第1話 君のそばにいられたら。 〈涼side〉

「はい、終わり~」

「は……」


やっと終わった。

先生の声と一緒に、カラン、とシャーペンを置く。

目の前のプリントを先生が回収するのを横目で見ながら、ぼーっと外の景色を見つめる。


外は大雨。

梅雨の季節だろうか、ここ最近こんな日が続くばかりだ。

窓を開けても入ってくるのは嫌いな雨のにおい。

今も、窓を打ち付ける雨がやまない。


頭によぎる考えを振り払って、俺は席を立つ。


「先生、もう帰っていいんですよね?」

「ああ。……いやあ、しかしまさかお前が赤点を取るなんてな。補習組もどうだ、いい経験になったか」

「ええ、まあ」


気をつけろよーなんて声を聴きながら、廊下を歩く。

休みの廊下は、しいんと静まり返っていて、その静けさがよけいに俺の中の不安をかきたてた。


なぜ、休日の学校に来ることになったのか。

それは、この前のテストで赤点を取って、補習組のメンバーになってしまったからである。


自慢じゃないが、いつも優秀な成績を収めていた方だ。

そんな俺が、どうして赤点を取ることになったのか、自分でもよくわかっている。


――あの日から、夢を見る。


大雨の真っ暗な景色の中、アイツが道路に倒れこんで、それでも静かに笑っている顔を。

アイツが倒れる前に、俺がアイツの手をつかもうとしても、届かずに、いつも俺はあの笑顔を見ることになるのだ。

あの、群青色の中にある光を瞬かせながら切なそうに笑う、アイツの顔を。


助けたいのに。

手は届くことなく、そこで夢が覚めてしまうのだ。


毎朝、起きたらすごく不快で、安眠できているとも思えず、瞼は重かった。

赤点を取ったのも、眠気や疲れによるものだろう。


そんなことをぼうっと考えていただろうか。

何気なく、アイツの顔が頭に浮かんだ。


今、何してるかな。

確か今日は、同じクラスの女子の友達と、男子と3人で遊びに行くとか言ってたな……。


今日雨だから、遊びに行ってないか。





よかった。






そう考えて、ハッと我に返る。

……何考えてんだ、俺。


よかった、なんて、まるでアイツが出掛けなくてよかったって、思ってるみたいじゃないか。


傘がないので、そのまま校門を出る。


その時だった。


いきなり、ポケットの中にあるスマホが振動する。


画面を見ると、そこには北山の文字があった。

北山って確か、男バスの……。

あ、今日加奈たちと遊びに行くメンバーの、一人じゃ……??


「何」

『きこ……?も…もし、あ…さ、バ…が、………に、つっこ…で、ガラ…が、さんら…してて、そ……』

「は……?おい、はっきりしゃべれ」

『だ…から、バスが………たんだって。で、ば…はつして、今、ひ……中、う、わああっ⁉』

「おい、北山⁉」

『……○○びょう……に、来て』


バス?ガラス……?ばく、はつ……?   


何が起こっている?


真っ白な光を放つ画面が、やけにまぶしく、雨の勢いもいくらか増しているように思えた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る