第3話 君が隠した思い出。〈涼side〉

どんよりとした曇り空。

歩いているうちに、ぽつぽつと雨が降ってきた。


そう言えば、あの日も……。


――思い出す。

あの日の悪夢を。


「くそ……」


思わず声が出た。

カバンを握る手に、ぐっと力がこもる。

もう一つの空いている手を見ると、手のひらに残る古傷が目に入った。


これは、守りたい相手も守った証拠じゃない。

守りたい相手を証。

この傷を見ると、天気があの日に似ていたからか、嫌でもあの日のことが思い出される。


となりを走る、車の音。

時折ブウーンと大きな音を立てて走る、バイクの音。

胸がざわついた。


雨でぬれた前髪が気持ち悪い。

不快さを感じながら、ふと天を仰いだその時、ぐらり、と視界が大きく傾いた。


近くに公園があるはずだ。

そこで、休もう……。


よろよろとおぼつかない足取りで、公園のベンチに倒れるようにして横になる。

屋根がないから、勢いが強くなった雨がすべて服に吸収される。


まだ午後4時だというのに、空が暗い。

そんな中で、目をつぶった先に思い浮かんだのは、幼馴染の、加奈の顔。

不安そうな俺に向かって、切なくなるほどきれいに笑う、加奈の顔。


――『か、な……。なんで……⁉なんで、加奈が……!』

――『ふふ、涼は心配しすぎ……わたしは大丈夫だよ……』

――『加奈、加奈……なんでだよっ……』




――『おそらく、加奈さんは事故のショックで今回の一件のことは、忘れているのだと思います』


――『それが、幸せなのかは……何とも言えませんが……。大規模な記憶喪失にならなくて、よかったです』



――『俺が、俺が……!』



「あの日、俺が……!」


大事な、大事な幼馴染を。


――守れていれば。



少なくとも、想いのすれ違いは起きていなかっただろう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る