第27話:正体判明
「雪弥、お前実況者なのか…?」
録画という単語が出てきた時点で察しがついた。
「…違うよ、じ…じじ自分のプレイを見直して復習してるんだよ、へへへ」
引きつる笑顔がそれを決定づける。
「あのさ、おれ別に…」
「ご、ごめん!ちょっと行かないと、またね!」
雪弥は飲みかけのコーヒーを捨て店を出て行った。
まさか雪弥もゲーム実況をやっていたなんて。
待てよ、最初に研究室で会って声を聞いた時とゲームサークルで雪弥のプレイを初めて見た時に感じていた既視感って。
んー、誰かと似てたと思ったんだけどなあ。
答えが出そうにないのでアパートに戻ることにした。
♦♢♦
アパートに着きモヤモヤとした気持ちを抱えながらPC前の椅子に座りPCを立上げyo○ubeを開いた。久々に誰かの動画を参考にするか。
スクロールしていると〈廃リバー〉の動画が投稿されているのに目がついた。
廃リバーか、最近見てなかったなあ。
え?侍○?投稿されている動画は侍○の2だった。
侍○って…さっき。
まあ、とりあえず見てみるか。
===廃リバー実況動画===
『廃リバーです。侍○2の続きをしていこうと思います』
==============
この声…やっぱり雪弥だ。
廃リバーいや、雪弥は淡々とストーリーを進めていった。
===廃リバー実況動画===
『はい、えーっと今回はここで終わりにします。ご視聴ありがとうございました』
==============
この声、話し方、そしてこのプレイスタイル。廃リバーは雪弥で間違いない。
それに廃リバーという名前、リバーは日本語に直すと川だから雪弥の苗字の〈灰川〉と一致する。
…ネーミングセンスはないな。
まあおれも『キョウタロウ』の『キ』と『ロ』をくっ付けただけなんだけど。
うーん、そうだなあ。とりあえず明日雪弥に話してみるか。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦
「え?今日来てないの?雪弥」
「ああ、なんか体調悪いから休むってLI○E来たよ。てかグループじゃなくておれ個人に連絡してくるなんてなんかびっくりしたな」
瑛人は食券のお釣りを取りながら気だるそうに答えた。
昨日の件で来るに来れないのか。
「そういえば昨日マク〇ナルドで会ったんだよな?具合悪そうだったのか?あいつ」
「うーん。そうかも」
まあ、ある意味具合は悪そうだった。
受取口で定食を受取り適当な席に着く。
「雪弥って病弱っぽい見た目してるから意外でもなんでもないけどな。てか嬌太郎はおれよりもあいつといる時間多いんだからしっかりサポートしてやれよ。おれ研究にかかる時間が長くてさあ」
要領が悪いんだろ、と言いたい所だが今日はツッコまないことにした。
「ああ、そうだな。おれからも連絡してみるよ」
♦♦♦♦♦♦♦♦♦
講義が全て終わりアパートに帰る際に雪弥にLI○Eを送った。
―――― LI○E ――――
『昨日のことだけどさ、おれ気にしないよ』
―――― LI○E ――――
返事が返って来ることはないまずないとないと思ったので、追加で送ることにした。
…これなら雪弥も反応するだろう。
―――― LI○E ――――
『実はおれも実況やってるんだよ。だから雪弥のことを引いたりするなんてことはないよ』
―――― LI○E ――――
これで返事がないようならもう雪弥のアパートに突入するしかないな。
ラ〇ン♪
LI○Eの通知音だ。
―――― LI○E ――――
『そうなの?ほんと?』
『本当だよ。ちなみにおれが実況やってるのは瑛人も知ってるんだよ』
『え、そうなの??』
『そんなに疑うならうちに来てPC周り見てみなよ』
『うーん』
『明日、大学来なよ。単位落すって』
『わかったよ。行くね』
―――― LI○E ――――
ついに打ち明ける時が来てしまったか。まあ雪弥は口が堅そうだから大丈夫か。
さてと、動画編集するかあ。
編集は深夜2時までかかった。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦
いつもの待ち合わせ場所の売店前でいつものコーヒーを飲みながら二人を待つ。
「よっ」
最初に来たのは口を大きく開けあくびをしている瑛人だ。
普段は髪をツンツンに立てているが今日は髪も眠そうに垂れ下がっている。
「なんだ、飲み過ぎか?」
「まあそんなとこ、誘われちゃってさ」
こういう場合、飲んでいた相手は決まってどこかの女子だ。
もう聞き飽きたし聞いても虚しくなるだけなのでこれ以上は聞かないようにしている。
「あれ、雪弥は?てっきりおれより早く来てると思ったけど」
そう、雪弥が瑛人よりも遅くなることなんてのは滅多にないことだ。
「体調悪いのかもしれないな、昨日LI○Eしたときは来るって言ってたけど」
「そうなん?まあとりあえず教室行こうぜ。遅れちまう」
「そうだな」
雪弥…やっぱり来れないか。
教室に着いたのは講義が始まる5分前おれ達は寝ていてもバレそうにない席を探し雪弥が来ても大丈夫なよう3人分を確保して座った。
しかしその残り1席は埋まることもなく講義は終わった。
「雪弥のやつこのままだと単位落すぞ」
「そうだな、せめて今日は来ないと」
おれ達はため息を混じらせ教室を出た。
すると瑛人が、おいおい、と誰かに呼び掛けた。
瑛人が声をかけた方に目をやると立ったまま壁に優しくもたれかかっている雪弥が居た。
「雪弥お前何してんだよ、単位落すぞまじで」
瑛人は雪弥に詰め寄った。
「あ、うん。ごめんね」
雪弥はえへへと笑った。
「ったく。嬌太郎も心配してたんだぜ」
「嬌太郎くん…僕…」
「まあ飯行こうよ。雪弥は飯食った?」
ここであれを打ち明けるのは酷だろう、あとで部室に行って二人で話そう。
「僕もまだ食べてないや」
「んじゃー行くか!」
瑛人は雪弥の言葉を聞き終える前に走り出した。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦
午後の講義が終わり瑛人は研究室が行ったのでおれは雪弥を部室へ誘った。
部室内にはちょうど良く他の部員がいなかった。
いつもの椅子に座り雪弥が一呼吸置いたのを確認し話しを始めた。
「LI○Eでも言ったけどさ、おれもゲーム実況やってるんだよ」
「う、うん…びっくりしたよ」
「おれだってびっくりしたよ。まさか雪弥があの〈廃リバー〉だったなんて」
「え!?どうしてそこまで知ってるの!?」
雪弥は反射的に立上り目を丸くした。
「おれ雪弥と出会う前に廃リバーの実況見てたんだよね。そのすぐ後に雪弥と研究室で初めて出会った時に雪弥の声を聞いてなんか聞き覚えあるなあって思ったんだよ」
「声が似てるだけだって思わなかったの?」
「思ったよ、そんなこともあるんだなあって」
「じゃあどうして確信できたの?」
「雪弥がゲームサークルに入ってここでダーク○ウルやってるの見てプレイスタイルが丸きり一緒だったんだよ。あと決定打は侍○だよ。マク〇ナルドで『今侍○を録画してるんだよね』って言ったじゃん?それで廃リバーの投稿動画を見たら同じく侍○の動画が投稿されてたんだもん」
「そ、そっか…。嬌太郎くん探偵さんみたいだね」
探偵かあ、確かに最近勘が鋭いしいけるかもしれないな。
「それに〈廃リバー〉って名前もさ…」
「あああ!それは言わなくて大丈夫!」
雪弥は顔を赤くし、両腕を前に突出し手のひらを振った。
「おれは〈ロキ〉って名前で活動してるんだよ。知ってる?」
「えーっと、…ごめん分からないや。僕他の実況はあまり見ないから。後で登録しておくね」
申し訳なさそうに答えた。
「そ、そうだよね。あはは」
なんとなくそうだろうとは思っていたけど、まあまあ傷つくなあ。
「…嬌太郎くん」
「ん?」
「これからも今まで通り友達でいてくれる?」
「当たり前だよ。むしろおれはもっと仲良くなれる気がしてるよ」
「ありがと、ありがとね嬌太郎くん」
雪弥の笑顔はいつになく無邪気に見えた。
―――― あのクールな〈廃リバー〉もこんな風に笑えるんだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます