挨拶した。
年齢層は老若男女、それぞれだ。
その中で駿也は女子大生と思われる少女に話しかけた。下心はなかったとは言えない。
「こんにちは」
「こんにちは〜」
女子大生は歌うように言ったあと、風花ですと名乗った。
「駿也と言います。よろしくお願いします。数冊本を持ってきました。もしよかったら見ませんか?」
「はい、ぜひぜひ」
僕は新海誠の「言の葉の庭」と「秒速5センチメートル」を見せた。
「新海誠好きなんですか〜?」
「はい、大好きです。でも村上春樹は嫌いです」
さり気なく爆弾発言を織り交ぜてやった。
「えぇ~、わかる気がします。私も村上春樹は何が言いたいのか理解できなくて、ちょっとついていけないです。村上春樹のファンの人も本当に村上春樹の小説を理解しているのでしょうか、と思います」
「こんなことネットで言ったら炎上しますね、ハハハ」
「絶対炎上しますよ、ここでしか言えません」
「風花さんは何か本をもって来られましたか?」
「はい、東野圭吾の(赤い指)を持ってきました」
「東野圭吾、いいですね~。貸してもらってもいいですか?」
「いいですよ」
風花はリュックを開けて、東野圭吾の(赤い指)を取り出そうとした。その時リュックの中が見えた。リュックの中には村上春樹のノルウェイの森が入っていた。
駿也はしまったな〜と思った。風花は村上春樹のファンだったのだ。
風花は無理をして、駿也のブラックジョークに付き合ってくれていたのだ。
申し訳ない気持ちになったと同時に、心がポカポカしてきた。
風花はマスクをしているが、目がクリクリしていて、可愛らしい顔をしている。
駿也はちょっとドキドキしてきた。
駿也は赤い指を受け取った。
「もしよかったら、僕の新海誠の本もお貸ししましょうか?」
「じゃあ、借りよっかな〜」
風花は駿也から「言の葉の庭」と「秒速5センチメートル」を借りた。
「あの〜、これいつ返せばいいですか?」
「2週間後にまた会いませんか?」
「わかりました。これ私の連絡先です」
月の引力が二人を引き付けたのだろうか。
今日の夜は満月だ。
もしかしたら、神様が二人を引き合わせたのかもしれない。
駿也の心は春の陽気のようにポカポカと温かくなっていた。
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