動物対話(全4話)

動物対話①

東京都内から電車とバスを乗り継ぎ約2時間半の山の中にある、木造の古民家レストラン。店内に4人掛けのテーブル席が6つ並ぶ。その1つに、対面で座る向風むかいかぜ避山ひやま



避山「出汁素だしもとのヤツ、こんな良いレストラン持ってるなら、早く言えって感じっすよね?ヤリーカより広いし、完全予約制だから客は少ない。アジトに打ってつけだ。立地は悪いけど」


向風「文字通り、隠れ家的レストランだ。だからこそ、あまり人には言いたくなかったんだろう」



厨房服を着て、長いコック帽を被ったマッチョマン・出汁素が、向風と避山のテーブルに近づく。出汁素は2人の前に、焼いた肉の塊が乗ったステーキ皿を置いた。



出汁素「モモ肉のステーキですぅ!醤油ベースのソースで、さっぱりとした味付けに仕上げましたぁ!どうぞお召し上がりくださいませぇい!」



大声でハキハキと喋る出汁素。そのテンションの高さとエネルギーに気圧された避山は表情をゆがめる。向風は意に介さずナイフとフォークを手に取ると、肉を一口大に切り、口へ運んだ。



向風「うん、美味しいね。さすがは一流シェフだ。ボーナスをあげちゃおう」


出汁素「お気に召しましたかぁ!?良かったぁ!」


向風「味はすごく良い。でも肉が少し固いかも」


避山「つーか出汁素よぉ、これ何の肉だ?」


出汁素「新卒女性会社員のモモ肉ですぅ!」


避山「食えるかぁ!」


出汁素「申し訳ございませんんん!若い人間のほうが肉が柔らかいのでぇ、なるべく若者を探したのですがぁ!20代前半しか仕入れられずぅ!やっぱりストレスを全く感じていない新生児の肉が良いですよねぇ!?」


避山「そういう問題じゃねぇよ!人肉が無理だっつってんの!」


向風「避山、文句を言うのは食べてからにしたらどうだ?意外と口に合うかもしれないよ」


避山「……よく食えますね、向風先輩」


向風「何事もチャレンジだ。ところで出汁素、人肉は食べても健康面に問題は出ないよね?」


出汁素「わかりませんねぇ!しかし向風さんは幽霊ですからぁ、何を食べても不健康になることはないでしょぉぉう!」


向風「それを聞いて安心した」



肉を食べ続ける向風。避山はステーキ皿を持ち上げ、出汁素に突き返す。



避山「俺はいらない。お前が食え出汁素」


出汁素「いやいやいやいやいやぁ!無理ですぅ!人肉なんて食べられませんよぉ!天地がひっくり返っても無理ですってぇ!」


避山「自分が食えないものを人に出すんじゃねーよ!」


向風「苦手な食材でもお客様のために調理するのがプロの料理人なんだよ」


出汁素「さっすが向風さんんん!よーくわかっていらっしゃるぅ!」



向風は肉を完食し、ステーキ皿の上にナイフとフォークを置く。



向風「肉も良いが、私はヘルシーな魚料理のほうが好きでね」


出汁素「そうでしたかぁ!私、魚料理も大得意でございますよぉ!」


向風「では、極上の切身キリミ刺身サシミを振る舞ってくれないか?」



口を三日月型にして笑う出汁素。



出汁素「……かっしこまりましたぁ!立派な舟盛りにしてみせましょう!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る