第77話 守り神


 さすがに盗賊も出て来ず国王のいる都に到着した。

 俺も一応行かなければいけないのでルビーに宿なんかは任せてアシュレイの馬車に乗る。

「あぁ、あふへへふへ助けてくれ

「うるさくて口輪をしてもまだうるさい」

「…もうちょっとの辛抱だ」

 アシュレイの馬車は王城へと向かう。


 王の前まで行き膝をつけて礼をすると、

「おもてをあげよ」

「はっ!」

「早馬である程度事情は聞いておる。辺境伯よ。よくもやってくれたな」

「わ、私は良かれと思い」

「恥を知れ!人国に応援まで出したのだぞ!それが我らが守らなければいけない竜神を殺すことになろうとは…情けない!」

「ひぃ!」

「もう顔も見たくない!早く牢に入れてしまえ!」

「はっ!」

「ま、待ってください!ワシは銛を撃っただけ…」

「それがいかんというのがなぜわからぬ」

 王様は頭を抱えている。


「悪かった、こちらの落ち度で応援をお願いしたのに」

「私達は手も足も出なかったです。ここにいるランクS冒険者のケント殿がいなければ今頃この世にいないでしょう」

「それは真か…水竜を倒すのに被害が出ていないと聞いていたがそのケント殿が」

「…私も危なかった。リルルという水獣の獣人がいなければ早々に食われていた」

「そうか、2人とも危ない橋を渡らせてしまって申し訳ない!人国にもケント殿にも賠償しよう」

「分かりました。辺境伯はいかに?」

「辺境伯は斬首じゃ、あとの辺境伯領はとりあえず隣領のクリスにまかせてあるので大丈夫じゃ」


「…あとは水竜ですがどうしますか?」

「ん?水竜はいなくなったと聞いたが?」

「…私の収納に入ってます」

「…買い取ろう。国家の守り神だった水竜だったがどうしようもない。こちらで有効利用させていただきたい」

「分かりました血もまだ取れるので準備が整い次第出しますので」

「…本当にありがたい」

 また血抜きで三、四日はかかるだろうな。


 賠償金金貨10万枚、高いのか安いのかわからんがもらっておく。それとは別に褒美として宝物庫のものを一つ貰うことになった。

 古代魔法の魔導書があり、それにすることにした。

「ケント殿は古代魔法に適正があるのか?」

「…あると言われた」

「そ、そうか」

「…何故だ?」

「もう失われた魔法だ、どのようなことができるのか誰もわからぬでな」

「…まぁ、悪いことには使わないさ」

「そう願う」


 タルの準備ができたらしく広い場所に水竜を出すと血を樽に入れていく作業だ。皆血まみれになりながら作業をしている。

 やはり足りなくなって収納にしまう。


 これが神と崇められた水竜の最後なのだからみんなやるせないよな。


 海洋国家では水神祭りと言うものが年に一度行われるそうだが今年から亡くなるのであろう。卵でも産んでいてくれれば良かったのにな。

 そもそもつがいでいるのかもわからないし、この竜がオスなのかメスなのかもわからない。


 血を抜くのに3日かかった。

 それから解体だ。頭は剥製にして神として崇めるそうなので祭りは継続されると言うことだろう。

 死してなおこの海洋国家を守るとは思えないがな。


 3日ぶりにみんなに会いにいく。

「ケント!やっと帰って来た!」

「ルビー、リシェル、ただいま」

「お帰りなさい、ケント様」

「おかえり!」

 2人とも抱きついて離れない。

「ぉ、おほん!」

 アシュレイが咳払いをすると離れて、アシュレイが邪魔者扱いされる。

「悪いな、また王城に戻らなくてはいけないからな」

「なんで?」

「まだ水竜の解体が途中だからだ。どうせなら綺麗に解体して欲しいからな」

「そう、あ、これ鑑定して欲しいもの」

 そこには雑多に置かれたバッグや武器が置いてあった。

「これは?」

「あぁ、アシュレイには言ってないが俺は鑑定が使える」

「なっ!鑑定だと!」

「へぇ、だいぶ集めたな。全部マジックバッグに武器はオリハルコンやミスリルだ」

「やった!これ金貨1枚もしてないのよ!」

「そりゃ凄い!」

「ま、マジックバッグ?値段がつかない代物じゃないか!しかも持ち主が死んだら開かなくなる」

「それは契約していたらだろ?しかも俺は解呪もできるしな」

「そ、そうか、す、凄いな」

「解呪…収納…よし、ほれアシュレイ!」

 マジックバッグを投げ渡すと受け取るアシュレイ。

「な、いいのか?」

「うちはもうみんな持ってるからな、なんで集めたんだ?」

「えへへ、なんでだろ?収集癖?勿体無いと思って」

「…なら使ってもらった方がいいな」

「うん、ケントの自由にしていいよ」

「じゃあ、この武器類はメンテナンスに出してくれ。マジックバッグは俺が預かるよ」

「「はい」」


「本当にいいのか?」

「…要らないならいいが?」

「あ、ありがたくもらうよ!」

「それでいい」


「なんか喋るようになって来たんじゃない?」

「…そうか?」

「あ、また一呼吸置くようになった」

「…んー、いまのは指示が出せるものだったからかな?」

「でも口数は増えてるから大丈夫!」

「あはは、そうか」

 久しぶりに少し笑ったな。

 

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