第94話 発散


 次の日の朝日が昇る頃、フェンリルと別れ街に入る。

 服は破れてボロボロになっていたので収納から新しいのを出して着る。

「もう!どこ行ってたのよ!」

「…悪いな」

「心配したんですよ」

「…あぁ」

「まぁまぁ、男にはたまに1人になりたい時もありますって」

「まぁ、いいけどね」

「そうそう」

 心配かけてしまったな。

「他のみんなは?」

「まだ寝てるわ、疲れたみたいよ」

「…ならよかった」

 スッと肩の力が抜け急に眠気が来た。

「…いまからちょっと寝るから、昼には起こしてくれるか」

「はい!分かりました」

 リシェルは元気に答えてくれたので頭を撫でて部屋に戻る。


「おはようございます」

 目が覚めると横にいるリシェルにビックリするが、

「…おはよう」

 と仇を撫でると手を掴んでくる。

「何かあればすぐに言ってくださいね?」

「…あぁ」

 下に行くとルビーと奴隷が揉めている。

「だから私は王妃なの!あなたのご主人様には夜伽は必要ない!」

「でも男の人は溜まるんです!私が行きます」

「いえ、私が行きます」

「…何をやっている?」

「はぁ、ケント「ご主人様!おはようございます」…」

「…?あぁ、おはよう」

「こちらにどうぞ」

「…何があったのか?」

「私が貴方のお嫁さんなのが気に食わないらしいわ」

「嘘ですよね?」

「…はぁ、ルビーは俺の嫁だ。リシェルもな」

「え?!」

「だから夜伽は要らないし、お前たちの好きにさせるつもりだからな」

「そ、そんな!私は助けてくれたお礼をしたいです」

「わたしも!」「私だって!」

「…いらん」

「は、はい」

 彼女らはこう言うことに慣れてないだけだろうな。

「あまり気にするな」

 と頭を撫でてやる。

「は…はい」

 よし、少しはほぐれただろう。

「もう、タラシは健在ね!それより買い物に行くわよ!」

「そうだな、ルビーとリシェルは服を頼む」

「ケントは?」

「オン爺とダウンを連れて肥料や建材を買いに行く」

「わかったわ!リシェル、ボン婆呼んできて、どうせなら一緒に行きましょう」

「はい!」

「貴女達は宿で待機ね」

「「「はい」」」

 ようやくまとまったみたいだな。


 ダウンとオン爺を連れて建材を買い、種や苗、肥料を買えるだけ買って行く。

 途中で奴隷商に会うとすぐきてくれと言って連れて行かれる。


「…なんだ?」

「私を雇ってください!」

「…なんでだ?」

「私はやはり向いてない!奴隷商は親父から譲り受けたのですが情が移ってしまうのです」

「…はぁ、分かったが、お前はその道のプロだろ?とりあえずは一回俺たちの国に来てから自分のできることを考えてみたらどうだ?」

「く、国?え?」

「ダウン」

「はいっす!」


 …

「こ、国王様でしたか!これはご無礼を」

「立て、こんなところじゃな」

「は、はい!」

「じゃあ、少しの間、店は人に任せられるのか?」

「はい!」

「なら、明日ここを立つから宿に来てくれ」

「分かりました!」

「…期待してるぞ」

「はい!」

 奴隷商の店を出ると夕暮れが迫っていた。

「買い損ねたのは?」

「まぁ、どうにでもなる様なものですね」

「ならいいが」

「あ、牛を二、三頭買ってくれんか?」

「分かった」

 それから牛を二頭買って宿に戻る。

 服を着替えたみんなは恥ずかしそうに出てくる。

「…似合ってるな」

「「「は、はい」」」

(まぁ褒めてやるのも女心ってやつが分かってきたんじゃないかな?)

「また、タラしてる」

「…女心じゃないのか?」

「私達に使ってよ!」

 難しいもんだな。

 ボン婆がやれやれと首を降っている。

(なんなんだよ)


 夕食を済ませてさっさと風呂に入って寝る。次の日は朝から奴隷商のノーマと言うらしいが、来ていた。

 どうやら奴隷を何人か連れてきたらしいのでこちらに乗せて、牛を運搬するのにその馬車を使う。

「それ出発じゃ!」


 3日かけて死の大地に入って行くとノーマはおっかなびっくりついてきて、大いにビックリして騒いでいる。


「こ、これが死の大地ですか!!」

「…ここはセイクリッド、聖なる地だ」

「はい!」

「ここは今は奴隷が多いがみんな気にしないで暮らしている。…まあ、そんな国があってもいいだろ?」

「はい!私ノーマ全身全霊で王に従います!」

「あはは…いいんだノーマ、俺はこの通り自由が好きなんだ」

「はい!」

「だから自由に生きて行くのも時には大切だと思うぞ?」

「は、はい!」

 何故か涙を流しているノーマ、まぁいいか。

「あれが俺の城だ」

「白亜の城…セイクリッド」

 さぁ、進むぞ。

 10日かけて城下町に来てみるとさすがガンツ達だ。もう家がだいぶ建ってきている。

「王がお戻りだぞ!」

「けんとー!」

「ちぇんとー!」

「よう、ネアノア!元気か?」

「「げんきー」」

 と2人を抱き上げる。

「ケント様!建材を!」

「おう!どこに出せばいい?」

 とガンツについて行く。


 建材を出してやるとヤル気になったガンツ達が建材を運んでいく。

「ケント様」

「…エン、ダラー、どうした?」

「馬を貰えませんか?」

「あぁ、もう出るのか?」

「はい!ある程度いるものも分かりましたし」

「ならこれを」

 俺はマジックバッグと金貨1000枚を渡す。

「こ、こんなに?」

「必要だろ?まずはそれで買うことから始めて、その内こちらで売るものを作って行こう」

「はい!分かりました」

「馬車は?」

「ガンツさんに作ってもらいました」

「なら食料をそのバッグに詰めてからいけよ?」

「はい!」

「気をつけてな」

「「はい!」」

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