撃山の作戦

PM 11:50

自ら殺し屋たちの始末に乗り出したポコポコは、常人の肉眼では捉えられないスピードで建物の屋根から屋根へ飛び移る。キョウカが集めた情報で居場所が分かっており、最も近くにいる殺し屋は、FOXフォックスとの戦闘後に都内の『ヒョウモンダコ大学付属病院』に搬送された田代たしろ。ポコポコは最初のターゲットに田代を選んだ。


颯爽と夜の街を駆け抜けるポコポコ。その身を照らしていた月明かりが突如遮断され、夜よりもさらに暗い影が覆った。違和感に気づいたポコポコは、真上の夜空へと視線を動かす。100mほど上空を、ポコポコと並走するように巨大なステルス爆撃機が飛行していた。



ポコポコ「何だこれ……って俺を殺す以外にこんなもんを飛ばす理由がないわな。だとしてもやり過ぎやろっ!」



ステルス爆撃機の操縦席に座るハルミは、撃山うちやまと通信を開始する。



ハルミ「時速400kmで移動する男を発見。コイツがポコポコだろう。攻撃を開始する」


撃山「頼むぜ」



ステルス爆撃機の下部が開き、ポコポコ目がけて大量のミサイルが投下される。ポコポコは加速。ミサイルの着弾地点を避け、ステルス爆撃機を追い抜くと、超高層ビルの壁面を走って登り大きく飛翔。ステルス爆撃機より高度を上げた。



ポコポコ「残念。街に落下して大爆発。犠牲者多数だな」



ミサイルは後方から炎を吹き出して軌道を変え、ポコポコを追跡するように上空へと突き進む。



ハルミ「全てアンタを追尾する誘導弾じゃ。逃げられるかのぉ?」



ポコポコに向かって急接近するミサイル。だが、ポコポコが手をかざすと、その全てがポコポコの体を避けるように動き、さらに上空へと昇っていく。そして雲に突っ込み爆発した。



ハルミ「ほう」


ポコポコ「さて、どうする?」



ハルミは操縦桿そうじゅうかんを右に倒し、ステルス爆撃機を大きく旋回させる。進行方向を180度変え、ポコポコから逃げるように飛行した。



ポコポコ「邪魔くさいクマバチやのぉ。チョロチョロ動かれると面倒やな。先に撃ち落としとくか。待ちやーっ!」



急速に落下し超高層ビルの屋上に着地すると、ステルス爆撃機を追って再び建物の屋根を飛び移るポコポコ。ステルス爆撃機の飛行速度はマッハ1を超えているが、ポコポコは見失うことなく確実に追跡し続ける。



ハルミ「撃山よ。ヤツが誘いに乗ってきた。このまま海へと向かう。あと5分ほどで千葉県を超え、太平洋に出るぞ」


撃山「了解!ありがとよハルミさん。海まで誘い出してくれたら、俺の仕事だ」



ヘッドホンを装着したまま、車椅子の右のアームサポートに取り付けたレバーを操作する撃山。



剣崎けんざき「撃山様、ご武運を」


撃山「いろいろ手配ありがとな、剣崎の兄ちゃん。行ってくるぜ……ウイング、オン!」



撃山はレバーを手前に倒す。左右のアームサポートの真下から、折り畳まれていた翼が伸びる。長さはそれぞれ5mほど。



撃山「ジェットエンジン、オン!」



右のフットサポートを踏むと、背もたれの後ろに装着されたジェットエンジンが勢いよく炎を吹いた。車椅子は撃山を乗せたまま一気に加速し、埠頭を滑走路代わりにして夜空へと飛び立つ。


想像していた以上の速度で飛行する車椅子。撃山のまぶたや唇が風の抵抗を受けてめくれ上がる。



撃山「ハ、ハルミさん……場所を……場所を教えてくれぇぇっ!」


ハルミ「北緯35度付近を東へ向かって飛行中。あと3分ほどで南房総を超える」


撃山「お……OK……向かう……ぜぇ!」



撃山はレバーを操作し、南房総へと舵を切った。



−−−−−−−−−−



ステルス爆撃機は千葉県を超え、太平洋上空を飛行。追跡するポコポコは、水飛沫を上げながら海面を走る。その距離は徐々に縮まりつつあった。



ハルミ「このままだと追いつかれるのぉ。撃山には『一撃加えたら逃げろ』と言われとったが、もう少し喰らわせとくか」



再びステルス爆撃機の下部が開き、ミサイルが投下される。海上なら民間人に被害が及ぶことはない。ハルミは搭載した残りのミサイル全てをポコポコ目がけて放った。


落下する数十のミサイルを左右に移動しながら全てかわすポコポコ。そのうちの1つをキャッチすると、ステルス爆撃機に向かって投げ返した。ミサイルが左の翼に当たり、爆破する。



ハルミ「ちっ」


ポコポコ「よっしゃ命中!ピッチャーとしても食っていけるやろなぁ、俺」



翼から煙が上がり、機体の制御ができなくなる。ステルス爆撃機の速度はみるみる落ち、高度も下がり始めた。もちろんポコポコはこの隙を見逃さない。追撃を加え、墜落させるべく海面を蹴って上昇する。


ポコポコの背後150m、高速で飛行する撃山の車椅子が迫っていた。ポコポコはステルス爆撃機を撃ち落とすことに夢中で、車椅子には気づいていない。



撃山「ハルミさん、囮役どうも……捉えたぜポコポコ!」



撃山は左のフットサポートを踏み、両足を力一杯大股に開く。車椅子のシートの下に装着された筒状の装置が緑色の光を放った。



撃山「荷電粒子砲かでんりゅうしほう……射出!」



光は1本の太い光線となり、一直線にポコポコへと向かう。光線はステルス爆撃機と接触する寸前のポコポコを飲み込んだ。



ポコポコ「な……にぃぃぃぃっ!」



10秒ほどで光線は消失。ポコポコは力無く海へと落下した。撃山の車椅子は上空で旋回し、ハルミを乗せたステルス爆撃機は海上に不時着。



撃山「血吸ちすいってヤツの言った通りだ。ポコポコは不意打ちなら効く」



ポコポコは海中へと沈んでいった。

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