友達の輪(全3話)

恐竜と友達になろう

PM 13:40

とある山にやって来たアロハシャツ姿のポコポコと、白いワンピースを着たキョウカ。その身なりから分かるように登山やキャンプを楽しみに来たわけではない。



ポコポコ「ここらへんにおるんか?」


キョウカ「近隣の山々のなかで、被害者数が最も多いのはこの山よ。ここが一番、遭遇率が高い」


ポコポコ「ホンマかねぇ?キョウカちゃん、平気でウソつくからなぁ」


キョウカ「だったら自分で探したら?ご自慢の嗅覚を使ってさ」


ポコポコ「せやな!わしの警察犬並みの鼻でクンクンクン!ってコラッ!何やらすねん!」


キョウカ「ポコポコくんって本当に面白くないよね」



会話する2人の目の前、草むらから一頭の土佐犬が現れた。



ポコポコ「ウワサをすれば犬やん。おい犬、ここらへんでデッカイ恐竜の幽霊見てへんか?登山客を喰い殺しまくってるらしいんやが……お前の飼い主、喰い殺されたりしてへん?」



土佐犬のストロベリーは低い唸り声を上げ、牙をむき出しにしながらポコポコとキョウカを威嚇する。



ストロベリー「グルルルルッ(お前らTティー様に何の用だ?)」


ポコポコ「知っとるようやな。どこにおるか、教えてくれるか?」


ストロベリー「グルルッ(そんな筋合いはない。立ち去れ。さもなくば噛み殺す)」


ポコポコ「おん?やる気か?犬だからって容赦せぇへんぞ。居場所を吐くまで痛めつけたるわ」


キョウカ「ポコポコくん、犬と話せるの?」


ポコポコ「ああ、完璧やないけどな」


キョウカ「じゃあ、あのワンちゃんを説得して、戦わずに解決してくれない?私、犬好きだから。できれば飼いたい」


ポコポコ「正気かぁ?アイツ、ただの犬ちゃうで。強い血の匂いがする。かなりの数の人間を殺しとるようや」


キョウカ「じゃあ私と同じ経歴ね。友達になれそう」


ポコポコ「……それもそやな。元殺し屋に野暮なこと聞いてもうたわ。んじゃ説得してみる」



3歩前進し、ストロベリーとの距離を詰めるポコポコ。ストロベリーは今にも飛びかかろうとしている。



ポコポコ「伏せ」



ポコポコは体からドス黒い邪気を放つと、ストロベリーの頭上から滝のように地面に叩きつけた。大量の邪気が体にのしかかり、重圧に耐えかねたストロベリーは地面に腹ばいになる。ストロベリーから戦意が完全に消えたのを確認し、ポコポコは邪気の放出を止めた。



ポコポコ「これでええ?」


キョウカ「うーん、ギリOK」


ポコポコ「おい犬、今のでどっちの立場が上かよーく理解したやろ?んじゃ、恐竜の居場所を教えてくれや」


ストロベリー「く、くぅーん(何だこの人間……今まで襲ったヤツの誰よりも禍々まがまがしい……)



直後、ストロベリーの背後から木々を押し倒しながら巨大なティラノサウルスが現れた。その体は透けており、向こう側がわずかに見える。



🦖「ゴルルルルッ(ストロベリーよ、お前の手に負える人間ではないようだな)


ポコポコ「くだんの恐竜やな。俺がガキだった頃もすでに絶滅しとったから、初めて見るわ。そっちから来てくれるとは、探す手間がはぶけた」



ポコポコは再び邪気を全身にまとう。



🦖「ゴルルルルルァッ!(邪気はのような死者にとってエネルギードリンク同然。ぶつけたところで、ストロベリーのようにはならんぞ)」


ポコポコ「たしかにな。ほんなら……キョウカちゃーん?コイツに毒喰わせたってーな!成仏しない程度の弱毒で……ってキョウカちゃん?」



ポコポコから15mほど後ろに生えた木に、ストロベリーを抱えながら隠れ、ヒョッコリと顔だけ出しているキョウカ。



キョウカ「嫌だ。恐竜なんて怖いし、幽霊に毒が効くか試したことないし」


ポコポコ「なんや弱腰やな……ここはビシッとカッコ良く、バディものっぽく決めたかったんやが」


🦖「ゴルルルルラァァァッ!(相棒に裏切られた愚者よ!真っ二つに噛みちぎってくれる!)」



ティラノサウルスはポコポコに急接近し、大きな口で頭からかぶり付く。ポコポコの上半身がティラノサウルスの口の中に収まった。力を入れて噛みちぎろうとした瞬間、ティラノサウルスの太い前歯が粉々に砕ける。激痛で後ろに5歩退しりぞいたティラノサウルス。噛み付かれたはずのポコポコは傷一つ負っていない。



ポコポコ「なかなかのパワーやけど、俺には効かへんよ。それに、邪気を使わんでもお前をぎょす方法なんていくらでもあるで」


🦖「ガルルラァァァァッ!(噛めないのなら丸呑みにしてくれる!)」



ティラノサウルスは先ほどポコポコに噛み付いたときの倍ほどの大きさにまで口を縦に広げ、突進する。


ポコポコは無表情のまま頭を風船のように膨らまし始めた。頭は元の大きさの50倍ほどにまで巨大化。ティラノサウルスの口はもちろん、身の丈をも遥かに超えている。自身より大きな生物を見たのは初めてだったのだろう、ティラノサウルスは大きく口を開けたまま、たじろいだ。



ポコポコ「丸呑みはお前の専売特許ちゃう。でも、お前は呑まん。やってほしいことがあんねん」



ポコポコは地響きのような野太い声でしゃべると、口で息を思い切り吸い込んだ。その様子を見たキョウカは、すぐさまポケットから耳栓を取り出し両耳に入れ、ストロベリーの耳を手で押さえる。



ポコポコ「友達になれやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」



風速100mあろう暴風と共にポコポコの大声が響き渡る。草木が吹き飛び、ポコポコから見て約200m先までが更地になった。


風と声の勢いで飛ばされたティラノサウルスは、更地の中心で体を地面に伏せ、小刻みに震えている。



ポコポコの頭がシュルシュルと小さくなり、元のサイズに戻る。



ポコポコ「恐竜の王よ、俺らもう友達よな?」


🦖「く、くぅ〜ん(余はポコポコ様の友人なり。余の命はポコポコ様のためにあり)」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る