第28話:もう一人


「嬌太郎くん!」


「あ、雪弥おはよー。どしたの元気だね」


「嬌太郎くんじゃなくて…ロキの動画面白かったよ!」


「ちょ、声でかいって!」


「あっ!…ごめん」


おれと雪弥がお互いに実況者であると打ち明けて以来雪弥は以前よりも明るくなったような気がする。


「mmさんとのコラボ動画もすごくよかったよ」


「そっちも見てくれたんだ。てかなんか恥ずかしいな」


「おいおい、まーたゲームの話しか?おれだけハブんなよ」

振り向くと瑛人が不貞腐れていた。


「あ、おはよ!瑛人くんも一緒にやろうよ」


「おれが実況すんの?ないない、PCに向かって話しながらゲームとか寂しすぎるわ」


うわあ、痛いところつくなあ。


「慣れるよ、きっと!」


「やーりーまーせーん」


「そっかあ、残念…」


テンションの高い雪弥とテンションの低い瑛人の会話はかなりレアだ。


「なあ、今日三人で飲みにでもいかね?」


「なんで?なんかあったのか?」


「たまには居酒屋で飲むのもいいかなって。うちで飲むのもいいけどたまには店で飲みたいじゃん」


「まあ確かにな。でも女子は誘うなよ」


「誘わねーよ、講義終わったら駅前の居酒屋行こうぜ」


「うん、分かった!じゃあ残りの講義も頑張ろうね!」

未だ興奮気味の雪弥が低血圧の瑛人を励ます。


―――― ピピピ


ん?ああ、SNSの通知か。

えーっと…差出人はmmだな。



―――― SNSメッセージ ――――

『おつかれさま、今日良かったら通話できないかな??』

―――― SNSメッセージ ――――


打合せか。なんか最近通話持ちかけられること多くなったよな。

でも残念ながら今日は飲むことになったから無理だ。



―――― SNSメッセージ ――――

『おつかれさま、ごめん今日はちょっと用事があるから無理かも。明日とかでもいい?』

『わかった…、じゃあまた今度よろしくね』

―――― SNSメッセージ ――――



通話の誘いを断ったのって初めてかも、なんか罪悪感がすごいな…。


「おーい、嬌太郎。早くいくぞー」


「へーい」


♦♢♦


午後の退屈な講義を瑛人とおれはほとんど寝て過ごし、夕方に駅方面へ向かった。


「嬌太郎」

瑛人がいつになく神妙な面立ちで切り出す。


「なに?」


「あーのさ、お前莉未ちゃんとはもうやっぱりだめなん?」


「またそれ?…だめもなにも莉未には好きな人ができてるんだから、どうしようもないでしょ」

三桑園でも気になる人がいるって言ってたし、研究室で妙に明るかったのもそれに関係しているのかもしれない。


「瑛人くん…それはもう聞かない約束だったでしょ」

後ろを歩く雪弥が声を潜める。


「だってさ…未だに信じられないっていうか、何が原因で別れたかは知らねーけどおれは二人が…」


「もういいって」

この話しを続けてしまうとこの後居酒屋で飲む酒がまずくなる。


「ごめんな、ちょっとしつこかったな」


「いいよ、気にすんな」


こんな話しをしているうちにもう目的地のすぐ近くまで来ていた。


♦♢♦


「莉未はずるいよなああ~~!おれなんかまだ好きな人なんてできてねえのによお~~!」


「きょ~たろうぉがちゃんと謝らねえぇえからダメなんだろ~~がよー」


「うるせぇぇ、いいよなあ瑛人はモテてよぉお」


「ちょ、ちょっと、嬌太郎くん、瑛人くん!飲み過ぎだよ…」


「「雪弥も飲めばぁいいんだろおがあ!」」


「えぇ…怖いよ、二人とも!」


ビールをたった3杯ほど飲んだところで酒に弱い二人は早くも泥酔状態だが、見た目の割に酒に強い雪弥は正気を保っていた。


「ったくよぉ、なんであんなことでキレるかなあぁ莉未は~」


「え、どうして莉未さんが怒ったの??それって別れた理由のこと?」


「だからさー別れた理由は~、あいつ…と…だけ…な…」


「え、え?嬌太郎くん!?」


雪弥が向かいに座っていた嬌太郎が姿を消したので慌てて見に行くと、嬌太郎は掘りごたつの足元にずり落ちそのまま眠っていた。


「大丈夫!?嬌太郎くん!ねえ、瑛人くん!嬌太郎くんが…って」

助けを求め振り向くと瑛人もテーブルに突っ伏し眠っていた。


「…もうこの二人と飲むのはやめておこう」

雪弥は会計を済ませ、一人ずつ外へ引きづり叩き起こした。


「あれ…雪弥…何してんの…?」


「それはこっちの台詞だよ!ねえ、歩ける?嬌太郎くん」


この時嬌太郎はどうして雪弥がこんなにもキレているのかを理解できなかった。


「あ、うん。歩ける…よ」


「ほんと??僕はこっちの人をタクシーに乗せていくから。一人で帰れるよね?」

雪弥は地べたで気持ちよさそうに眠る瑛人を指さした。


「…わ、わかった。おーけー、んじゃ帰るわ」


「あ、そうだ!明日お金もらうからね!!」


わかったよ~、と返事をし帰路に着いた。


アパートへ着いたと同時にスマホが鳴った。

SNSのメッセージの通知だ。

誰だ?こんな時間に…。

スマホを見て差出人を見ようとしたが嬌太郎のこの日の電源が切れ、廊下に倒れ込んだ。



♦♦♦♦♦♦♦♦♦



「ごめん雪弥!」

「まじでごめん!」


翌日大学の売店前でおれと瑛人は何度も頭を下げた。


「はあ…もういいよ。でもお金だけは返してよね」


おれ達は割分よりも少し多めに雪弥に金を渡した。


「いやいやこんなにはいらないよ」

迷惑料なんで、と言い強引に受け取ってもらった。


教室へ移動する途中、雪弥がおれの顔を覗き込んだ。

「そういえば昨日莉未さんと別れた理由を言おうとしてたみたいだけど。なんなの?教えてほしいな」


「え、おれなんか話してた?」


「いやなにか言いながら寝ちゃってたからよく聞こえなかったんだよね」


ほっ、聞いてなかったか。

知られちゃったら流石にこの二人も…。


「雪弥、嬌太郎は絶対教えてくれないぞ。おれも何回もしつこく聞いたけどだめだったんだよ」

二日酔いでぐったりとしている瑛人が助言した。


「そ、絶対言わないよ。墓場まで持ってくから」


「えー、聞きたかったなあ」

雪弥は唇を尖らせた。



―――― ブルルン


スマホの通知バイブが鳴った。

ん?通知が二つ?あ~昨日の夜なんか来てたな。

えーっと今届いたのはmm…だな。



―――― SNSメッセージ(mm)――――

『ロキおつかれさま、モン〇ンどこまで進んだ?私はキ〇ンまでいったよ』

―――― SNSメッセージ(mm)――――



あら、おれより進んでるなあ。



―――― SNSメッセージ(mm)――――

『おつかれ、ごめんおれまだそこまでいってないや。進めておくね』

―――― SNSメッセージ(mm)――――



最近忙しくてコラボ動画用のモン〇ン進めてなかったな。

えーっと、もう一人のメッセージは誰だ?


mmの画面から戻りもう一人の差出人を見る。



ん?こいつ…。そこには【そまり】と書かれていた。




―――― え、〈そまり〉って……





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る