第85話 三者三様
「起きて!ねぇ、起きてってば」
「…もう少し…寝させてくれ」
「もう、しょうがないなぁ」
そこは花畑になっていて心地よい風の吹く場所だった。
ルビーの声が聞こえたがどうしても眠くて寝てしまう。
だが話し声は聞こえるのだ。
「本当に死の大地をこんなにしちゃうなんてね」
「わしは初めて神を見たんじゃ。フフッ、神に愛されとる男は違うのう」
「そうですね、私も見ました」
「みんなまだ眠ってるもんね」
「そりゃそうじゃ、皆もよく頑張った」
「にしても魔石ってこんなに丸かったっけ?」
「いや、大量の魔力が出入りしたことで魔石から魔水晶になったのじゃろ?」
「魔水晶?聞いたことないけど」
「わしも昔話でしか聞いたことがないでな」
「へぇ?どんな?」
「神からの授かり物じゃ、国の安寧と邪気を祓い、その大地は朽ちることのない盤石な国となるじゃろうとな」
「へえ、じゃあこれが中心になるわけだね」
「そうじゃのう。こりゃ一杯飲もうかのう」
「私も飲む」
「私にもいただけますか」
三人は酒を酌み交わして飲むと、
「長いこと旅してきたのう」
「そうですね」
「そうね、私がケントと出会ったのは、私の左半身が病に冒されていた時よ。
隣に座ってきた時はまた気持ち悪がられると思ったし、嫌な思いしかしないのならさっさと他に行ってもらう為にわざと見せたの。
こんな女の横で飯食ってもまずいわよってね!
そしたらこいつ私の病を治して、良い女じゃないかって言うの!反則よね?そんなの」
「アヒャヒャ、らしくていいじゃないか」
「そうですね。ケント様らしいですね」
「私は奴隷商で腐り病にかかっているところでしたね。神様に願ってました、毎日毎日、この地獄から救って欲しい、助けてと。
その声を聞こえたといって私を買ってくれたのがケント様でしたね。
抱き上げて奴隷契約をした時、心地よささえ感じました。
あぁ、神様はいるんだと、すぐに腐り病を治して、服と温かいご飯を食べさせていただき、ゆっくりでいいと言っていただきました」
「アヒャヒャ、罪作りな男だね」
「あの時はどうかしてると思ったわよ!この人、人が良すぎるって!」
「ケント様が神を敵にまわそうが私はケント様について行くだけです」
「わたしゃも喋ろうかね」
「ボン婆はなんでついてきたの?」
「そうですね、シンも一緒にいたのに」
「わたしゃの村は魔法使いの村でね、本当に小さな村だったのさ。毎日神に祈りを捧げ、一日一日細々と暮らせればそれでよかった。
だけど盗賊が村を見つけてね、私はシンと隠れていたのさ。でもすぐに見つかってね。
その時にはもうみんな殺された後だった。
ただの一日も欠かさず神に祈っていたのがバカらしくてね。シンと2人奴隷に落とされる覚悟を決めたさね。わたしゃもう歳だから殺される覚悟だね。
そんな時あんた達が助けてくれた。
あたしゃなんか助けたところでなんの価値もないのに馬車に乗れって言うんだ、まぁあたしはどうでもいいがシンだけでも助けてくれるとありがたいと思ったさ。
それが王都まで連れて行ってくれるっていうじゃないか、何かお礼をと思って適性を見たら全部の適性を持ってる。
そんな人間なんているわけないと思ったね。
神に愛されてる男はやっぱり違うんだよ。
あたしゃ意地でもついて行くよ?
毎日拝んでいた神よりも神に近い男の近くにいた方があたしゃにゃ大事になったからね。
それにしてもいい男だ。あんたらは絶対離すんじゃないよ?」
「当たり前でしょ?私が初めて出会った男よ?」
「私なんて買ってもらったんですからね」
「それは助けてって聞こえただけでしょ?」
「いーえ、私のケント様は運命で結ばれてるんです」
「それならわたしのほうが!」
「…うるさいぞ」
「ありゃ!起きてたのかい?」
「…寝れるわけないだろ?小っ恥ずかしい話しやがって」
「「「キャーー」」」
「なに、ボン婆まで赤くなってんだよ!」
「女はいつまで経っても乙女なのさ」
「…そうかよ。それより俺にも一杯くれないか?」
「アヒャヒャ!いいよ!飲みな」
「いい天気だな」
青空が眩しいな。
「あぁ、いい天気にいい景色だ」
ボン婆も目を細めて空を眺め景色を楽しんでいる。
「神が助けてくれたな」
「やっぱり神じゃったか」
テスカトリポカまで助けに入ってくれるとはな。
「しかし腹減ってきたな、サンドイッチでも食うか?」
「あたしゃはハンバーガーがいい!」
「あ、私も!」
「私はケント様と同じで」
「俺は自販機じゃないんだぞ?」
「いいじゃないか!」
「っと、みんな起き出したな」
のそのそと起き出してくるみんなを横目に、グビっと酒を飲み干す。
「うまいな」
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