処刑まで、あと4日

 ドタバタと、慌ただしく現れた人物を見て、オスカーは脱力している体を無理に起こした。


「アーサーに何を言ったんですか?!」

「……未来を、託した。お前たち、二人に」


血相を変え、息を荒げながら問うレオに対し、オスカーは、ゆっくりと区切って答えた。


「先生、まさか……」


レオの言葉をオスカーは掌を前に出して断つ。レオは、それ以上、オスカーの現状に口を出すことはなかった。


「……アーサーの様子がおかしいんです。昨日、帰ってきてからずっと。僕は頭が良くないから確信は持てないのですが……その……あまり、良くないことが起こる気がして……」


確かに、頭脳戦はアーサーの方が優れている。しかし、レオの勘も、よく当たるものだった。おそらく、レオが感じ取っているものに偽りはないだろう。オスカーは少し考えた後


「気づかれたの、かもな」


と、小さく呟いた。


「気づかれた? 何に、ですか?」


レオの問いに、オスカーは力無く笑う。そして失った右腕に巻かれている包帯を解くと、傷口をレオに見せた。次の瞬間、レオの顔は青白くなった。


「な、んですか……その紫色……」

「聞かなくても、わかるだろう。毒だ」

「どうして……」

「医者に、やられた。毒が回るのを、防いだが、やはり、厳しかったな」


あからさまに弱っていくオスカー。息も、少しずつ上がってきている。汗は衣服で吸収できずに床にぽたぽたと落ちていく。レオはその様を見ていることしかできない。


「は、早く治療を……ッ!」

「要らん」

「でもっ、このままじゃ……!!」

「あと四日くらい、耐えられる」

「そういう問題じゃ……」

「そんなことより」


心配するレオの言葉に被せ、オスカーは言う。


「アーサーを、なんとかしろ」


オスカーの赤い瞳が、レオの瞳を刺す。レオは、師匠の一言に息を呑んだ。


「なんとか、って……そんなこと言われても、僕にはわかりませんよ。貴方と戦った、あの日から、僕は迷ってばかりです。本当に、これが、正しい決断だったのか……」


揺らぐレオの瞳を見て、オスカーは一つため息を吐いた。


「正しくなければ、お前が負けていた」


コホッ、と乾いた咳を溢し、オスカーは何かを悟ったように天井を見ると、微笑む。


「レオとアーサー、お前たちは二人で一つだ。二人が同じ方向を向いた時、俺を超え、世界を変える」


まるで昔のような優しい声で話すオスカーに、レオは違和感を感じる。

 次の瞬間、オスカーは、ぐらりとバランスを大きく崩し、頭を壁にぶつけながら倒れた。頭から血が流れる。


「先生!?」


返事はない。


「アーサーを呼んできます!」


レオは、自分の出せる最大限のスピードで走り去る。オスカーは、微かに聞こえる弟子の声と足音が消えた後、ゆっくりと目を閉ざし、意識を手放した。

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