第24話 フェンリル
「いや、待たせたね!」
「…」
「あれ?聞こえなかったかな?まぁいいか、私がギルド長のハリスだ!よろしく頼む」
「…ケントだ、こっちはダウン」
髭を綺麗にまとめた紳士と言えば紳士だが、
「それでだね!依頼したい案件があるのだが聞いてもらえないかな?」
「…はぁ、内容による」
「分かった、それでは率直に行くぞ。蒼月花の採取を依頼したい!」
「…知らんな」
「ケント様、やめた方がいいです。蒼月花はフェンリルが大事に守っている花のことです」
「…だそうだが?」
「そうだ、別に隠そうとしていない。フェンリルが守る蒼月花の群生地は分かっている。そして困難なことも。だがどうしても必要なのだ」
「何故だ?」
「ここからは機密情報になる」
「聞かないと判断ができん」
「そうだな、ここの領主の娘が呪われている。回復魔法も効かない。解呪できればいいのだが呪った本人はもう死んでいてどうにもならんのだ」
「それがあれば解呪できるのか?」
「おそらく、これは賭けだ。フェンリルの神話に出てくる蒼月花は呪いを消すと言われている」
「はぁ、どれくらい持つんだ?」
「…わからない。だがあまり時間はない」
「詳しく話せ、その地図も持ってこい」
「ケント様!悪い冗談ですよね?フェンリルは狼ではなく神ですよ?」
「…神はいる。だから俺1人で行く」
「お、俺だって行きますよ!ケント様だけ生かせるわけないじゃないですか!」
「…はぁ、好きにしろ」
この街はフェリン、フェンリルに守られた街らしいがその街の裏にある森にフェンリルがいるらしい。フェンリルはあまり姿を表さず、いまは守神として祀られているそうだ。
森の奥深くにある蒼月花の群生地は偵察で生き残ったものが何とか仕入れてきたものらしい。
(やはりフェンリルが守っていると言うことらしいな)
「よし、今から行く」
「え、皆んなには?」
「伝えてきてくれ、俺は行くから」
「ま、待ってください!せめて俺だけでも連れて行ってください」
「分かった、じゃあ行くぞ」
「は、はい!」
「すまない、こんなことを頼んでしまって」
「報酬を用意しとけ」
「わ、分かった」
街の裏にある森の中に入って行く。
静かな森だ。
(静かすぎるな)
地図にある場所に最短距離で行く。
『ふぅ、また人間か…』
「そうだ、悪いが蒼月花をひとつ分けてもらえないか?」
『何故我の声がわかる?』
「さぁ?俺がこの世界の人間じゃないからかもしれないな」
『そうか、だがタダでやるわけには行かぬ』
「何が必要だ?」
『お前が蒼月花に相応しいか見てやろう』
すると巨大な真っ白い狼が姿を現す。
『ほう、お前は腰を抜かさないのだな』
「地龍よりは小さいな」
『カッハッハッハ!地龍を倒したのはお前か?見事なり』
「あいつは何も喋らなかったが?」
『あやつはもう年でな、好き勝手に動いておっただけだ、もう考えることもしなくなったのだろう』
(あの地龍は長生きしていたんだな、まぁ、倒せる人間が描き破られてくるし天敵もいなかっただろうからな)
『分かった、蒼月花を渡してやろう』
「…いいのか?」
『地龍を倒したのだ。お前と戦えば我もただでは済まぬからな』
「…そうか、すまんな」
綺麗な蒼い花だ。一輪だけ俺の手に乗せてくれた。
「これで、呪いは解けるのか?」
『呪いなぞ退けるだろうな。エリクサーの原料だ』
「…はぁ、そんな貴重なものだったか」
『カッハッハッハ!知らずに取りに来たのか、まぁ良いお前にもう一本やろう』
「…何故だ?」
『気に入ったからだ、それはいざという時に使え。お主のようなものが英雄となるのであろうな』
「…そんな願望は無いな」
『気に入ったぞ人間!名は何と言う』
「ケントだ」
フェンリルは何かを唱えると、
『覚えておくぞ、ではな!』
風が吹くと消えてしまった。しかも森の中にいたのに森の外にいる。
(狐に化かされたみたいだ)
だが手に持った二輪の花は確かにある。
二つとも収納に入れると街の冒険者ギルドに戻る。
「とってきたのか?」
「お前はこれで何ができるのか知っていたな?」
「そ、それじゃあとってきたのか!見せてくれ!」
「…答えろ」
「…あぁ、エリクサーだ」
「何故言わなかった?」
「言っても信じなかっただろ?」
「お前は俺をみくびっているな?」
「そ、そんなつもりはない!報酬だってちゃんと用意した!」
「いくらだ?」
「金貨千枚」
「話にならんな」
ギルド長は顔を真っ赤にして怒っている。
「な、なんて傲慢なんだ!領主の娘だぞ!助かる命だ!」
「…それが?俺はいろんな命を絶ってきたぞ?」
「クッ!い、いくらだ?」
「金貨3万枚」
「ふ、ふざけるな!そんな金はない!」
「なら諦めるんだな」
「フーッ!フーッ!わ、悪かった!エリクサーのことを黙ってたのは!だが蒼月花がどうしても必要なんだ!」
「なら金貨を用意することだな」
「そ、それは!」
「…明日まで待つ」
(さぁ、どんな手を使ってくるかだ。ちゃんと金をかき集めるのか、それとも)
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