第56話:二度目の失恋?


 ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー

『…だから…あわない?』

『…え…?あう?…それって…』

『…あ!違う違う!違うよ?えーっと、あのさ…合わない?ほら、”そまり”と性格上合わないかなって!』

 ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー


 だめだ言えない…。

 せっかくのチャンスだったのに。


 ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー

『あ、そ、そういうことね。私てっきり…。そまりさんとは大丈夫だよ、私少し人見知りなところがあるけどあの人ならすぐ打ち解けられると思う』

『そ、そうだよね…!あー、うんうん。きっと大丈夫だよ!』

『…ロキどうかしたの?様子がおかしいけど…』

『え!?そう?普通だよ!普通』『ならいいんだけど…。気遣ってくれてありがとね。ロキって優しいよね』

『お、おれは別に…』

 ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー


 ただただ情けなかった。

 どうして自分はこんなにも臆病なのか。


 ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー

『…ごめんね、変な空気にしちゃって』

『ううん、大丈夫。打合せできそう?無理しなくてもいいよ?』

『いややろう。せっかくmmがいいゲームを探してくれたんだからおれが足を引っ張るわけにはいかないよ』

『ふふふっ』

『え?なに?おれ変なこと言った?』

『だって急に落ち着いて真面目なこと言いだすんだもん。ロキって面白いね。なんかちょっと思い出しちゃった』

『思い出した?』

『あ、ごめん。元カレの話し、ごめん』

 ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー


 mmが元カレの話しをするなんて久しぶりだな。


 ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー

『元カレさんがおれに似てたってこと?』

『なんとなく重なったような気がしたの。あの人も変に切替えが早いところがあったから』

『へえ、じゃあ確かにおれに似てるかも。でもそんなこと言ったらmmもおれの元カノに似てるよ』

『え?そうなの?どんなところが似てた?』

『おれのどうでもいいような反応に笑うところ。思い出してみたらそっくりだよ』

『すごいね、そんな偶然あるんだー』

 ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー


 お互いを完全に”ロキ”と”mm”として認識しているので、本人同士が”嬌太郎”と”莉未”だという事実には辿り着けずにいた。


 ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー

『ロキはさ、どうしてその彼女さんと別れちゃったの?』

『うーん…、ちょっと言いたくないな。ごめんね』

『…あ、ごめんね、つらいこと思い出させちゃったかな』

『ううん、平気だよ。じゃあ、えーっと…ゲームの打合せしていこうか』

『あ、うん。そうだね』

 ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー


 気まずい空気の中、おれとmmはコラボ題材ゲーム『※RA〇T』について話し合った。


 ♦♢♦


「どうだった?」


「…ごめん!」

 売店前で駆け寄ってきた雪弥に頭を下げた。


「ちょ、ちょっと!頭なんて下げなくていいから!嬌太郎くんは悪くないよ、僕が無理させちゃっただけだから」

 そう言って雪弥はおれを慰めてくれた。


「でもよー、このままじゃ4人で動画なんて無理なんじゃね?てかその”まり”って人は生放送するって言ってるんだろ?だったら尚更親交を深めておくべきだって」

 髪切り過ぎたわー、と言いながら瑛人も歩いてきた。


「麻梨さんに相談してみる?もう少し後にしませんか?って」


「そ、そうだな。ちょっと電話してみるよ」

 スマホを取出しLI〇Eで電話をかけた。



 ―――― LI〇E【まりさん】 ――――

『はーい、まりでーす』

『あ、まりさん、仕事中?今大丈夫?』

『そだよー、大丈夫ー』

 ―――― LI〇E【まりさん】 ――――


  仕事中でも電話できるのか。


 ―――― LI〇E【まりさん】 ――――

『どしたの?きょーたろうくん』

『あのさ、4人でやる生放送もうちょっと先に延ばせないかな?』

『どして?』

『いや生放送となるとさ、もう少し仲良くなってからの方がいいかと思って』

『なるほどー、うーん』

 ―――― LI〇E【まりさん】 ――――


  悩んでるな、流石に譲歩してくれるか。


 ―――― LI〇E【まりさん】 ――――

『じゃあ今月末にしよー』

『こ、今月末!?今15日だよ?』

『え?十分じゃない?だってほんとは今週末予定だったもーん』

 ―――― LI〇E【まりさん】 ――――


  その予定も初耳なんだけど…。

 でも何も知らないまりさんからしてみればあと半月もあれば十分仲良くなれるでしょって感覚なんだろう。


 ―――― LI〇E【まりさん】 ――――

『へえ~、そんなに心配なの?mmちゃんのこと』

『え!?いや…mmのことだけじゃなくて…』

『きょーたろうくんってわっかりやすいなー、じゃあさ、みんなで会おーよ。来週のどっかでオフ会ってことで!じゃあねー』

『は!?え、ちょっと!』

 ―――― LI〇E【まりさん】 ――――


 プツッ。


 切れた…。


「で?なんて?」

 瑛人がおれの顔を覗き込む。



「来週末…オフ会…だって…」



「…電話しない方が良かったのかな」

 雪弥が縮こまった。


「いや、逆にこれで良かったんじゃねーか?もう先延ばしはできないぞ、嬌太郎」


「でもさ、毎日のように通話してればそれでいいんじゃ…」



「逃げるなよ嬌太郎。…おれが言いたいこと、分かるよな?」



「…ぁ…うん」

 瑛人の言葉が胸に突き刺さった。


 雪弥は、え?なになに?、と首を傾げていた。


 ♦♢♦


 瑛人と雪弥とは別の講義を受けに行くため、ほかの教室へ向かっている途中、莉未に会った。


「あ、おつかれ」


「嬌太郎もおつかれ。あれ?瑛人くんと雪弥くんは?」


「あいつらは他の講義だよ。おれはそこ」

 これから講義を受ける教室を指さした。


「そうなんだ。私もそこだよ、一緒だったんだね」


「みたいだね」

 なんか変な感覚だ、別れて会話をする機会も極端に減ったのに何故かいつも話しているくらいように感じる。


「…なんかさ嬌太郎って…」


「え?」


「…ううん、なんでもない」

 莉未は目を逸らした。


「時間になるよ、先に行くね」

 彼女は目を逸らしたまま歩いて行った。


 おれが…なんだよ。


 ♦♢♦


 ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー

『話しがあるんだけど』

『なに?』

 ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー


 その日の夜おれは動画の打合せという体でmmと通話をしていた。


 ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー

『あのさ』

『うん、なに?』

『えーっと…』

『どうしたの?昨日から』

 ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー


「逃げるなよ」

 瑛人の言葉が蘇る。


 ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー

『mm』

『ん?』


『あの…おれとさ……会ってくれないかな?』


『え……』

『だめかな…』

『……』

 ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー


 なんか…これって告白してるみたいじゃないか…?


 ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー

『違うよ?ほら、コラボ相手だし、今後の為にももっと交流を含めていきたいなって』

『あ…そ、そういうこと…だよね。……でも会いたくないな』

 ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー


 え、フラれた?

 全身が、パリン、とガラスのように割れたような気がした。


 ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー

『…ガッカリさせちゃう』

『え?』

『私なんかと会ったらロキをガッカリさせちゃう。そしたらコラボもしてもらえなくなる…』ー

 ♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー


 これって…、おれがこの前考えていたことじゃ。

 mmも同じことを考えていたのか。


 ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー

『…おれも。おれもそう思ってた。嫌われたらどうしようって。でもおれは嫌いになったりしないから、安心してよ。どんなことがあってもコラボはするよ』

『本当…?不安しかないよ…』

『本当だよ、約束する!』

『……約束だよ』

『うん!あ、あとさ、先に言っておくけどおれイケメンじゃないから!へへへ』

『じ…じゃあ私も言っておくよ、全然全く可愛くないから!ふふふ』

 ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー


 少しお互いの緊張をほぐし合い待ち合わせ場所等の詳細を決めることとなった。


 ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー

『え!?mmもこの市に住んでるの!?』

『すごい偶然だね!なんか緊張してきちゃった…!』

『すごっ!もしかしたら電車に一緒に乗ってたかもね』

『かもしれないね!あのデパートとかよく行く?』

『元カノとは結構行ってたよ!』

『私も元カレと行ってたよー、絶対すれ違ったりしてるよね!』

 ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー


 住んでいる場所も近く話しが弾んだ。


 ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー

『じゃあ今週末はどうかな?かなり急だけど…』

『いいよ、土曜日なら大丈夫!バイトも予定もないし』

『場所は駅の改札出て正面のところに10時でいい?』

『うん、いいよ。私緊張して話せないかもしれない』

『おれも!』

『だめじゃん!』

 ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー


 最初は不安と緊張ばかりだったが、住んでいる場所も近いなどということもあり心が躍った。



 ♦♢♦


 翌日、研究室にて。


「えー、大変急で申し訳ないのですが、今週の土曜日もしくは日曜日に各々の研究の途中経過の発表をしてもらいます。どちらの日に来ることができるかをペアで相談しあとで挙手願います」


 教授の都合上急遽発表を早めることとなった。


「雪弥どうする?」


「僕は土曜日出るよ、瑛人くんは?」


「おれも土曜かな。日曜出るやつなんていねえだろ」


 ヒソヒソと話し合い声が聞こえたが、土曜はmmと会う日予定があるため発表をするなら絶対に日曜だ、と心に決め莉未に相談することすら忘れていた。


 ヒソヒソ声が止んだところで教授が問いかけた。


「えー、じゃあ土曜に来る人」

 教授が言い終える前にみんなが手を挙げた。


 あれ?

 そういえば莉未はどうだ?

 自分のことばかりを考えていて彼女の存在を忘れていた。


 隣りを見ると莉未も手を挙げていなかった。


「はい、じゃあ星君と伏見君以外は土曜日に発表ということで。ではよろしくお願いします」

 教授はメモをとり早々に部屋を出て行った。


「…莉未・・・よかったの?日曜で」


「…嬌太郎こそ大丈夫なの?」


 お互いに、忘れてた、と言わんばかりに顔を合わせた。


「おれは土曜日に用事があったからさ」


「私もちょっと用事があって、でもよかった意見が割れなくて」

 本当にそうだ、もしも莉未が土曜がいいなんて言いだしたらmmとの約束を破棄しなければいけなかった。


「じゃあ嬌太郎、日曜日の10時に売店前で待ち合わせしようか」


「了解、よろしくね」





 ――――こうして二人は ”ロキとmm”は土曜日の10時に、”嬌太郎と莉未”は日曜日の10時に会う約束をした。




※RA〇T:オープンワールドサバイバルゲーム。海を漂う小さな”いかだ”からはじまり、唯一の持ち物であるフックを使って海を漂う物資を集めて生活していきます。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る