第9話 リシェル


「だが、買うか」

「え?」

「親父!こいつはいくらだ?」

「あぁ?お前マジで買うつもりか?死病だぞ?それでも買うのか?」

「…ああ、ダメか?」

「いや、願ったり叶ったりだ、金貨一枚でどうだ?」

「それでいい」

 と金を払うと女を抱き抱えて持ってくる。

 そして契約の儀式を済ませる。

 貫頭衣の女が苦しそうにするのですぐにその場から去り、女にフルケアをかけるとグッタリして寝てしまった。


「な、何で買っちゃうかな?」

「しょうがない、助けてと声が聞こえた」

「それで助けてたら奴隷なんかこの世にいない!」

「もう買ってしまったから」

「むー、…しょうがないけど」

「…悪いな」

 宿に戻り2人部屋にしてもらい、エルフをベッドに寝かせて買い物に出かける。


「服は同じようなのでいいだろう?」

「は?奴隷じゃ無いの?」

「いや、どうせなら普通に暮らさせたい」

「いやいや、奴隷は奴隷よ?」

「…俺のわがままだ」

「…分かったわよ!買ってくればいいんでしょ!」

「頼む」

「もう、お人好しもすぎると変人ね」

 と言いながらちゃんと選んで服を買ってくれている。

(口は悪いけどちゃんとしてるんだからな)

 信頼のおけるパートナーだ。


 買い物を済ませて部屋に戻ると土下座をしてるエルフを見ることになった。

「す、す、すいません、ベッドなんかに寝かせてもらいありがとうございました!」

「…顔を上げろ」

「はい!」

 顔を上げると汚れているが肌がほんのり赤くなって血色が良くなっている。

「はい!着替えるからケントは外ね!」

 とルビーに追い出されてしまった。


「よし、入っていいよ」

「こ、こんな服を着させていただきありがとうございます」

「…うん、似合ってるな」

 金髪ロングでサラサラな髪はまだ汚れが落ちていないな。

「クリーン」

「わ、わ」

「ふーん、可愛いじゃ無い!」

「そうだな」

 ルビーの見立てた服もバッチリ似合っている。

(金髪碧眼のまんまエルフって感じだな)

「あなた名前は?」

「リシェルです」

「…俺はケントだ。こっちはルビー」

「ご主人様とルビー様ですね。よろしくお願いいたします」

(ご主人様はちょっとなぁ)

「言い方は変えられないか?」

「はい!どのような言い方にすればよろしいですか?」

「ケントで頼む」

「はい、ケント様」

「ほらね!ケントの負けよ?買ったからには面倒見なさいよ?」

「…はぁ」

「わ、私は何でもいたしますのでど、どうか捨てないで下さい」

「はぁ、あんた、この人に買われてほんとよかったわよ?単なるお人好しだからね!」

「え?」

「あんた助けてって言った?」

 リシェルはオドオドして、

「た、たぶん神様に願っていましたから言ったと思います」

「はぁ、それを間に受けて奴隷を買っちゃうんだからバカなのよ」

「ケント様の悪口は言わないでください」

「はぁ、もうケントの奴隷気分よ?どうするの?」

 ルビーが口をへの字にしている。


「何か得意な武器なんかはあるか?」

「弓が少々使えます」

「じゃあ後衛だな。宿はルビーと一緒の部屋だ。俺は奴隷について詳しく無いが、一緒のものを食べて普通に接するつもりだ」

「久しぶりの長台詞ご苦労様!と言うわけであんたは今から私たちの仲間よ?」

「は、は、はい、勉強していきますのでよろしくお願いします」

 リシェルが頭を下げる。


「食え、食べてないだろ」

 サンドイッチを渡すと、

「は、え、はい」

「食べなさい!今から普通に食事も取ってもらうからね!」

(ルビーがご主人様の方が良かったんじゃ無いかな?)


「お、おいひいです」

 涙を流しながら食べるのはそれだけ辛い目に遭ってたんだろうな。

「ゆっくりでいいぞ」

「は、はい」

 リシェルはゆっくりと噛み締めながら食べている。


「はぁ、これからどうするの?」

「リシェルが食べ終わったら防具と武器が必要だろう?」

「あのね?普通は奴隷に武器は与えないのよ?」

「俺は与える」

「…分かったわよ、じゃあ食べ終わったら武器と防具ね」

「…ありがとう、ルビー」

「もう!しょうがないでしょ?買っちゃったら一生面倒見なさいよ!」

「解放できないのか?」

「無理ね!奴隷は奴隷だからよ?」


(俺にはその意味はわからないが人間だろ?普通に生活する義務があるだろ)


「…はぁ、奴隷か」

「そうよ!だから買うなって言ったの!」

「まぁ、後悔はしてない」

「あっそ!それじゃあちゃんと面倒見るのね?」

「わかったよ」

「よし!じゃああたしも協力してあげるわ」

「ありがとう」

 と頭を下げる。


 それから飯を食ったリシェルを連れて防具屋に行き、武器屋で武器を選ぶ。

「こ、これでいいです」

「こっちは?」

「私なんかとか思うんじゃ無いわよ?これはケントの命にも関わってくるんだからいいのを選びなさい」

「は、はい!ではこっちで!」

「…他にはナイフとかいるだろ?」

「そうね、後衛だけど自衛出来ないとね?」

「は、はい」

 そうして決めた武器を買う。矢は俺が収納してればいいから大量に買っておいた。


「で、でも」

 夕食時に席に座らない。

「…いいから座れ」

「はい」

「リシェル?これからこれが普通になるの!私達の手を煩わせないでね」

「はい!」

(やはり主人はルビーの方が良かったな)

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