第51話:その人相当ゲーム好きなんだな

 



 学校から帰宅すると部屋の中は綺麗に掃除されていてテーブルの上におれの付箋を使った書置きが残されていた。


『昨日の夜はごめんね。今度はちゃんと寝ないから!カギはお店に取りに来てくれるとうれしーなあ』


 一応反省はしてるのか。

 近いうちに鍵受取り行かないとなあ。


 …にしてもまりさんがうちに泊まるとは思わなかったな。

 ベッドで麻梨が寝ている状況で嬌太郎は朝まで一睡もできなかった。


 ふわぁーぁ、今日は早めに寝るか…。


 ベッドにダイブしようとしたが反射的にソファへ方向転換した。


 ♦♢♦


 翌日

 ガチャ、内開きのドアを開けると机についている莉未の後ろ姿があった。

 あの日、莉未がまりさんと対面してから莉未と顔を合わせていない。


「おつかれ」


「あ、おつかれ。遅かったね」


 あれ、意外と普通だな、まあ怒られるようなことはしてないしな。


「この前はごめんね、ス○バ行く予定だったのに」


「ううん、私も急用できちゃってたし」


「そうなんだ、ならよかった」

 急用?

 用があるなら前もって言ってくれればよかったのに。


「えーっと…最近どう?」


「どうって?何が」


「ほら、好きな人とさ」

 会話が無いことに耐え切れずつい口走ってしまった…。


「うーん…最近少し連絡とれてないかも」


「何かあったの?」


「なんか私が余計なこと言って気まずくしちゃったかも…」


「気にしすぎだよ、大丈夫だよ莉未。前みたいに積極的に連絡とってみなよ」


「そうしようかなあ…、ちょっと考えておくね。ありがと嬌太郎」

 莉未は小さく頷いた。


 その後おれ達は研究のまとめをし、きりのいいところで解散した。


 じゃあね、と莉未を見送っていると背後から瑛人が物憂げに近づいてきた。


「莉未ちゃんのこと好きなん?」

 隣りに立ち莉未の後ろ姿を見て言い放った。


「は?なんでそうなるんだよ」


「親友の直感…的なやつ?まあ、なんて言ったらいいか分からないけどよ、お前と莉未ちゃんって実は今も両想いなんじゃねえの?」


 それは冗談を言っている顔には見えなかった。


「でも莉未は好きな人がいるんだよ、おれだって気になる人が…」

 おれが気になっている人は…。


「そこなんだよなあ。なんかさー、2人ともお互いの影に恋しているようなー…」


「馬鹿なこと言ってるんじゃねえよ」


「そうだな、まあなんかあったら相談しろよ」


「そうするよ。…あ、そういえばこの前うちに女の人泊まったよ」


「は!?なんでそれを早く言わねえんだよ!」


 その後瑛人はしばらくの間しつこく問いただしてきた。


 ♦♢♦


 ピピピ、SNSメッセージの通知。

 mmからだ。

 …久しぶりだな。


 ―――― SNS【mm】――――

『久しぶり、ロキ』

『久しぶりだね、忙しかった?』

『ううん、忙しくなかったよ』

 ―――― SNS【mm】――――


 この前ただのゲーム友達だよ、みたいなこと言われて距離置いちゃってたからなあ。


 ―――― SNS【mm】――――

『そういえば、この前mmが配信でマイ○ラしてるの見たよ』

『え!見ないでよ!恥ずかしいじゃん』

 ―――― SNS【mm】――――


 やべ、まずかったかな。


 ―――― SNS【mm】――――

『ごめん!これからは見ないようにするよ』

『違う』

『違う?何が?』

『少しだけならいいよ』

 ―――― SNS【mm】――――


 え?どういうこと?見ていいの?


 ―――― SNS【mm】――――

『どっち?』

『恥ずかしいけど興味持ってくれるのは嬉しいっていうか…』

『へんなのー』

『あ!絶対今笑ってるでしょ!』

 ―――― SNS【mm】――――


 mmって面白いなー、おれやっぱり…やっぱりおれ…。


 ―――― SNS【mm】――――

『ねえまた今度コラボ動画出そうよ』

『え!?いいの?』

『うん、mmが良ければ、だけどね』

『やるやる!ロキとコラボしたい!』

 ―――― SNS【mm】――――


 実況者としてコラボする。

 これだけがおれがmmと繋がっていられる唯一の方法。


 ―――― SNS【mm】――――

『嬉しいな、ロキとコラボ』

『おれもmmとのコラボ好きだよ』

『私も好きだよ』

 ―――― SNS【mm】――――


 え、え?…好き?

 …違う違う違う。

 ゲーム友達として、だぞ。落ち着けよ嬌太郎…。

 おれはどんどん上がっていく心拍数を必死に抑えつけた。


 ―――― SNS【mm】――――

『なんのゲームにしよっか』

『うーん、この前はロキが考えてくれたから今回は私が企画考えてみるね』

『え?いいの?じゃあ待ってるね、おれも協力するから何かあったら言ってよ』

『ありがと!じゃあ今日はもう寝るね。付き合ってくれてありがとうね』

『こっちこそメッセージありがとう、ばいばい』

 ―――― SNS【mm】――――


 …好き、か。

 嬌太郎は一言つぶやき横になった。


 ♦♢♦


「ねえ、聞きたいことあるんだけどいい?」


「え?おれに?まあ、いいけど」

 食堂で暇つぶしにソシャゲをしていると向かいの席に莉未が座ってきた。


「あのさ…」

 何かをためらいソワソワとしている。


 なに…なにをそんなに気まずそうにしてるの。

 怖いんですけど。


「な、なに?」


「えーっと……嬌太郎ってゲームとかする…?」


「え?ゲーム?まあそれなりにはするけど…」

 ゲームの話し?

 てかゲーム実況者だからそれなりどころかゲームしかしてないんだよなあ…。


「で?何か?」


「あの…その…」


「えっと…別に引いたりしないから、大丈夫だから」

 莉未ってゲームしなさそうだし固くなるのもまあ仕方ないか。


「2人でできる面白いゲームってあるかな…、できれば4つくらい教えてほしいんだけど…」

 2人?…ああ、例の”好きな人”とやるのかな?


「沢山あると思うよ?ゲーム機は何?」


 莉未の表情は一気に明るくなった。

「P〇4・5とかス○ッチ、XB○X、St○amのどれか!」


 え、そんなに幅広いの?

 新しくできた好きな人はどんだけゲーム好きなんだよ…。


 まあおれも人のこと言えないけど。


「じゃあ夜LI○Eで何本か教えるよ」

 ここで適当に答えるのも悪いしな。


「ありがと!じゃあよろしくね」


「うん」


 莉未は席を立ち食堂を出ていった。

 ゲーム好きはいいけど変な男には捕まるなよ、と心のどこかで祈っていた。


 ♦♢♦


 えーっと、2人プレイの協力ゲームか…。

 あれ、聞いてなかったけどオンラインでいいのか?それともオフラインか?


 ………オンラインにしておこう。


 その2人が同じ部屋でゲームをするのをおれは想像したくなかった。


 んー、まあ王道だとマイ○ラ・モン〇ン・マ○オとかだと思うけど…少し趣向を変えてみるか。


 帰宅してから小一時間ほどかけゲームを選んだ。



 ―――― LI〇E【莉未】 ――――

『おつかれー』

『おつかれ!』(スタンプ:笑顔)

『ゲーム大体揃えたよ』

『ありがとー!なんか急がせちゃったみたいでごめんね』

『大丈夫だよ、てか持ってないゲームだったらごめん』

『そこは大丈夫!バイトしてるから!』

 ―――― LI〇E【莉未】 ――――


 そうだった、莉未ってコンビニでバイトしてたんだったな。


 ―――― LI〇E【莉未】 ――――

『ならよかった、じゃあ言っていくよ』

『はーい!』(スタンプ:OK)

『Fall Fl○tとかRinWo○ld、RA○T、7da○s to Dieあたりはどうかな?』

『Fall Fl○tは見たことあるよ!その他は知らないかも…難しいゲームなの?』

『難易度はそんなに高くないと思うけど。RA○Tとか7da○s to Dieはサウンドボックスに近い感じかな、RinWo○ldはシュミレーションゲームだけど2人で考えながらやってみると面白いかもよ?』

『なるほど…、あ!忙しいのにこんなに選んでくれてありがとね!』

『ううん、もう少し選べればよかったんだけど…また思いついたら連絡するよ』

『ほんとありがと…、今度ご飯でも奢るから!』

『別にいいよ』

『私がそうしたいから、じゃあまた学校でね』

『わかった、じゃあね』

 ―――― LI〇E【莉未】 ――――


 今おれが提案した4つのどれかのゲームを彼女は知らない男とやるのだろうか…、うっ、なんだか吐き気がしてきた。

 断ればよかったな…。


 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢


 嬌太郎とのLI○Eを終えた莉未。

(…嬌太郎、本当に優しいんだね。なのに私…)


 莉未は今更ながら自分のしたことを悔やみつつあった。


(分からない…どうしてかな、知らないうちに私は嬌太郎とロキを重ねているのかもしれない…。でもそれって2人に対してすごく失礼なことだよね)


 以前からなんとなく感じていた莉未の違和感が日に日に増していた。


(背中を押してくれている嬌太郎のためにも私は次に進まないと…)




 ―――― 嬌太郎に背中を押された莉未が追いかける背中はまさか嬌太郎の背中だという事実に気づくのはいつになるのだろうか。



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