第34話:後ろめたい気持ちでもあるの?
「あ、ごめん…って」
「ご、ごめんなさ…って」
スマホを見ながら歩くことがいかに危険なことかと気づかせられた瞬間だった。
お互いに落としてしまったスマホを拾う。
「…壊れてない?大丈夫?」
「あ、うん。おれのは大丈夫だけど、そっちは?」
「私のも大丈夫。ごめんね。じゃあ」
この会話がまともなのかどうかは置いておいて、おれは久しぶりに”まとも”に莉未と会話をした。
「あのさ」
…え?なんで今おれは莉未を呼び止めたんだ?
「え?」
莉未は長い髪をふわりとさせ振り向いた。
「…えーっと、あのさ…」
「なに?」
ただ呼んだだけー、なんて言える仲ではないんだよなあ。
「ほら、あの…け…研究進んでるかなーって、あはは」
今できる共通の話題なんてこれしかない。
「え、うん。私は順調だけど、嬌太郎は?」
「ああ、おれも順調だよ」
「そっか、お互い頑張ろうね。じゃあね」
「あ、うん…」
すぐ向こうへ行く莉未に対し、おれの足はすぐには動かなかった。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
『お疲れ様ロキ』
『おつかれmm』
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
21時になったのでコラボ動画の打合せの為に通話を始めた。
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
『モン〇ンももう完結したし他のゲームする?』
『そうだなー、でも一旦時間をおいて個々に活動する時間作らない?』
『え』
『だってmmの視聴者もおれとのコラボばっかりじゃうんざりしちゃうかもしれないし』
『そ、そんなことないよ!』
『え、どうしたの?』
『あ…ごめんなさい』
『…別に大丈夫だけど。でもまた今度コラボしたいしその時連絡取り合おうよ』
『ロキ…』
『なに?』
『えーっとさ…たまにこうして話したいんだけどいいかな』
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
ん?実況動画の話し合いとかかな?
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
『ああ、いいよ』
『やったー!ありがとね』
『うん。いつでも大丈夫だよ』
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
そんなに実況で悩んでることがあるのか…意外だなあ。
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
『じゃあまたね!ロキ』
『またね、おやすみー』
ー♢ー♢ー♢ー通話終ー♢ー♢ー♢ー
mmやっぱり最近どこかおかしいよなあ。
一喜一憂することが多いと言うか…。
嬌太郎はmmに想いを寄せられていることに気づきもしなかった。
ピピピ、スマホの通知音。
そまりか。
―――― SNS【そまり】――――
『ういー、げんきー?』
『普通だよ。そっちは?』
『ウチは絶好調!』
『酒でも飲んだのか?』
『えー、ちょっとだけだよー』
『相当飲んでそうだけど』
『…ねえ、今から一緒に飲まない?』
『はあ?何言ってんの』
―――― SNS【そまり】――――
何言ってるんだよ、だいたいおれ達今までリアルで会ったことないんだぞ?
―――― SNS【そまり】――――
『いやでもさ…』
『じょうだんに決まってるじゃーん、ロキくんはかわいーなー』
―――― SNS【そまり】――――
あああ、めんどくせえ。
―――― SNS【そまり】――――
『てか何か用なの??』
『あした』
『明日?なに?』
『明日の夜22時!撮るからねー、じゃ』
『撮る?何を!?』
―――― SNS【そまり】――――
いつもの如くそれ以降そまりからの返信はなかった。
はあ…、前に準備してたマ〇オメーカーでいいか。
その晩おれは翌日に備え準備を行った。
♦♢♦
翌朝の講義前、おれは売店前で雪弥と瑛人を待っていた。
「おはよ、嬌太郎くん」
ああ、そういえば今日は瑛人来ないんだったな。
「おはよ、んじゃ行こうか」
「うん」
大学での唯一の友達の瑛人と雪弥。
瑛人は初めからおれを実況者として知っているたった一人の人物。
そして雪弥もおれが実況をしていることを知っている。
と、言うよりはお互いに自身が実況者であることを告白し、その上でこうして仲良くやっている。
今更だが実況者同士が同じ大学で同じ講義を受けているのはかなりレアなのでは?
「ねえ、嬌太郎くん」
「ん?なに?」
「mmさんとのコラボ終わったみたいだね」
「あ、ああ、うん」
ちょいちょい見てくれてるんだな。
今までは他の実況者の動画なんて見ないとか言ってたのに。
「次は何のコラボ動画出すの?」
「あー、いや決めてない、ってかしばらくはやらないかな」
「えー!?どうして?」
雪弥は立ち止り目を丸くした。
「どうして、って、ずっとコラボばっかりはしてられないでしょ。二人のチャンネルでもないんだし」
「確かに、そうだよね…」
何故雪弥がへこむ。
「あ、でも今日そまりと動画撮るよ」
すっかり忘れてたな。
「え?そまりさんと?」
「うん、マリ〇メーカーやるんだよ」
「…あのさ、僕が言うのもなんだけど、それってmmさんは嫌な思いしないかな?」
「へ?なんで」
「だって、だってさ、つい先日まで一緒にコラボしてた相手がまた違う人とコラボするんだよ?」
「んー、変なことなのかな?」
「なんとなく…僕の考えすぎかもしれないけど」
雪弥は俯きながら声のトーンを落とした。
「じゃあさ、投稿するのを先延ばしにするのはどう?それに単発だからそこまで気にならないんじゃない?」
「そうだね。それなら少しましかもしれない」
心配しすぎだろ雪弥は。
ほら行くよ、と肩を軽く叩き教室へ入った。
♦♢♦
その日の晩
もうすぐで22時か…そういえばそまりと通話なんて何年ぶりだ?
おれが実況を始めたのが高2の17歳で高3の18歳になった時に音信不通になった、そしておれは今大学2年の20歳……2年ぶりか。
緊張してきたな。
プルルプルルプルル、PCの通話ツールの呼出し音だ。
ゆっくりとマウスのカーソルを通話ボタンに合せクリックした。
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
『あーあーあー、聞こえてるー?」
『…あ、うん』
『あれーロキくん、もしかして緊張してるのー?』
『し、してないよ』
『相変わらずかわいーなーー』
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
あれ、なんかこの声…最近聞いたような。
気のせいか。
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
『うるさいなあ、今まで何してたんだよ。ほんと』
『えー!なになにー!キコエナイナー』
『はいはい。……久しぶりだね』
『うん、ウチ…ずっとロキくんの声が聴きたかったよ…』
『え』
『うそうそー!まったくーロキくんはー』
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
昔からこういうやつだったな…、もう引っかからねえからな。
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
『さっそく撮ろうかー、ね』
『ああそうだね、えーっと今準備するから』
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
機材とゲームの準備を終えた。
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
『じゃあゲームスタートぉー!』
『あ、え!?はい!』
♦♢♦
録画終了。
なんとか無事にやりすごせたな…。
なんか一番最初にコラボした時のことを思い出した。
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
『ロキくんの作ったステージ簡単すぎー、物足りないよー』
『えー、結構気合入れて作ったんだけど』
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
作成者のおれもギリギリクリアできるかできないかレベルのやつを。
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
『今度はもっとすっごいの作ってねー』
『今度?』
『そー、またやろうねってことー』
『え?単発って言ってたじゃん』
『いいじゃん別にー、mmちゃんとのコラボ終わったんでしょー?』
『ま、まあ…』
『なーに?mmちゃんに後ろめたい気持ちがあるのー?』
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
うわ、見透かされた…!
え、見透かされた?
なにが?
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
『また今度連絡するよー、じゃ!』
『ちょっと…!』
ー♢ー♢ー♢ー通話終ー♢ー♢ー♢ー
プツッ
また一方的に切りやがって…。
編集も丸投げか。
―――― それにしてもmmに対して後ろめたい気持ちって、なんなんだよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます