第3話 ルビー


 宿は武器屋の親父に教えてもらった錆猫亭だ。

“カランコロン”

 と鐘の音を聞いて出てくる女将。

「あらいらっしゃい!銀貨2枚で朝食付きだよ」

「とりあえず2泊で」

「あいよ!お湯が欲しけりゃ銅貨30、晩飯食いたきゃ銅貨30、まあ、大抵のものは銅貨30でなんとかなるよ」

「じゃあ。何か食い物を、あとお湯も後で欲しい」

「あいよ!いいね!じゃんじゃん使っておくれ!まず飯だね!そこに座ってな」

 とカウンターに座る。

(ゴブリンの死体、金貨56枚、マジックバッグ二つ、鎧が七つに服が30着、剣や槍が21本…鎧が足りないな)

 などと数えているとすぐに飯が出て来た。

「あいよ!熱いから気をつけるんだよ」

 シチューにパンにサラダにこれはエールか、ボリュームも悪くない。

「…いただきます」

「あいよ!召し上がれ」

シチューはザラつくが濃厚でミルクの味がよく分かる、パンは少し硬いがシチューに付けて食うとまた違う食感だ。サラダは野草か?これはドレッシングが上手いからいい。エールはぬるいが薄い味で何倍でも飲めるな。

 

 俺はこの性格のせいでクビにされた元サラリーマンだ。何かの拍子に気づいたら陽気な女神にのところにいた。

 そして今だ。

 何故俺がここにいるのかはわからないが人を斬るのも初めてだし、人と喋るのも苦手。

 よくあの女神も俺を選んだな?

「…美味い」

「おっ!こっちまで聞こえたよ!美味いってさ!旦那が作ったんだ!美味くて当然さ!」


 俺は最後の一口を食べ終わると、

「ご馳走様」

「あいよ!あとはお湯だね!部屋で待ってな!」

 と言われて鍵を渡される。

 201とデカデカと書かれている。

 部屋に入るとベッドに椅子にテーブルと洗い場のようなところがあった。窓が閉まっていたので開けてみるとちょうど大通りが眺められる。


“コンコン”

「…」

 開けるとちびっ子が2人で大きめの桶にお湯を入れ持って来たようだ。

「「どこに置く?」」

「そこに」

「「あい」」

 一息ついてる2人に銀貨を一枚渡す。

「あ、え?こんなに?」

「ええ!すげぇ!」

「…貰っとけ」

「「あい」」

 と2人は飛び跳ねて出て行った。


 お湯が来たので裸になって手拭いを濡らして拭いていく。

 見覚えのない傷だが胸に銃痕のようなものがある。

(思い出したな、あの時死んだのか)

 女の人を庇って銃で撃たれ死んだのだ。

 オフィスビル街で銃を乱射してる奴がいて危ないと思ったら体が動いていたんだな。


(覚えていたらあのあとどうなったのか聞いたのにな…まぁ、死んでここに来たんだ、あとは俺の知るところではない…か)


 体を拭き終わると新しい服に着替える。身長はでかい方なのであそこで着替えた服も手足が短くてまいった。何とか着ていたがようやく自分にあった服を着ている。と前に着ていたスーツを洗うと血だらけだな。だが、何となく捨てれそうな気がしないんで念入りに洗う。水は捨てる場所があったので捨てようと思ったが、血生臭くなると思い外に捨てに持っていく。


「なんだい?どうしたんだい?」

「…これはあそこでは捨てれないだろ?」

「おやおやまあまあ、いい心がけだね!ありがとよ、これはこっちで受け取るからね」

 と軽々持って、

「チビ達!これを捨てて来てくれ」

「「あい!」」

 また2人のちびっ子が運んでいく。

(可愛いもんだな)

 

 部屋に戻るとそういえば着てた鎧も足しとくべきと思い収納に入れるがどうにも足りない。マジックバッグとやらを出してみると口を開いて中に手を突っ込む。

(鎧が32、武器が7つ、他にもまだあるな)

 もう一つのバッグを探るとこちらは金貨なんかの他に宝石類が入っていた。


「…これだけの被害を男5人でやっていたのか」

(死ぬ時はあっけない死に方だったな、もう少し痛めつければ良かったな)

 椅子に腰掛け外を見る。活気のあるいい街だな。

 


「…ん」

 知らぬ間に眠っていたらしい。やはり精神的につかれていたようだ。

(まだ飯はやっているかな?)

 外はすっかり暗くなっている。

 

 ドアを開けると下は賑わっているみたいでホッとする。


「…女将、晩飯を頼む」

 と30銅貨払うと、

「あいよ!あ、あんたチビ達に銀貨なんかやったって?すごく喜んでたよ!ありがとね」

「…あぁ」

「じゃあ座ってまってな」

 カウンターの空いてる場所に座ると、

「「おぉー」」

 と声が聞こえる?

(拙いところに座ったのか?)

「へぇ、あんた今日来たばっかりだから知らないようだね?」

「…あ?座っちゃ悪いのか?」

「退く気がないみたいだね?」

「飯を食うだけだからな」

 他の客らはいつ退くのか賭けているようだ。

「はぁ、これでも退かないのかい?」

 女の右半身は何かできものができたように水疱だらけだった。

「食う気も失せただろ?」

「…はぁ、フルケア」

「な、に、を?」

 女の水疱は光と共に溶けて無くなっていく。

「「「ウオオォォ」」」

「…いい女じゃないか」

「…あ、あれ」

 女は涙を流す。

(四つ目を早速使うとは思っても見なかったな)

「あい…ルビー、あん、た、良かったねぇ!あんたもよく治してくれたよ!」

 女将が俺の席に飯を置いて女のところに行くと涙を流して喜ぶ。

「…別に」

(飯が不味くなるから治しただけだ)

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