第25話 蒼月花


 次の日になった。結局は何も起こらなかったな。

「ケント様、本当に金貨3万枚なんて用意できるのでしょうか?」

「…金の問題じゃない」

「はい」

「誠意が見れればそれでいい、俺たちを騙していたんだからな」

「ま、まぁ、そうですね」

 宿から出ると門兵のところへ行く。

「賞金首ではなかったが報奨金で金貨100枚だ。残念だったな」

「…いや、そうか」

「あと犯罪奴隷の代金として1人金貨10枚で健康な犯罪奴隷が12名だから金貨120枚な」

「…分かった」

「それじゃあな!」

「あぁ」

 門の外を歩いていると門の方から声がする。

「まってくれ!!!かき集めた!!」

「ちょっと待っててくれ」

「はい」

 俺は歩いて門に向かう。

 ギルド長はヨレヨレで汗も凄いな。

「す、すまんが金貨3万枚は掻き集められなかったが二万枚以上はある!領主の全財産も入っている!こ、これでどうにか!お願いします」

 土下座に近い格好で頭を下げている。

 台車には袋がいくつも積んである。

「…はぁ、最初から命賭けろ!こっちも命掛けてるんだ!」

「す、すまなかった!」

「ほら、とりあえずこれを早く持って行け」

「あ、ありがとう!」

 俺は金貨を収納すると花を持って走って行くギルド長を見送った。

 まぁ、ただの金だ。命と天秤にかければ金なんてどうでもいいだろう。


 俺が馬車に戻ると馬車は次の街に向けて出発する。

「渡してよかったんですか?」

 と聞いてくるダウン。

「…本気がちゃんと見れたからな」

「そうですね」

 とにっこり笑うダウン。他のメンバーは???と言う顔をしている。

(まぁわざわざ言う必要もないからな)

「まーた勝手に変なことに首突っ込んだんでしょ?」

「…まあな」

「これ以上増えたら大変よ?」

「…それはそうだな」


(これ以上は増やすと面倒だな)

 でも勝手に増えてるのにどうしようもない。

 ボン婆の子守唄のような歌を聴きながら馬車は進む。ゆっくりとだがな。護衛が三人もいるこの馬車を襲うような盗賊はいないだろうしな。


 山道を走り馬車は軽快だ。

 護衛の3人も小走りでついてくる。


 途中休憩を挟みながら道を走っている。

 途中で野営をして3日目ほどでようやく街が見えてきた。


 まぁそれまでにウルフ系とボア系の魔物と戦ったが3人が意外と動けるのでびっくりした。解体も綺麗にしてくれたのでボアは食糧となった。


 次の街は海があった。

 港があり、魚介類を久しぶりに堪能出来ると楽しみにしていたが、生では食べないようだな。刺身や寿司は好きなのだが、いかんせん醤油がないからな。


「うめぇ!魚ってのは美味いもんですね!」

「酒の肴とも言うしのぉ」

「…それは違う意味だ」

「そうじゃったかのぉ?うひゃひゃ」

 ボン婆はあいも変わらず美味そうに酒を飲む。

「…ほら、骨はないぞ?」

「うみゃいうみゃい」

「これも取ってぇ」

(即席で箸を作ってみたが上手くいったな)

 ネアとノアは何の獣人なんだ?猫じゃないのか?骨が嫌いなんてな。

(でも魚は好きなんだな)

「ケント様は器用ですね」

「…慣れれば簡単だ」

「そうなんですね、挑戦してるんですがなかなか難しいっす」

 と言って箸を何とか使うが刺して食べているな。

「リシェルは使いこなしてるな」

「はい!教えてもらった通りにやれば簡単ですね!」

 宿の飯は美味かったが刺身なんかは自分で作るしかないか。明日は魚醤を探してみるかな。


「ダウンばっかり贔屓です」

「私達も同じ部屋がいいです」

「…なぜ?」

「え、だってダウンとばっかり話をしてるし」

「私達もケント様ともっと仲良くしたいです」

「…俺は喋るのが苦手だ」

「えー、でもそこもいいんですよね」

「わかるぅー!寡黙なところもいいです」

(こいつらは何を言っているんだ?)

「部屋割りは決まってんだから別にいいだろ?さぁ、帰った帰った」

「チェッ!」

「ケント様!私はいつでも」

“バタン”

「これでいいっすか?」

「…あぁ、助かるよ」

(こんなに好かれることはなかったからな、少し戸惑ってるのかな)


 さて、少し荷物でも整理するかな。


 ダウンはベッドで横になってイビキを描いている。

できればこいつらを奴隷から解放してやりたいのだが、どこか抜け道はないのか?


 盗賊から手に入れた宝石なんかも換金してしまいたいが。しまったな、王都で監禁するべきだったな。

「…ボン婆に聞きに行くか」


“コンコン”

「…ボン婆いるか?」

「はいっていいぞ」

 そこには下着姿で寝るミイとスィがいたが、気にしたら負けだな。

「ボン婆、奴隷の解除方法はわからないのか?」


「…ふぅ、それで此奴らを自由にしたいと?」

「…出来ればな」

「そうか、無いこともないがこれは呪いの類でな?奴隷の神に生贄を捧げるという意味も持つ。じゃから奴隷から解放するということは奴隷の神の生贄を奪うということになるのじゃ」

(そうか、それで一度でも奴隷になった人間は抜け出せないのか)

「じゃから簡単には奴隷の解呪は出来ない」

「…そうか、分かった」

「分かってもらえてよかったわい、此奴らは奴隷の中でも最高に贅沢してる。わがままも言う必要ないくらいにな?じゃからこのままでいい」

「分かった。また話を聞きに来てもいいか?」

「もちろん!ワシ達は仲間じゃろ?」

「…あぁ、そうだな」

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