第93話 怒


 魔王城に向かうと殆ど顔パスだ。

「お疲れ様です」

「…お疲れ」

 と言って門を通る。

 ちょっと待たされるがちゃんと会ってくれる。

「なんのようじゃ?」

「…宣言通りに死の大地は蘇った」

「そのようだな。こちらからも白亜の城が見える」

「そのうち遊びにきてくれ」

「分かった」

「で、本題はこっからだ。嗜虐趣味の貴族を知らないか?」

「…何故じゃ?」

「うちの奴隷が潰れた肉饅頭の様になってたんで助けた」

「…探してみよう」

「お願いする」

「会うか?」

「あぁ、俺なら死の何十倍もの体験をさせてやる」

「わかった」

「…それだけだ、またな」

「あぁ、また来い」


 ケントが出て行ったあと、

「イナリ、聞いたか?!

「は!」

「我はあやつを敵に回したくない」

「分かりました」

 暗い影がスッと消えた。


 俺はその足で宿屋に戻ると、肉団子の様になっていた女の子に会う。

「…どうだ?痛みはないか?」

「はい…ありがとうございます」

「…もう大丈夫だからな」

「はい、ううぅ」

 と泣く魔人の女の子。名前はメイらしい。


 頭を撫でてから外に出る。

「ふぅぅぅ…」

(熱くなるな…)

「…ケント様ですね」

「だれだ?」

「女王からの連絡です。やったのは魔王国第三副団長ゾイド。今から行きますか?」

「…あぁ」

「では、私についてきてください」

 そこは貴族の屋敷だったが向かったのは庭の片隅にある大きな蔵の様な場所だった。

「はぁ、ここにいるのか?」

「はい、今は休みのはずですので」

 中からは叫び声が聞こえてくる。

「…いるな」

「…はい」

 ブラックホールを使い穴を開けると、

「だ、だれだ!お前は!」

 足元には蹴られてうずくまっている獣人の女の子と檻に入っている無数の奴隷達だ。

(…熱くなるな)

「は、ハハハハハ!ダメだ、熱くなって抑えが効かないぞ!」

「誰だと聞いてイブガブッ!!」

「おらっ!まだだ!」

 俺は肉団子の状態まで殴り続ける。

「ヒール」

 蹴られていた子にヒールをかけて傷を癒してやる。

「ちょっと退いててくれるか?」

「は、はい」

「リジェネレーション」

「グァァアァア!!」

 骨がくっつき肉が元に戻っていく音がして苦痛に喘ぐ男の声がする。

「ガハッ!はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、」

「ラウンド2だ!」

「や、やめ!」


 

 …

「ラウンド32」

「こ、ろして」

「まだまだだ」


 …

「…さぁ、みんなを解放しようか」

「…」

「あ、悪いな、クリーン」

 血だらけのまんまじゃ怖がられるよな。

 鍵はもう取ってあるから鍵を開けて中にいる奴隷達を外に出す。

 ついてきてたやつは吐いたのかはぁはぁ言ってるな。

「…こいつの部屋はわかるか?」

「はい、こちらです」

 屋敷に入ると襲ってくる衛兵たちを軽くあしらうと部屋に入って書類を確認する。

「ちっ!違法奴隷がいないだと?」

「…たぶん西地区の奴隷商がいなくなったので危険を察知して処分したかと」

「は…ふぅぅ、いちいちビクつくな」

「すいません」

 下に降りて行くと衛兵がまた大勢来ていた。

「俺をイラつかせるな!殺すぞ?」

 ざわざわと兵が退き道ができる。

「…行こう、もうこんなとこに居なくていい」

「「「はい」」」

「女王に謝罪とありがとうと言っておいてくれ」

「分かりました」

 宿に戻りルビーに契約してもらい預けると1人になりたいと外に出る。


 

 …

「で?第三副団長は?」

「…もう使い物になりません」

「そんなに怖かったのか?」

「…あれは悪魔です」

「そうか、人間なんてどっちにも転ぶものだ」

「…はい」

「彼奴は人のために悪魔になれる人間だ。そこのところ肝に銘じよ、あのものと争いの種は今のうちに詰んでおけ」

「はい!」



 …

「ふうぅぅ…」

 俺は街の外に出て胸の奥からくるこの怒りのぶつけどころを探していた。

『…誰かと思えばいつぞやの』

「…フェンリルか」

『禍々しい気だな。少し遊んでやろう』

「あぁ!頼むぜ!」

 

 フェンリルは強かった、だが俺も肉弾戦だ。回復しながら気の済むまで殴り合う。

 フェンリルの爪が食い込もうが肉を断たれようが回復して戦う。

「ウオオォォぉぉぉ!!!」

『ウガァァァァ!!』


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、」

 俺は大の字で横になる。

『う、グブッ!ゴブッ』

 フェンリルは血を吐いていた。

「悪いリジェネレーション」

『グオオォォォ…はぁ、はぁ、』

「ようやく晴れたな!ありがとう」

『クッ!お前は本当に人間か?悪魔でも取り憑いているのではないか?』

 フェンリルはその場にゆっくりと横になる。

「多分人間だが…自分でも分からんな」

『クッフフ、死の大地が蘇ったと聞いてきたらお前の様な邪悪な気を纏ったやつに会うとわな』

「ああ、死の大地なら俺が蘇らせた」

『なっ!本当か!』

 驚くフェンリルはこちらを見るとまた横になって、

『そうか、我もそちらに住まわせてもらっていいか?』

「あぁ、俺が暴走したら止めてくれ」

『あい分かった!必ず止めてやろう』

「蒼月花はどうする?」

『あれは我が移し替える』

「そうか、適当によろしくな」

『ククッ!よろしくな」

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