第55話:あわない?


 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢


(あれ…切れちゃった…)

 ロキに想いを伝えようとした矢先、回線の都合上通話が途切れてしまった。


(でもこれで良かったのかもしれない、さっき伝えちゃってたら変な空気になって配信どころじゃなくなっちゃうしね。それにしてもなんだか3人とも仲が良さそうな雰囲気だったけど……たまに通話でもしてるのか?)

 3人がリアルでの面識を持っていることなど莉未は知りえなかった。


 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢


 翌日。講義前の教室にて。


「でもさ、そまりさんが学校に来るとは思わなかったよね」


「いつも急だよあの人は。猪突猛進というか…思ったことをすぐに行動にうつすというか」


「その人が噂の”そうままり”って人か」

 雪弥と2人で話していると遅れて瑛人が到着した。


「そう。瑛人は昨日ちょうど休みだったからな」

 あの後雪弥がおれ達のグループLI〇Eで瑛人にほうこくしていた。


「ああ、会ってみたかったね」

 と言うと瑛人はおれの顔を見てニヤリと笑った。

 この前街で相談したことを瑛人は覚えていたようだ。


「んで?4人で配信って何やるの?」

 瑛人は椅子に浅く座り興味無さそうにスマホをいじっている。


「まあ昨日も話しけど桃太郎〇鉄かな。万人受けするしさ」


「まあその辺がベターかもな。マイ○ラとかはやりだすとキリがないからな」


「うーん…。僕最初マイ○ラがいいかなあって思ってたんだけど、やっぱりそうなんだよね」

 とか言いつつ雪弥は本心では格ゲーあたりをやりたかったんだろうな。


「んー、初めての顔合わせでも不自然でなく万人受けするようなゲームかあ…。……、あ!Gang B〇astsは!?あれ協力プレイで面白そうじゃん!」

 瑛人はスマホを置きキラキラとした眼差しを向けた。


「ああ、あのふにゃふにゃしたやつ?確かにグループ実況者とかでやってるの見たことあるかも。」


「でもあれってさ、結構声の掛け合いとか必要だと思うけど…、mmさんと麻梨さんって今のところあんまり打ち解けてない…っていうかmmさんが麻梨さんに対して心を開いてない感じがするんだよね」

 雪弥がため息をつく。


「おいおい、これからコラボする実況者がなに辛気臭い顔してんだよ。じゃあさ、思い切って会ってみたら!?オフ会ってやつ?レト〇トとかキ〇も会ってるじゃん!?」

 瑛人は勢いよく立ち上がった。


「はあ?会うって言ったって…、でもまあおれと雪弥、まりさんはお互いに面識あるしなあ」

 逆にmmは誰とも会っていないはず。


「mmさんは?mmさんは誰とも会ってないんじゃない?」


「ああ、そっかあ。でも別にmmって人も会ってくれんじゃね?散々コラボしてきた嬌太郎ってか”ロキ”も居るわけだしさ」

 mmがいつも通じているのはロキ、mmがおれの素性を知らないのはもちろん、おれもmmの素性を知らない。

 期間が長かったからこそ顔を合わせるのが怖い。

 お互い過去に一度も顔出しはしていない。

 対面したところでmmにがっかりさせていまったらどうしようか。

 おれなんてその辺居るような凡人顔…

 それに今までに付き合ったことがある女子が1人しかいないような男だ。

 PC越しだから上手く話せてるが実際に会ったらどうだ?

 おれは彼女に向き合うことができるのか?



「…ぃ……お…い…おい!嬌太郎!」


「え!?な、なに!?」

 俯き頭の中に漂う不安を瑛人が一気に吹き飛ばした。


「なに?じゃねえよ、雪弥と話してたんだけどよ、最初にみんなで集まるのはmmって人にとって負担がかかるんじゃないかって。」


「そこでね、最初に嬌太郎くんがmmさんと2人で会ってそれからみんなで集まった方がいいと思ったんだ」

 雪弥は瑛人の方を向き、ねっ、と合図した。


「おれと…mmが?」


「ああ、別に変なことを言ってるつもりはないと思うけど」

 言われてみたらそうだ。

 最初にmmと会っておけばおれからmmを雪弥とまりさんに紹介することができる。


「とりあえず考えてみるよ」


「うん、よろしくね。麻梨さんは早々に4人で配信するつもりだからその辺もできれば考慮してね。…なんか嬌太郎くんにばかり背負わせちゃってごめんね」


「いや、大丈夫…たぶん」


 その後講師の人が少し遅れて登壇し、全く集中することのできない講義が始まった。


 ♦♢♦


 2人と別れアパートに着きベッドに倒れ込んだ。

 とりあえす考えておく…とはいったものの何から始めるべきなのか。

 …まあ単刀直入にmm本人に聞いてみるしかないのだが。


 ポケットに入っているスマホを取出し彼女へのメッセージ欄を開く。

 しかし指が動かない。

 会ったら幻滅され嫌われてしまいコラボも打ち切りになってしまうのではないか。

 せっかくコラボ用のゲームを探してきてくれたのに。


 スマホをジーっと見つめていると、ピコン、という音とともに彼女からメッセージが来た。

 あ、mmだ。

 …ん……って、これまずくないか!?

 今ずっとmmとのメッセージ画面を見ていたってことはあっちもおれがこの画面を開きっぱなしにしていることに気づいたよな!?

 さすがに気持ち悪いって、何ずっと見てんだよって。

 ……いや落ち着け…大丈夫だ。



 ―――― SNS【mm】――――

『おつかれロキ、今日の21時頃動画のことで話さない?』

 ―――― SNS【mm】――――


 なるほど、コラボ動画の打合せの話しね。


 ―――― SNS【mm】――――

『びっくりした、おれも今そう伝えようと思ってたとこだったんだよね』

 ―――― SNS【mm】――――


 これで逃れられる。


 ―――― SNS【mm】――――

『どうりで既読つくの早いよ思ったよー。ずっと見てくれてるのかと思った』

 ―――― SNS【mm】――――


 するどいなあ、はあ、あぶねあぶね。


 ―――― SNS【mm】――――

『まさか、21時ね。じゃあ飯食ったりいろいろ済ませておくよ』

『はーい、じゃああとでね』

 ―――― SNS【mm】――――



 なんとか凌ぐことができたな…。

 さ、準備するかー。


 嬌太郎はこの時、mmの『見てくれてる』という言葉に気づくことはなかった。


 ♦♢♦


 時計の針が21時を差したところでおれはmmに通話をかけた。


  ――― ビビーッビシビシ


 なんだ、今の音?

 …まあいいか。


 ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー

『おツかれー』

『こんバんわロキ』

 ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー


 …ん?

 音声が極端に悪くないか?


 ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー

『なンか声割れしテない?』

『確カにちョっと悪いかモ…』

 ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー


  ――――ビビッビシビシ、ピーピー


 ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー

『あれ?直った?』

『あーあーあー。うん、直ったみたい』

『この通話ツールもさ、もうちょっと改善してほしいよね』

『うんうん、声質もちょっと変わるみたいだしね』

『らしいね、mmの本当の声も聞いてみたいな』

『動画で分からないかな?』

『分かると言えば分かるけど、やっぱりちゃんと話してみたいかなって』

『話してみたい…私も。…メンテナンスとか入るといいんだけどね』

『うんうん』

 ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー


 あれ?この流れで会ってみるってことにならないか?

 …いける…言うしかない。

 いまこれを逃したらもうチャンスはないかもしれないんだぞ…。


 伝えないと。


 ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー

『えーっと…』

『どうしたの?ロキ』

『だからさ…この通話ツールをずっと使うのもあれだし……ほら…LI〇Eのこともあるし…』

『LI〇Eのこと…?』




  ―――― 『だから…さ、…………あわない?』



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る