第2話 いざ演劇部へ
幼稚園の頃から中学1年生となった今までずっと同じクラスで、ことあるごとに一緒に行動してきた。
家も同じ地区にあるご近所さん同士のため、母親同士は子ども以上に仲が良い。
光は一人でいることを好むため子ども同士ではまだ実現していないが、光と涼太の母親はよく一緒にランチや旅行に行ったりして楽しい時間を過ごしている。
今もまさに旅行中で、二人は夫を顧みることもせず、イタリア旅行を満喫しているはずだ。
息子たちの学校の文化祭が近いにも関わらず、好き勝手に人生を楽しむ母親たちの様子に、子どもたちは半ば諦めを見せていた。
しかし、それは決して母親たちを批判してのものではない。
親だからといって子どものためにすべての時間を使うのはかわいそうだ。
自分たちももう中学生。小学生の時よりも出来ることは多くなっている。
始めから親に頼るのではなく、まずは自分なりに頑張ってみて、頑張ってもダメだったら頼るというふうに、最近少し考え方が変わったように思う。
それは自分たちの親に対してだけでなく、大人みんなに対しても同じ。
困っていることがあれば、まずは自分で頑張って動いてみる。時には友達の手も借りて頑張ってみる。そしてどうしても解決できそうになかったら、大人に相談してみる。
それはさらに今も同じ。
涼太は新聞部が廃部になることを阻止するため、光の手を借りて、演劇部を取材することで新聞部の人気を取り戻すことを心に決めた。
気難しくて自己中心的な光も、なんだかんだで涼太を助けるために動いてくれている。
涼太は確かな心強さを胸に感じながら、光とともに演劇部が練習する体育館の扉を開いた。
体育館は、演劇部の大道具や照明器具を担当する部員が忙しそうに走り回っていた。舞台上には、おとぎ話に出てくるような貴族風の衣装を着た演劇部員が一生懸命演技の練習をしていた。
涼太は近くで部員に指示を出していた女子生徒のもとへまっすぐ近づいていき声をかける。
「
「あ、
「あの……、実は先輩にお願いがあります。今、俺の所属する新聞部が廃部の危機にあります。それを阻止するため、有名な演劇部の記事を書いて、新聞部の人気を取り戻そうと思ってます。……兎田先輩、どうか俺に力を貸してください」
「相良くん、顔をあげて」
兎田と呼ばれた生徒が深く頭を下げる涼太の目の前に膝をつく。
「そんなにかしこまらなくて大丈夫よ。他ならない相良くんの頼みだもの、この私が断るはずないじゃない。新聞部のためになるなら、いくらでも力になるわ。ぜひ気が済むまで取材していってね」
「ホントですか!! ああ、兎田先輩……いや、女神様! ホントのホントにありがとうございます!!」
喜びの涙を流す涼太に苦笑いを浮かべた後、女子生徒は涼太の横で静かに立っている光の方に目を向ける。
「相楽くん、お隣の子は?」
「あ、俺と同じクラスの
「すごい、ずいぶん長い付き合いなのね。……雨ヶ谷くんね。はじめまして、演劇部部長3年の
優しい笑顔で右手を差し出す由美子の顔をしばらくじっと見つめた後、光は由美子の手を握り返す。
「……雨ヶ谷光だ」
「おい、敬語使え、敬語! すいません、こいつ変わり者で……」
「何が変わり者だ。同じ人間なのに生まれたのが遅いか早いかで使う言葉を変えなければならない世の中のルールに納得できていないだけだ」
「というような感じでものすごく失礼な奴ですが、決して悪い奴ではないんでどうか俺に免じて許してやってください」
涼太は光の頭を無理矢理下げさせようとするも、光は必死に抵抗を試みる。
「おい、やめろ! 俺は失礼な奴なんかじゃない! 失礼なのはネンコウジョレツとかいう仕組みを作った奴だ! したがって……」
「ああ、はいはい。分かった、分かったから」
「うふふふ……。相楽くん、私は全然大丈夫よ。雨ヶ谷くんって面白い子ね」
「あはは……」
涼太と由美子が楽しそうに笑い合う。
二人の様子を見ていた光はあまりの仲の良さに疑問を持つ。
「お前らはどうやって知り合ったんだ? ずいぶん仲が良さそうだが……」
「先輩とは部長会で知り合ったんだ。ほら、月一回、全部活動の部長が集まって、部活の運営とか活動の様子とかを報告する会議だ。先輩は演劇部の部長として、俺は新聞部の部長として部長会に参加したときに偶然席が隣同士で……。一年の俺に先輩がいろいろと丁寧に教えてくれたんだ。それで仲良くなったんだ。そういうことで兎田先輩にはすごくすごーく感謝してます、ありがとうございます!」
「そんな、大げさよ。私も運営とかそういうのはあまり得意な方ではないから、相良くんと仲良くなれてすごく心強かったわ。ありがとう」
「いやぁ~、それほどでもないわけでもないですけどぉ~、いてっ! おい、雨ヶ谷、何しやがる!」
「ああ、すまない。ハエが飛んでいたと思ったら気のせいだったようだ」
「おーい、明らかに目が泳いでるぞ~」
「ふふふふふ。本当に二人は仲が良いのね。うらやましいわ」
「「仲良くない!!」」
にらみ合う光と涼太をしばらく微笑ましく見守った後、由美子が思い出したように口を開く。
「あ、ごめんなさい。時間、大丈夫かしら? そろそろ演劇部の取材、始めた方が良いよね?」
「はい! ぜひよろしくお願いします!」
「じゃあ、まずは演劇部の二大スターを紹介するわね」
「二大スター?」
「ええ。この演劇部で最も実力がある部員が二人いるの。今、ちょうど舞台で演劇練習してるから、ぜひ見ていって」
光と涼太は由美子に連れられて、舞台の方に歩き出した。
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