第32話:ゲーム実況…やってみようかな
「おい、おまえ!また一人で飯食ってんのかよ!友達いねーの??かわいそう~」
「シー、友達いねぇからいっつも一人なんだろ」
授業間の休憩と昼食の時間が嫌いだ。
友達同士でご飯を食べて何が楽しい、何を話していたらそんな風に笑顔になれる。
おれは人と話すのがとにかく嫌いだ。
…いやもう人との話し方を忘れてしまったのかもしれない。
本当は心のどこかで誰かと話したい、交わりたいとおもっているのだろうか。
でももう遅い、高2のおれがこれから友達を作るなど不可能だ。
このままでいい、このままでいることがおれにとっての幸せだ。
共通の趣味があれば友達を作ることはできる、というのは嘘だ。
現に高校に入る際おれは野球・サッカー・バスケット・バンド・漫画などのあらゆるジャンルを必死に勉強し高校デビューに備えていたが儚くも全て散っていった。
だが本当の趣味は今も続いている。
ゲームだ。
部活動に入っていないおれは放課後すぐに帰宅し課題を終わらせ深夜までゲームに没頭している。
ゲームの中においてだけ、おれは”伏見嬌太郎”で居ることができた。
ある日とある新作ゲームが発売され、おれは即刻購入しに行った。
その出来は想像以上のものだった。
これほどまで細部への作り込みが良く、こんなにもゲームの世界観に入り込むことのできるゲームが今まであっただろうか。
没入し即クリアしてしまったおれは他の人がこの作品に対しどのような感想を持ったのか気になった。 そこで目にしたのがゲームの実況動画。
人がゲームをしている動画を見て何が楽しい、と思い今まで避けていたがこのような形で見ることになるとは思ってもいなかった。
===某実況者===
「こんちゃーす、レト〇トと申しまーす。今日はですね、この前発売されたこのゲーム!最近話題ですよねー。もうみんなはやったのかな?じゃあやっていきましょう!」
「あー、なるほどね。ここが~で」
「ふむふむ…あ!わかった!ハイハイ、これをこうして~」
「いやあ、楽しいですねこのゲーム!今回はここまでにして、次回はこの続きからやっていきますね」
==========
そうだよね、あそこが最高なんだよ。
この人はこんな風にプレイしているのかあ。
…いや違う、おれが今この動画を見て気になったのはそこじゃない。
どうしてこの人は一人でこんなにも楽しそうに話しながらゲームをできるんだ?
ただひたすらゲームをしているおれとは全く別の世界にいる彼に衝撃を受けた。
それを機にあらゆる実況動画を見漁った。
ジャ〇ク・オ・蘭〇んにキ〇、MS〇P、弟〇などどの実況者…どの人も話しながら楽しそうにゲームをしている。
そしてある感情が芽生えた。
自分も実況動画を投稿してみたいという感情だ。
好きなゲームをして、知らない人からコメントをもらう。
自分を見てほしい…存在を認めてほしい。
気づくとおれは貯めていた小遣い全額を手に街へ走り出していた。
機材を揃えチャンネルを開設する際に名前を考えた。
”キョウタロウ”の”キ”と”ロ”で『ロキ』と単純なものだ。
おれは息巻いて第一本目の動画を録画し、投稿した。
こんなに面白い動画が撮れたんだ…きっとみんな見てくれるはずだ!
―――― …だがそう上手くはいかなかった。
話題のゲームを撮り必死に編集し投稿する。
でも視聴回数は200回再生を越えることなど一度もない。
一つの動画につくコメントは2つ程度。
そのコメントの内容も決して良いものとは言えない。
SNSで宣伝も何度もしたが反響はない。
…おれはゲーム実況に向いていない人間だったんだ。
もうやめよう、リアルでも実況のコメントで傷つくのであればこんなのは無意味だ。
―――― 1か月ほどPCから離れていた。
だがある日一通のメッセージが届いた。
誰だ?
SNSのメッセージの差出人は見覚えのないものだった。
”そまり”?誰だこれ。
―――― SNS【そまり】――――
『やっほー、ロキくん』
―――― SNS【そまり】――――
は?誰、この人。
―――― SNS【そまり】――――
『誰ですか』
『そまりだよー』
『あの、誰かと間違えてませんか?おれあなたのこと知らないです』
『えー、ウチはきみのこと知ってるよー。ゼノ〇レイドの動画おもしろかったなーって』
―――― SNS【そまり】――――
え!?見てくれたのか?たいして伸びてない動画だけど…。
―――― SNS【そまり】――――
『あんなのつまらないですよ。コメントもつかなかったですし』
『おもしろかったからこうして声をかけたのだよ』
『それにねコメントがあるとかないとかは気にすることじゃないないよ。肝心なのは自分が楽しんでそのゲームをプレイしているかどうか』
『つまり、実況者が楽しんでプレイしてないゲームは視聴者も見てて退屈なんだ』
『ウチは見えたよ。ゲーム越しにロキくんが楽しそうにゼノ〇レイドをしてた笑顔がね』
―――― SNS【そまり】――――
な、なに言ってるんだよ…適当なことを。
―――― SNS【そまり】――――
『そう思ってくれたのはたぶんあなたくらいですよ。それにおれはもう辞めたんです、実況を』
『ふーん、じゃあ最後にさ、ウチと一緒に実況してみようよー。”コラボ”ってやつだね』
『へ…?コラ…ボ?』
『そうそう、きっと楽しくなるよー』
『でもおれ自信ないですよ』
『いいのいいの、ロキくんはいつも通りで。じゃあやるゲーム明日まで決めておいてねー。じゃ!』『え!あの!』
―――― SNS【そまり】――――
返事を待つこと3時間、そまりさんから連絡が来ることはなかった。
コラボ…おれがコラボだって?そういえばさっきの人ってどんな実況者なんだ?
おれと同じく登録者数200人程度の人だろうか。
えーっと『そまり』っと……。
え?登録者数62万人!?
いやいや、桁の読み間違えだろ、えーと…1、10、100、1000…10000…。
62万…嘘だ、嘘だ、人違いに決まってる。
こんな人気実況者がおれみたいなド底辺実況者にコラボを持ちかけるなんてあり得ない。
違う…違う人だよ。
おれは何度も”そまり”という実況者を探したがたどり着くのは決まってここだった。
本当におれはこの人とコラボするのか…?
信じられない。
呆気に取られていた嬌太郎がふと時計に目をやると針は深夜2時を差していた。
まずい、さっきの話しが本当なら今日中…いや今晩中にコラボに最適なゲームを探さないと。
おれは棚に並べてあるゲームを端から順に吟味していった。
♦♢♦
その日の夕方
―――― SNS【そまり】――――
『ロッキーくん、決まったかい?』
『あ、はい…。ロッキーて。えーっとア〇クはどうですか?』
『アー〇かあ、いいねー。よしじゃあそれで!』
―――― SNS【そまり】――――
え、即決?何も意見ないの?
―――― SNS【そまり】――――
『ちょうどウチも持ってるからすぐにでも撮れるよー』
『すぐ、ですか??』
『うんうん、明日撮ろうかー。んじゃ』
『え、あ!ちょっと!』
―――― SNS【そまり】――――
その日もそまりさんから連絡が来ることはなかった。
♦♢♦
翌日
―――― SNS【そまり】――――
『よーし、撮ろうかー。あれ?そういえばまだ通話したことないよね?』
『え…あ、はい』
『じゃあこのツールでかけるからちゃんと出てねー』
―――― SNS【そまり】――――
ちょっと、ちょっと待ってよ。
通話なんてしたことないのに!
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
『おーい、ロキくーん』
『…はい』
(女の人だ、動画も見たけど本当だったんだ。女の人と話すなんて久しぶりだよ…)
『なんだー、もしかして緊張してるのー?』
『はい…だって通話なんて初めてですし…』
『そうなんだー、まあ慣れるさ。えーっとア〇クだよねー。あんまりやったことないんだよね、でもそっちの方が面白いかもね』
『あ、はい…』
『ほらほら、緊張してる場合じゃないよー、いつもみたいに楽しんでやっていこうよ。好きなゲームなんでしょ?』
『そうですけど…』
『じゃあゲームスタートぉー!』
『え!あ、はい!』
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
そまりさんは案の定自由奔放なプレイスタイルでおれはそれに必死についていった。
区切りの良い所で一度録画を止めた。
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
『楽しいねー、これ』
『はい、楽しいです!』
『お?やーっと本来のロキくんに戻ってきたね』
『え…あ、ごめんなさい…』
『何故謝るー。あ、編集はよろしくねー』
『分かりました』
『ロキくん』
『はい?』
『きみはさ、ゲームに対して本当に真摯に向き合っているよね。そして本当に心の底から楽しんでいる。きっといい実況者になるよ』
そまりさんはいつになく真剣な口ぶりだった。
プツッ
『え?あ!』
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
また一方的に切られたよ。
でも最後の言葉…あれはなんだったんだ?
いつも何も考えていなさそうな彼女の口から出たその言葉を、おれはすぐに理解することができなかった。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦
===そまり+ロキのコラボ動画===
「はーい、そまりだよー。えー今回の動画はこの方とコラボするよー。はい、ロキくん自己紹介してしてー」
「は、はい!えーっと…ロキって言います。底辺実況者ですけどそまりさんから誘ってもらえて光栄です!」
「相変わらず固いなーロッキーくんは」
「あ、ごめんなさい…」
「はーい、じゃあね今日はアー〇をやっていくよー。今更かよって人もいると思うけどあたたかーく見守ってくだされー」
「よろしくお願いします…」
「じゃあやっていこー!」
「は、はい!」
==================
動画の投稿が完了した。
後はコメントを待つのみ…か。
どうせおれなんて叩かれて終わりだ。
炎上はしないでくれ…。
―――コメント欄 ―――
『うpおつ』
『誰?ロキって』
『しらねー』
『登録者数230人て』
『そまりはなんでこんなやつとコラボしてん』
―――コメント欄 ―――
ほらやっぱりこうなる。
…おれが叩かれるのはいいけど、彼女の評価まで落としてしまうのは嫌だ。
―――コメント欄 ―――
『草』
『そまり無謀すぎ草』
『ロキさん可哀想やん』
『ロキって人めっちゃ建築のセンスあるなあ』
『二人とも楽しそうで微笑ましい』
―――コメント欄 ―――
え?おれのことを見てくれてるのか?
―――コメント欄 ―――
『ロキおもろ』
『ロキさん色んなゲームしてていい感じだったよ』
『今度見てみよ』
『登録してくるわ』
―――コメント欄 ―――
え、え??どうして?
ピピピ、スマホが鳴った。
―――― SNS【そまり】――――
『どう?』
―――― SNS【そまり】――――
どうって…。
―――― SNS【そまり】――――
『めちゃくちゃ嬉しいです。あの…そまりさんのおかげです、ありがとうございます』
『ウチは何もしてないよー。ただきみの選んだゲームを二人で楽しく遊んだだけ。それだけだよ。いい実況者になるって言ったでしょ?』
『まじでありがとうございます…』
『感謝されるの苦手なんだよねー、そうだ!また今度一緒にゲームしようよ!実況とか関係なくさー』
『あ、はい!』
―――― SNS【そまり】――――
このコラボをキッカケに【ロキゲーム】の登録者数はぐんぐん伸びていった。
間違いなくおれにとってそまりは救世主だった。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦
数か月後
―――― SNS【そまり】――――
『おーいそまり、ゲームしよーよ』
―――― SNS【そまり】――――
あれ以来毎日のようにそまりと通話しながらゲームをしていた。
ん?今日は返事遅いなあいつもはすぐに返してくれるのに。
まあ動画編集しながら待つか。
―――― しかし、そまりから返事が返って来ることはなかった。
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