第54話:ロキってさ
「4人で配信!?」
「そーそー、だめー?」
「逆に大丈夫だと思ってるの?」
「うん」
能天気すぎる…。
「あれ、嬌太郎くん?」
後ろを振り向くと雪弥がコーヒーを片手に立っていた。
「その人誰?」
「相馬麻梨です!”まり”でいいよー、よろしくね」
「え、あ、灰川雪弥です…よろしくお願いします…」
「雪弥くんはきょーたろうくんの友達?」
「そうです…」
「あれ、雪弥今日休みじゃないっけ?」
「ちょっと研究室に用があってさ、ついでにサークルにでも顔出そうかなって。嬌太郎くんも行く?」
「サークル行くの?んーどうするかな」
「え、きょーたろうくんサークル入ってるのー?それは初耳だよー」
「ゲームサークルです。サークルと言ってもほんと何もしてないんですけどね。ね?嬌太郎くん?」
「あ、うん…」
この前入った雪弥にまでここまで言われるとは…。
「なーんだ、大会にでも出てるのかと思ったよー」
大会…か。
「大会ですか?大会ならこの前…」
おれは即座に雪弥の口を塞いだ。
「…ばか…まりさんには雪弥が”廃リバー”ということはバレてないんだぞ?…」
耳元で小声で話すと雪弥は、あ、そうだった、と冷や汗をかいた。
「大会?この前?んー?んんん?」
「な、なに…?」
「いや、この前ロキって実況者がAP〇Xの大会に出てるの思い出してさー」
「ああ!あの時大変だったよね、ね!嬌太…郎…く…ん」
みるみるうちに雪弥の顔をは青ざめていった。
あーあ、こいつやらかしたな。
「はははー、雪弥くんって天然?ってことはさー雪弥くんは”廃リバー”くんかな?」
間違いない、まりさんは雪弥に鎌を掛けたんだ。
なかなかの策士だな…。
「きみたちは”ロキ”と”廃リバー”ってことねー。そしたら”mm”ちゃんは誰なの??」
「はあ…やられたな。同学年で同じく大学生ってとこまでは知ってるんだけど」
mm…かなり付き合い長いけどほんと何も知らないよな…。
LI〇Eもまだ交換できてないし。
「あ…あの、麻梨さんももしかして実況者なんですか?」
「あれ、言ってなかったっけ?ウチは”そまり”だよー。一度一緒に配信したことあるんじゃないかな?」
「あー、ありましたね!」
あの時雪弥はドン引きしてたよな。
「雪弥もう帰った方がいいよ、この人面倒だから」
「めんどー?ひどいよー、きょーたろうくーん」
ほらね、と振り向くと雪弥は苦笑いを浮かべた。
「じ、じゃあ僕行くね。麻梨さん、また今度お話ししましょう」
食堂の出口へ向かおうとした雪弥にまりさんが声で引き止めた。
「まって!あのさー、一緒に面白いことしようよ!」
雪弥はその声に驚きのあまり肩を浮かせゆっくりこっちを向いた。
♦♢♦
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
『こんばんわ…』
『やっほー』
『おつかれー、特に雪弥』
『えー、ウチには労いの言葉はないのかよー』
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
労いも何も、やりたい放題掻きまわしていった張本人に何を言えと。
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
『えーっと…本気ですか?麻梨さん…』
『ほんきだよー、ほんきほんきー!』
『雪弥、もう諦めな。もうこれは決まったも同然のことだから』
『そ、そうみたいだね』
『ウチら3人はもう顔見知りだねー、でもmmちゃんは素性不明なんでしょ??』
『ああ、そうだよ』
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
会ってからじゃないとLI〇Eは交換しないという徹底振りだ。
この通話ツールも音質がひどいからそろそろ交換したいんだけどなあ。
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
『今mmちゃんも誘ってみるー?ウチは話したことあるから大丈夫だと思うよー』
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
あの時嫌な雰囲気になったの忘れてるのか?
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
『僕は一緒に通話とか配信したことないよ…、だって嬌太郎くんと一緒したのが初めてだったし』
『んでその初めて通話してた時にまりさんが乱入してきたんだよね』
『おー、よく覚えてるじゃーん。そんなにウチのことを想っていてくれてたのかー。嬉しいなあ』
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
はあ…ここまで話しが噛み合わないとは。
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
『じゃあmmちゃん呼ぶよー?ウチこの前フレンドになったからさー』
『ちょっと待って!連絡もしてないのに急に呼んだら失礼だよ!』
『え?もうかけちゃったけど?』
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
この人、アカン人だ。
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
『んんー?なかなか出ててくれないなあ…、あ!切られた!どうしてー?』
『そりゃそうでしょ』
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
ピピピ、ああ、mmからメッセージだ。
―――― SNS【mm】――――
『ねえねえ!そまりさんから通話の誘い来てるんだけど!』
―――― SNS【mm】――――
まあそうなるよね。
―――― SNS【mm】――――
『そまりがmmとまた話したいんだって、今回は”廃リバー”もいるよ』
『この前あんな空気になったのに?え、廃リバーさんもいるの??』
『うん、廃リバーもいる。入りたくないならおれから断っておくよ』―
――― SNS【mm】――――
流石に今回はこないだろ。
―――― SNS【mm】――――
『じゃあ入ってみる』
―――― SNS【mm】――――
入るのか、mmもどうかしてるなあ。
―――― SNS【mm】――――
『本気?』
『うん、でも何かあったら助けてね?』
『うん』
―――― SNS【mm】――――
何かの意味はよく理解できなかったが適当に答えてしまった。
―――― SNS【mm】――――
『じゃあ呼ぶから待っててね』
『うん!』
―――― SNS【mm】――――
どうなっても知らんぞ…。
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
『今mmからメッセージ来て少し話し合ったよ』
『それでそれでー?』
『いいってさ、今度はおれから誘うよ』
『やったー!』
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
えーっと、mmを指定したら…こうして…。
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
〈mmさんがログインしました〉
『こ、こ、こんばんわ。mmです…!』
『こんばんわ、mmさん』
『あ、廃リバーさん!こんばんわ!』
『やっほーmmちゃん』
『こんばんわ…そまりさん…』
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
やっぱりそまりに対しては硬いな。
♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
『まあまあmmちゃん、そう硬くならないでさー。一度通話した仲じゃないかー』
『で、ですよね…はい』
『えーっと、ほら。mmはそまりと話すの久しぶりだからちょっと緊張してるんだよ』
『緊張?そんなのだめだよー』
『え?なんで』
『だってウチら4人で配信するんだからもっともっと仲良くなっていかないとー』
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
ああ、本来の目的はそこだったな…。
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
『配信!?4人で配信!?…ですか…?』
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
mmがPCの画面越しにでもmmが目を丸くしているのが容易に想像できた。
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
『私そんなの無理ですよ…』
『僕も無理だと思ってるんです』
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
どうやら反対3の賛成1、通常ならば却下される。
だがその賛成1がまりさんだ、彼女が易々と諦めるはずがない。
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
『大丈夫大丈夫!なんのゲームやるー?』
『え?勝手に話し進めないでよ』
『だって集まってくれたってたことはそういうことでしょー?』
『僕、やるなんて一言も…』
『だいじょーぶ、やってみたら楽しいからー!ね?ロキくん?』
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
まりさんがおれに伝えたいのはこういうことだろう、初めてウチとコラボした時楽しかったでしょ、と。
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
『…まあ…やってみようか』
『え!?ロキ、どうしたの?』
『待ってよロキくん、僕、できないよ…』
『…あのさ、意外と楽しいと思うよ。おれはmmとコラボした時もそまりとコラボした時も廃リバーと配信した時も全部楽しかった。それが4人に増えただけだよ、失敗してもいいじゃん。やってみよない?』
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
途中、何をいっているか自分でも分からなくなっていたが言いたいことは言えた。
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
『…分かったよ、僕もやってみる。ずっと1人で実況しているのもいいけど友達と一緒に実況してみたい。上手く話せるか不安だけど』
『おー、ゆk…じゃなくて廃リバーくん!いいじゃーん。それでー?mmちゃんはー?』
『私は…私も…みんなとゲームがしたい…かもしれません。大会の時も楽しかったですし』
『ほんとー!?やったー!mmちゃんもやってくれるって!よかったねー、きy…じゃなくてロキくん!』
『…あの…このタイミングで言うのもなんですけど…そまりさんさっきから名前言い間違えてません?』
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
ギクっ、
そうなんだよな。
雪弥の時もおれの時もギリギリのところまで言いかけてるんだよな。
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
『えー?そうかなー、ウチさっきまで寝てたから寝ぼけてるのかもー』
『あ、そうなんですか?ごめんなさい』
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
まりさんって嘘つくことできるんだ。
下手だけど。
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
『じゃあゲームは決めておいてねー、ばいばーい』
〈そまりさんがログアウトしました〉
『うわ…またかよ』
『そまりさんっていつもあんな感じ?』
『そうだね、コラボのゲームとかはいつもおれが決めてたよ』
『ゲームどうしようね、僕はアクション系がいいけど』
『それじゃ廃が無双しちゃうでしょ』
『うーん、じゃあ桃太郎〇鉄は?』
『お、いいね!mm。多人数と言えば、って感じのゲームだしね』
『いいねいいね、まあでも時間はまだあるし、ゆっくり決めていこうね。あ、もう遅いから僕落ちるね、おやすみー』
『おう、じゃあな』
『おやすみなさい』
〈廃リバーさんがログアウトしました〉
『えーっと…なんかごめんね?』
『何が??』
『いや、そまりがいろいろ掻きまわしちゃって…』
『ううん、びっくりはしたけど分かってて入ったようなもんだからね』
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
2回目にしてもう耐性を付けつつあるのか、凄まじいな。
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
『……あの…さ』
『ん?』
『あの…ロキって…』
『何?』
『ロキって…そまりさん…のこと…』
『そまり?がどうしたの?』
『…ロキは…ロキはそまりさんのこと好きなの?』
『え』
『……』
『好きだよ』
『…や、やっぱり…そうだよね』
『好きだよ、友達としてね。そまりはすごく大切な”友達”。彼女もおれをそう思って接してくれてる』
『友達…なの?あんなに仲いいのに』
『すごく仲のいい友達、だからね』
『そっかあ、…じゃあ、私さロk…』
〈mmさんがログアウトしました〉
ー♢ー♢ー♢ー通話終ー♢ー♢ー♢ー
あれ、mm落ちちゃった?
最後mmは何を言いたかったのだろうか。
―――― まあまた今度聞けばいいか。
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