第46話:通話してみたいな
「嬌太郎くーん!」
朝、大学に着くと雪弥が一足先に着いていたようでこちらに向かって大きく手を振っている。
「おはよー…」
昨晩mmのことを考えていたらなかなか寝付けなかったため寝不足だ。
「あれ、嬌太郎くん寝不足?そういえばあの後2人でどうだった?」
雪弥はニヤニヤと顔を覗き込んできた。
「どうって…別に…」
どうもこうもあるかよ、だれかのせいですげーギクシャクしてたんだよ。
「もしかして僕、余計なことしちゃったかな…?」
「あ、いや大丈夫だよ。気にしないで」
「ならよかった!」
余計なことしなくていい、なんて怒れないしな。
ピピピ、メッセージか。
え?まりさん??
告白されて以来連絡が途絶えていたので動揺を隠せなかった。
―――― SNS【そまり】――――
『ゲームしよー』
―――― SNS【そまり】――――
相変わらずマイペースだなあ…。
できるだけ平常心で対応しよう。
以前告白された嬌太郎は返事を返せず悶々としていた。
―――― SNS【そまり】――――
『いいよ。なんのゲームする?』
『てか配信しようよー』
―――― SNS【そまり】――――
配信?どうしてまた。
―――― SNS【そまり】――――
『配信…?』
『そーそー、だめ?』
―――― SNS【そまり】――――
ダメではないけど上手く話せるかよ…。
―――― SNS【そまり】――――
『わかったよ。で、なんのゲーム?』
『そんなのはきょーたろうくんに任せるよー。じゃあ明日の夜21時開始ね。30分前くらいから通話始めよー』
『あ、うん、まあいいけど』
『じゃ!』
―――― SNS【そまり】――――
ほんと嵐のような人だな。
明日の夜か…、緊張…するのはおれだけなのかな。
おれはメッセージで平然を装ったけどまりさんはどうなんだ?実は緊張してたり…いやそれはないか。
あの時暗闇に消えていった彼女の後姿が脳裏をよぎる。
えーっと、今日は講義が終わったら合同研究だから雪弥の研究室…てか莉未のいる研究室に行かないとだな。
この前いろいろと和解できたから少しは研究もスムーズに進めることができるだろう。
「あれ、雪弥。瑛人は?」
「瑛人くんは今日来ないよ。講義ないんだってさ、グループLI〇Eで言ってたじゃん」
「そうだっけ?……あー、ほんとだ」
この前帰り際に瑛人からもらったアドバイスのお陰でいろいろと上手く立ち回ることができたからお礼くらい言おうと思ったんだけどな。
…瑛人の割に結構いいこと言ってたし。
♦♢♦
講義が終わり雪弥と研究室へ向かう。
「あ、莉未さん」
右から歩いてきた莉未に雪弥が気づいた。
「あ、雪弥くん、と嬌太郎。おつかれ」
重そうなバッグの肩紐を肩に掛け直しながら答えた。
「おつかれ、なんか重そうだな」
「え?あーこれね。レポートで使う資料を資料室から借りてきたらさ」
「ネットじゃだめなの?」
今どき本を持って帰るなんて考えられない。
「それがね、講師の人がこの中から出題しますーって言うから急いで借りに行ったんだよ」
「そうなんだ、大変だね」
「まあね」
莉未はニッコリ笑い、先に行くね、と駆けて行った。
「莉未さんってああ見えて結構体力あるんだね」
「だね、おれも知らなかったけどこの前なんかの競技に出たみたいだよ」
「そうなの?」
「うん、この前ス〇バで話し聞いてたから」
「え?2人で??」
「あ、うん…。…なんだよ」
「べつにー」
ニヤニヤしながら逃げる雪弥を追い研究室へ向かった。
研究室へ入るとすでに莉未は準備を終え席に着いていた。
気まずさなんてもうない…と言ったら嘘になるが、以前と比べたらだいぶマシになった。
莉未には新しく好きな人ができておれはその恋を応援すると割り切ったのだから。
「準備ありがと」
「いいよー。てかいつも私が準備してるんだけどね」
割り切ってはいるけどそんな風に笑顔を向けられるときついな。
「じゃ早速やろうか」
「そうだね、嬌太郎はどこまで進めた?」
「えーっとおれは…ここまでやって…こんな感じかな」
「なるほど。私はここはこっちの方がいいと思うな、あとは…こうまとめる方針でどうかな?」
お互いの意見をまとめ、研究は佳境を迎えていた。
「今日はここまでにしよっか」
「そうだね、もう大体まとまってきたし」
「うんうん、最後まで頑張ろうね」
「おう」
片付けを終えた莉未とおれは帰り道が途中まで同じなので一緒に帰ることになった。
研究室棟を出てすぐの階段を降りる時だった。
莉未はバッグの重さにバランスをとられ倒れそうになった。
「莉未、危ない!!」
気づくとおれは莉未の後ろに駆け回り倒れてくる彼女を背後から抱えていた。
危なかった…倒れていたら莉未は階段の角に身体を打っていただろう。
「…ぇ…え!?あ!ご、ごめん!大丈夫!?嬌太郎!」
一瞬の出来事ですぐ反応できなかった彼女は、状況を飲み込んだ後勢いよく立上りこっちを振り向いた。
「大丈夫大丈夫…って、イテテ」
庇った際に太ももを強打したらしい。
「大丈夫じゃないじゃん!医務室行こうよ!」
「大丈夫だって、ただぶつけただけだから……ほら、立てるしさ」
ここで立てることを証明しないと誰か人を呼ばれてしまう、それだけは避けたい。
「本当に大丈夫なの…?」
「うん、でもちょっとだけ休んでから帰るよ。莉未は先に帰ってていいよ」
「そんな…置いて行けるわけないでしょ。うーん…あ!あそこのベンチで休まない?ここだと邪魔になっちゃうかもしれないし」
莉未は木陰にあるベンチを指さした。
「ああ、そうした方が良さそうだな」
おれは彼女に心配をかけないようにできるだけ平然を装い足を進めた。
ベンチに座ると気が抜けてふと息が抜けた。
「やっぱり痛いんでしょう。変な汗かいてるよ?」
「え!?まじで?」
慌てておでこと頬を手で拭ったがそんなに汗はかいていなかった。
「ほら、痛いんでしょ?…私のせいでごめんね」
「いいって、別に」
「ううん、ほんとごめん」
莉未は長い髪を耳にかけこっちを見た。
彼女の顔を横目で見ると動悸が激しくなってきた、きっとこれも怪我のせいだ…そう思いこむことにした。
「おれやっぱ帰るよ、もう本当に大丈夫だから。また明日ね」
これ以上そばに居るのはまずい、そう直感し荷物を持ち立ち上がった。
「え!だめだよ、少し安静にしてないと」
「おれんちすぐそこだし、じゃあね」
「え、ちょっと!」
激痛が走る右足を庇いおれは逃げるように走って帰った。
アパートに着きベッドに倒れ込み足を見ると、見たこともないくらいに腫れあがっていた。
どうりで痛いわけだ。
にしても莉未・・・…やっぱり一緒に居るのきついな。
気持ちの整理はしたはずなのにな。
動画の編集…やらないとな。
でも今日はちょっと休もう。
おれはそのまま布団をかぶり無理矢理寝た。
♦♢♦
翌日の20時半ちょっと前
たいして講義もなかったからってちょっと家でだらけすぎたなあ…。
こんな日は普通雪弥や瑛人とカラオケなどに行くのが定番なんだけど今日は2人とも予定があるらしくおれは1人寂しく直帰した。
もうすぐまりさんと通話開始の20時半だな。
どんなテンションで話せばいいんだよ…。
とりあえずかけてみるか。
プルプルプルプル
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
『あ、もしもし、まりさん?』
『……』
『あ、あのー…まりさん?』
『…なに?』
『なに?じゃなくて、通話する約束だったじゃん』
『…あ、うん…』
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
この人まりさんだよな?
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
『どうかしたの?』
『……べつに』
『えーっと…もしかして』
『なーんてねー、びっくりしたー??』
『はあ…』
『あれ、怒っちゃった?』
『怒ってないよ、ちょっと呆れてるところ』
『あははー』
『笑うとこじゃないよ』
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
なんだいつも通りじゃん。
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
『ねえねえ今日さ』
『なに?』
『mmちゃんも誘ってみようよ』
『は?』
『だめー?いいじゃーん』
『だめっていうか、急すぎるしさ…それに…』
『それに?』
(まりさんとmmと3人で配信なんて気まずすぎるって…)
『じゃあ配信はなしでいいからさ、普通に話してみたいし』
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
どうしてmmにこだわるんだよ。
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
『…断られてもしらないよ?』
『おー、ありがとー』
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
mmのことだから断るはずだ。
―――― SNS【mm】――――
『お疲れ、mm。ちょっとお願いあるんだけどいい?』
―――― SNS【mm】――――
ピピピ
返事早いな。
―――― SNS【mm】――――
『おつかれ!いいよ、なに?』
『そまりがさ、3人で通話したいって言ってるんだけど、どうかな?』
―――― SNS【mm】――――
頼む、断ってくれ…。
3分が経った。
やっぱり断るだろうな。
―――― SNS【mm】――――
『ちょっと話してみたいかも』
―――― SNS【mm】――――
…まじですか。
―――― 嬌太郎に想いを寄せるmmとそまりの通話が始まる。
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