第49話:不審者…?
集合時間は朝8時。
開店が10時からなのにそんなに早く集めるのはどうかと思う。
ましてやおれは正規で雇われている人間でもないのだから。
バイトを手伝ってくれると言ってくれた瑠美ちゃんは流石に田舎から高速バスで2時間かけて来るのは不可能なので、昨晩から莉未のアパートに泊めてもらっているらしい。
電車の始発に乗り古着屋の最寄り駅で7時半に待ち合わせる。
そういえばまりさんに会うのは2回目の告白を受けて以来だな…。
古着屋でバイト、前は適当な服を着て行ったけど流石にそうもいかないよな。
なんとなくそれっぽい服を着て行こう。
おれのファッションセンスは皆無だったが莉未と付き合い始め何度も指摘を受けていくうちにそこそこ自身を持てるまでになっていた。
莉未と出会っていなかったらいまだにおれはしま〇ら・アベ〇ルボーイだったのかもしれない。
電車に乗ると思っていた通りすいている。
毎度のことながらこれに乗ると莉未との出会いを思い出す。
もうすぐで莉未のアパートの最寄り駅だ。
まあ時間通り待ち合わせをしているのだから瑠美ちゃんもここで乗車してくるだろうと思い駅のホームを見渡した。
あー、あれ瑠美ちゃんかな?
ベージュのバケットハットにオーバーサイズのグリーンのスウェット、そしてブラウンのコーデュロイのワイドパンツに白いスニーカー。
瑠美ちゃんもやる気満々じゃ……。
ってあの服……。
「よ!嬌太郎!!」
「あ、おはよ。瑠美ちゃんその服って…」
「あー、気づいた?これ莉未ねぇに借りてきた!いつもの服で行こうとしたら怒られちゃったからさあ」
やっぱり莉未の服か。
見覚えがあるのも当然だ、デートで何度か見たことがあるのだから。
コツン。
数秒ほどおれの目が自分に釘付けになっていることに気づいた瑠美は嬌太郎の頭を小突いた。
「…バカ」
「へ?」
正気に戻り振り向くと瑠美は席に座っていた。
バカってなんだよ…。
♦♢♦
目的地の最寄り駅で電車が止まり、爆睡している瑠美を起こし改札を出た。
7時半か少しだけ時間があるけど店に行ってみるか。
ベンチでうたた寝している瑠美を引きずり店へ向かった。
店の前に着いたはいいがやはり開いてはいない、が気配に気づいたのだろうか裏からまりさんが駆け寄ってきた。
「おーい、きょーたろうくーん!早いねー」
いつもと同じく青いキャップを被っている。
「ごめん、ちょっと早く着いちゃった」
「いいよいいよー、ってあれ?この子が応援の子??」
「あ、うん。…瑠美ちゃん起きて…」
地べたで体育座りし抱えた膝におでこを当て目を閉じている瑠美に声をかけた。
「…んー、どしたのー?」
「どうしたじゃないよ、店長さんが目の前にいるよ」
「…ぇ?…え、えぇ!?」
瑠美は目をこすりながら状況を把握してきたようだ。
「あ、起きた。よろしくねー、店長の”相馬麻梨”だよー。年齢は20歳!」
「違う違う、この人24歳だから」
まりさんって自分の年齢のこと気にしてたのか?
「わー!すっごい美人!あ、寝ちゃっててごめんなさい!」
珍しく瑠美の目が輝いている。
「でしょー、よく言われるんだよねー」
へへへ、と笑いその笑顔をおれに向けた、がおれは言った覚えはない。
「あ!あたし瑠美です!”星瑠美”です!」
「へー、綺麗な名前だー。…でさ、るみちゃんはきょーたろうくんの彼女なの?」
まりさんは瑠美に顔を近づけた。
「え!?ないない!!絶対ないです!!こんなやつ!」
脳震盪になるよ、と心配してしまうほど首を振り続けた。
「だってあたしは…」
雪弥のことが好き、だなんてここでは言えないよな。
「そっかそっかー、ならよかったー。じゃあ、るみちゃんときょーたろうくんってどんな仲なの?ただの友達?」
「あれ?嬌太郎、言ってなかったの?あたしの姉ちゃんの元カレが嬌太郎なんです」
今更だけど、元カノの妹連れてくるなんておかしいやつだよな…。
「あらー、元カノさんの妹ちゃんかー。るみちゃんがこんなに可愛いってことはお姉さんもさぞ美人さんなんだろうねー」
「あたしが言うのもなんだけど姉ちゃんは美人ですよ!」
「へぇー、えーっと、きょーたろうくんは美人好き…っと」
「ちょっと、そんなんじゃないから、おれ」
まあ今更止めに入ったところで遅いだろうけど。
「この服も姉ちゃんに借りたんです!」
「そうなのー?すっごくかわいーじゃん。今度会ってみたいなー」
「あ!もう8時になるよ!まりさん早く準備しないと!」
「お、よく気づいてくれたねきょーたろうくん!。じゃ3人でがんばろー」
…やっぱり3人しかいないのか…。
♦♢♦
引きこもりゲームばかりしているため衣類を整理するだけが精一杯のおれに対し、瑠美は余ほど古着屋で働くのが楽しみだったのだろうか閉店間際まで元気に立ち振る舞っていた。
♦♢♦
はあ…疲れた。
「はーい、お疲れさまー。ありがとね2人とも。ほんと助かったよー」
あれ、この人今日働いてたんだよな…?
瑠美ちゃんばかりが走り回っていたのでまりさんの姿を見てなかったな。
「はーいどーぞ」
まりさんはエナジードリンク缶を両手におれ達に突き出した。
「わー!ありがとうございます!」
瑠美がキラキラとした眼差しをまりさんに向ける。
「あの…前も言ったけど、こういうのって始める前に渡してくれると嬉しいんだけど」
顔を上げ一言言うと真横からものすごい圧を感じた。
「嬌太郎!!麻梨さんになんか文句でもなるの!?」
「え!?…あぁ、ごめんなさい。なんでもないです」
いつから瑠美はまりさんの下についたのだろう。
「るみちゃんかわいーねー、ありがとー」
確かに顔は可愛い、でもなぜかおれと瑛人だけにはあたりが強いんだよな。
「ちょっと休憩がてらにそこのファミレスでも行かない?」
まりさんはアーケード街の並びにある20m程先の建物を指さした。
「だね、ちょっと休みたい」
♦♢♦
「あー、うまーい!」
まりさんが生ビールを片手に疲れを飛ばした。
「きょーたろうくんは飲まないの?」
「あー、おれ酔うと大変だから」
「介抱してあげるのにーー」
この人に介抱は絶対無理だろう。
「あたしも飲みたーい!」
瑠美が片手を上げ叫んだ。
「バッカ!瑠美ちゃんは未成年だからだめに決まってるじゃん!」
「えー、だってまりさん美味しそうに飲むんだもーん」
まあ確かに1人酒を飲み始めたまりさんが悪の元凶だ。
「るみちゃん大人になったら飲もうねーーーー!」
「はーーーーい!!」
酔っ払いと不良っ子の声が店内に鳴り響いた。
「あー、そういえばさー、きょーたろうくんの大学ってどこー?」
まりさんがビンをテーブルに置いた。
「言ってなかったっけ?〇〇大学だよ。ここから電車ですぐだよ」
「おー、近いんだねー。じゃあまた来てもらおうかなー」
もう一口ビールを飲みニヒィっと笑った。
「考えとくよ」
「あたしはいつでも来ます!」
「瑠美ちゃんは学校行きなさい」
すると瑠美はえぇーっとだるそうな顔をしそっぽを向いた。
まりさんがもうクタクタになったところで今日のところは解散となった。
まりさんは、歩いて帰れるよー大丈夫大丈夫。
と言っていたが不安なのでタクシーに乗せ見送った。
その後、まりさんについて熱く語る瑠美を莉未のアパートの一歩手前まで送り帰路に着いた。
♦♢♦
3日後。
莉未との合同研究も大詰めとなっていたが、校舎の閉鎖時間になるためおれと莉未はまとめをしに近くのス〇バへ行くことにした。
―――― その時だった。
「おーーーーーーーい」
校門の方で誰かが呼んでいる。
50m程離れているが聞き覚えのある声だと感じた。
不審者…なのか?
「ねえ…あれ誰…?」
「わ、分からない…」
怯える莉未を背にゆっくりと近づいた。
え……あれ?
…あそこに居るのって…。
「きょーたろうくーん!!」
―――― まりさん!?どうしてここに!?
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