第2話 君のことが知りたい。

賑わいを見せる、昇降口。

ほんとは誰かを待っていたところで、人が多いから邪魔になっちゃうのだけど。


ドンッ。


「ったく、邪魔だな……」

「あ、ごめんなさい」


さっきからこういうことはあったけど、私には今、絶対にここをどいてはいけないという使命がある。

5月のはずなのに、じりじりと太陽の光が肌をさす。

まぶしさに目を細めながらも、私はある人を探していた。

そう、涼である。


「……いた!」


私はその場から離れ、そこの近くに行こうと、人込みを抜けて、近寄る。


自転車が置いてある駐輪場で、友達と楽しそうに話している彼。


……それを見て、駆け寄る足が完全に止まってしまった。


やがて襲っていたのは絶望感と、悲しさ。

それにつられて、胸の奥がきゅうっと縮まって、目が熱くなる。


何かがこみあげてきて、私はそっちに行かず、反対方向に向かって走る。


なんで。


なんで、私だけ。


知らず知らずのうちに、ぽろぽろと涙がこぼれる。


――切ない。


「うっ、う……うっ」


涙を止めようとしてもなかなか簡単には止まらなくて。

さっきまで感じていたたように熱さが今は消えて、代わりに涼しい風が肌にあたる。


なんで私だけ、置いてくの……?

私も、涼と一緒に……っ!



友達と話す彼は、楽しそうだった。


きっと、私といた時間が苦だったのかもしれない。

わがままばかりで、すぐ泣くし、付きまとって。


嫌だったのかな。


きっとそうに違いない。


でもね、でもね。


私の中で、それでもあの時間が嘘じゃなくて、本当だったと思えるから、こうして君をあきらめられないんだ。


泣いて、泣いて。

その後も、とてもこのまま帰る気にはならなくて、静かな風にあたりながら、学校の敷地のギリギリにあるぼろぼろのベンチに座る。


もう、どう思われてもいい。

付きまとってる、とか、そう思われても、いい。

だから。


君が隠しているものがね、知りたいんだ。


ふうッと、息を吐いたその時だった。




「……早く帰れよ」




その、聞き覚えのありすぎる声に、私ははっと振り返る。


「りょ、う……?」


私はそこに立つ人の顔を、茫然と見つめる。

そこにいたのは、あの入学式ぶりに会った、彼、涼の姿があった。



ただ、あの日と違うのは。



冷たい目の中に、小さな小さな、優しさの光が灯っていること――。







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