第4話 持つものと持たざるもの
龍彦の家から学園に戻ってきたまふゆ。
寮に向かっていると、寮の前に奇妙な人集りがあることに気づき、まふゆは深いため息をついた。
「待っていましてよ。柊まふゆさん」
金髪の長い髪を靡かせて集団の真ん中にいる人物は、寮に戻ろうとしたまふゆに声をかけた。
「…別に約束してないし。ずっと待ってたのなら暇人ね。リーシャ。」
リーシャ。
まふゆがそう呼んだ人物は『リエラ・シャルロット・フローライト』という少女。
まふゆとはクラスメイトの彼女だが、世界でその名を知らない人は居ないともされる『フロン社』という大企業の社長令嬢であり、この学園で最も高いカーストに立つ人物だった。
彼女の言葉一つで世が動きかねないほどの人物であり、生徒達は時に彼女を恐れ、時に彼女を崇拝していた。
「…その変なあだ名やめてくれませんこと?不快ですわよ。…ごほん、まあ、貴方が駅から出てきたことを知ってこちらに参った次第です。」
「何。わざわざ私に言いたいことがあると?」
「ええ。…先日の件に関しまして、貴方にお詫びをと。」
直近の出来事から、恐らく大会の日の出来事の話であるとまふゆは確信した。
「貴方自らが出張ってまで?」
「ええ。彼女達の愚行は私を想っての行為でしたので。」
「ふぅん」
「あの子たち…正確にはあの子の家族にはフロン社の名の下に、社会的制裁を。彼女達が脅しにかけた生徒にも貴方同様に、謝罪と賠償をさせていただきますわ。」
ふふんと、胸を張って言うリエラ。
まふゆはそれをみて「…呆れた。」と言葉を投げ捨てた。
「何ですって?」
「呆れるでしょ。そんなの。何の解決にもならない。貴女の為に動いて、その結果貴女の私欲で潰される家族。人の心はないの?」
「はあ!?」
「私は貴女がどれだけ偉いかなんて知らない。でも側から見れば親の名誉に縋って暴れる金を持ってるだけのやな奴でしかない。」
まふゆがそう言うと、リエラの取り巻き達はまふゆに罵声をぶつける。
しかし、まふゆは動じない。
静かに怒っている。
自分が一番上にいるからと、不要なら切り捨て、困ったら金で解決しようとする目の前の女に。
そして哀れんでいる。
彼女が周りから『一人の人間』として見られていない事に。
彼女を支持する取り巻き達はリエラではなく、『彼女の後ろ』のものしか見ていないのだとまふゆは感じている。
「本当に詫びて私達と向き合う気があるなら、せめて貴女のその権力をどう言う使い方をするべきかくらい考えなさい。でなければ貴女が今後社長になった会社に未来はないわ。」
「…貴女、馬鹿にしてますの…!?」
「ええ、私は、貴女を馬鹿にしている。謝罪も賠償もいらない。」
「じゃあわたくしにどうしろと言ってますの!?」
「そんくらい考えなさい。少なくともこの学校の環境を不自然だと思いもしていない『お前』と話す事なんてこれ以上ない。」
そう吐き捨てると、振り返ることもなくまふゆは寮へと戻った。
その姿を黙って見つめるリエラ。
「柊…まふゆ…ッ!」
そう漏らした声には深い憎悪が入り混じっていた。
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