第23話:元気ないじゃん




大学に着くと雪弥と瑛人が暗い顔をして売店の前に立っている。

昨日おれと揉めたことで気まずくなるのを察しているのだろう。

まあ揉めたというよりはおれが一方的に責めたてたのだが。


「よっ」


「あ…嬌太郎くん、…おはよ」


「よ、よう」


雪弥と瑛人の返しは予想通りのものだった。

「早く教室行こうよ」


「で、でも…僕達さ」


「いいって、謝らなくて。もう過ぎたことだしさ」


「…嬌太郎、ごめんな…。おれ達良かれと思って」

おいおい、泣くのだけはやめてくれよな。


「二人の気持ちは伝わったよ。でももう莉未のことに関しては放っておいてくれ」

おれはいいけど莉未は次に進もうとしている。

現に莉未には新しい想い人がいるから彼女に迷惑をかけるわけにはいかない。


それにしても莉未の好きなやつって誰だ?

同じ大学のやつか?

いやでも男子と一緒に居るところなんて見たこともない。あるとしたら雪弥くらいだ。

でも雪弥は白だ。

だとしたら他の大学のやつか…、気になるな。気になるけど忘れよう、きっと時間がこのモヤモヤを解消してくれる。


「あ…」


気の抜けた瑛人の口から無気力な声が漏れる。


「なんだよ」

忘れ物でもしたのだろう…、いや違った。

おれはすれ違う彼女の表情は見ることをできなかった。


なんなんだよ…。


降ろしていた両手は自然と手のひらに爪が食い込むほど強く握りしめていた。



♦♦♦♦♦♦♦♦♦



エゴサでもするか。

3日に一度は【ロキ】と検索をかけ視聴者の声を見る。


―――― SNS ――――

『ロキってマンネリ化してね?』

『最近つまんねー#ロキ』

『とりあえずス○ラトゥーンはつまらなかった。一人でやるもんじゃないっしょ#ロキ』

―――― SNS ――――


マンネリ…か。うわあああ!キミらに何が分かるんじゃあああ。

……ってまあ普通に的を得ているんだよなあ、アンチも多いんだけど。

いつもこうして視聴者の意見を聞きつつ今後の動画製作に活かしている。


一時期はアンチの心無い言葉で実況を辞めようと思ってたけど、あいつが留めてくれたっけ。

今も実況しているんだろうか。

昔コラボしていたその実況者は今はもうチャンネルを閉鎖しその後連絡さえとれていない。


実況者やyo○uberならば一度はアンチに悩まされる時がくる。


まあ今でも配信をしているとたまにそれらしき輩が来るが

「それでも見に来てくれてありがとうございます」

などと言って受け流している。


それくらいのメンタルを持っていないと続けられないのは事実だ。

エゴサはこんなところで終わりにして動画の編集をしよう。その日は深夜の2時まで編集をした。



♦♦♦♦♦♦♦♦♦



数日後午前の講義が終わり雪弥とおれは学食に居た。


「午前は講義びっしりで疲れたね、嬌太郎くん」


「そうだな、来週テストやるとか言ってたな」


「本当に勘弁してほしいよね」

などと言っているが雪弥はおれよりも成績がいい。


ザ・普通の醤油ラーメンを啜っていると食事の受取口に莉未が居ることに気づいた。

どうしてこうも引き寄せられてしまうのだろうか。

苦虫を潰すような表情に気づいた雪弥はおれの視線の先をゆっくりと見た。


「…あらら」

雪弥は見えない冷や汗を流しこっちを見た。


「ちょっと気まずいね…」


「いいよ、どうせ遠くに座るだろうし」


などど安易な考えをしていると莉未はアジフライ定食が乗った盆を持ちこっちに近づいてきた。


どうしてこっちに来るんだよ、また嫌味でも言いに来たのか?

莉未はスタスタと近寄りおれ達のテーブルの前で止まる。


「雪弥くん、今日研究室で打合せあるんだけど17時頃来れる?」


「え?あー、うん。行けるよ」


「よかった。じゃあよろしくね。他のみんなには私から伝えておくから」


「分かった、ありがとうね莉未さん」

莉未はバイバイと雪弥に小さく手を振ったあとおれには見向きもせず遠く離れた席に着いた。


ガン無視か。


「嬌太郎くん、莉未さんさ。今ちょっと元気無さそうに見えたんだけど気のせいかな?」


「そうか?全然気づかなかったけど」

気づくわけないだろう、ずっと下を向いてラーメンの煮卵を突いていたのだから。


「…嬌太郎くんとケンカしちゃったからかな」


「知らないよ、そんなの」

素っ気ないおれの返事に雪弥はどこか寂しそうな顔をした。


一足先にラーメンを食べ終え、雪弥が食べ終えるのを待っているうちにmmにメッセージを送る。



―――― SNSメッセージ ――――

『mmおつかれ。今日打合せできる?』

―――― SNSメッセージ ――――



コラボしているシリーズ動画(モン○ン)を進めていかなくてはいかない。



―――― SNSメッセージ ――――

『ロキもお疲れ様、うん大丈夫だよ。でも少し遅くなるかも、21時とかでもいい?』

(mmも大学だったな、そりゃ忙しい時もあるか)

『全然構わないよ、てか無理なら今度でもいいよ?』

『ううん、少し相談したいこともあるんだよね』

(相談したいこと?なんだろうか)

『相談?分かったじゃあ21時に通話かけるね』

『ありがとね』

―――― SNSメッセージ ――――



相談かあ、まさかコラボやめたいとかか??

……おれの動画がマンネリ化しているとかいう話しも出てきているから否定はできないな。

まあその時はその時で腹をくくろう。

ようやく雪弥が食べ終わり、ふぅと一息ついたところで午後の講義がある教室へ足を向けた。



♦♦♦♦♦♦♦♦♦



講義が終わり研究室へ向かう雪弥と別れスーパーに買い出しに行く。

買うものは決まってカップ麺とハイボール、適当なつまみ。我ながら不健康な身体を心配になる時があ る。

アパートに着いたのは18時過ぎ。

mmとの打ち合わせまで3時間ほど空きがある。

暇だしアニメでも見るかとベッドに寝転んだ時、スマホが鳴った。


―――― プルルルプルルル


誰だ?スマホを手にとり画面を見ると《星 瑠美》と書いてあった。

嫌な予感がするなあ、またうちに来るんじゃないだろうな。



―――― スマホ 通話中 ――――

『もしもし?』

『嬌太郎!!』

『ど、どうしたの??』(声がでかすぎて耳がキンキンする)

『莉未ねぇが…』

『莉未がどうかしたのか?』

『莉未ねぇが…』

『だからどうしたの?』

『…元気ないんだよね』

『へ?』(なんだよそれ…)

『元気がないの!電話してもずっと暗いしさ、レポートあるからまた後でねとか学校行くからまた後でねとかさ…』(レポートと登校に関しては別に変でもないだろ

『単純に忙しいんだよ、きっと』

『違うの!!』

『なにか根拠あるの??』

『…ないけど、ウチには分かるの。明らかに沈んでるんだもん』(そういえば雪弥も今日そんなこと言ってたな、莉未が元気ないって)

『瑠美ちゃんからご飯でも誘ってみたら』

『ウチじゃ意味ないの!嬌太郎じゃないとダメなの!』(先日揉めたこと知らないのかな…瑠美ちゃん)『それは無r…』

『任せたからね!!』

―――― スマホ 通話中 ――――――――



―――― ピーピーピー



切られた。

電話でも嵐のように去っていくんだな。

莉未が元気が無い…か。といってもどうしようもないんだよな、今日も無視されたしさ。

もしかして振られたのか??うーん、よく分からん…。

考えても結論が出そうになかったので漫画を読むことにした。



―――― 21時ちょっと前


呪術○戦を5冊ほど読んだところで約束の時間になることに気づいた。

20時55分か…もうかけてもいいだろ。

少し早いがPCの通話ツールで電話をかける。



―――― ピピピ、ピピピ、ピッ


ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー

『あ、もしもし。少し早かったかな?ごめんね』

『ううん、大丈夫だよ…。こっちこそ遅くなってごめんね』(なんか元気ない…のか…?)

『いやいいよ、大学忙しい?』

『まあね、ちょっとね。研究室での作業もあってさ』

『そうなんだ、だから元気ないんだね』(相当忙しいみたいだな)

『ううん、研究自体は好きだよ。疲れたなーとかは特に思わないよ』

『じゃあどうしたの?元気ないよ…なんとなくだけど』

『あのね…』

『うん』


『私ゲーム実況辞めようと思うの』



―――― え?mmが実況者を辞める??




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