第22話:好きな人がいるんだって
「莉未・・・どうしてここに」
「嬌太郎こそ、どうして…」
長く感じた、こんなにも莉未と視線を交えるのはいつ振りだろうか。
「あ、えーっと。なんでここにいるんだよ」
「私は近くの居酒屋に瑠美と行くから待ち合わせしてたの…」
「居酒屋…?」
「そう、なんでもイン○タで流行ってるお店らしくて絶対に行きたいって言われて。嬌太郎はどうしてここにいるの」
「…おれも。瑛人と雪弥がどうしてもそこに行きたいっていうからここで待ち合わせようって」
「……」
「……」
(やられた、瑛人と雪弥のやつ…!)
(瑠美…!許さないよ)
「…たぶんあいつらが仕組んだことだろ。おそらくそんな居酒屋なんて存在しない」
辺りを見渡したがそれっぽい建物などない。
「三桑園」
「え?」
「なつかしいね」
「あ、ああそうだな」
「いつもあのベンチに座って池を眺めてたね」
「うん、ただただ景色を眺めてだけだった」
「まだ入れるみたい」
「あ、入ってみようか」
「うん」
おれと莉未は二か月振りに立ち入り、そのベンチに座った。
「真っ暗でなにも見えないね」
「そうだな」
なんだろう、もう別れて二か月も経つのにおれは…。
「好きな人と来るなら三桑園は一番いい所だよね。次もまたここに来ることができるといいな」
え?…莉未好きなやつ居るのか?
なんだよ、自分から入ろうって誘ってきたくせに。
「そうだな、おれも好きな人ができたら来るかな」
「え…好きな人いるの?…嬌太郎」
「…別に。莉未には関係ないでしょ」
もう別れたんだから。
「……」
…え、どうしてそんなに悲しそうな顔をするんだよ。
そっちが言い出したことだろ。
「バカ」
「は?」
「私だって…私だって気になる人くらいがいるんだから」
…やっぱりそうだよな。
「勝手にすればいいじゃん。おれだって最近メールしてる人いるから」
莉未は、はっ、と顔を上げた。
目には光るものが見えた気がした。
「もう帰る」
「…危ないから送るよ」
「タクシーで駅まで行くから大丈夫」
歩き出す莉未は一切振り向くことはなかった。
…おれは悪くないだろ。
だって莉未が最初にあんなこと言うから。
―――― 一匹の鯉が池をはねる音だけが響いた。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦
月曜の講義前、おれは売店ので瑛人と雪弥を待たず先に教室へ入っていた。
できれば顔を合わせたくなかったからだ。
時間になると二人は慌てて教室へ入り、おれを見つけるなり隣りの席に滑り込んできた。
「お前らなあ…」
おれが言い終える前に瑛人が満面の笑みを浮かべ割り込んだ。
「どうだった!!」
雪弥もすかさず。
「昨日はどうだった?嬌太郎くん!」
「最悪だよ、余計なことするなよ」
「え?なに?莉未ちゃんとどうなったの?上手くいったろ??」
「…はあ、もうどうでもいいよ。莉未なんて」
瑛人と雪弥は目を合わせキョトンとしている。
「え…でも三桑園で何か話しをしたんじゃ…」
雪弥が瑛人の影に隠れる。
「三桑園でおれと莉未を合せること自体はいい作戦だったんじゃない?」
「だろ!じゃあ…」
「もう修復は不可能だね。てかおれの方から願い下げだ」
「ちょ、ちょっと待てよ…。何があったんだよ…」
瑛人の顔を引きつる。
「あいつはもう好きなやつが居るから、次ここに来るならその人と来るんだとよ」
思い出すのも嫌なのでソシャゲのデイリークエストを始めた。
「そ、そんなことないよ。莉未さんはきっと今も嬌太郎くんのことが好きだよ」
「だから、本人がそう言ってたんだよ。もう無理なの。それに、おれだってメールしてる人いるしさ」
mmのことだけど、少し利用させてもらおう。
「は?なんだよ!?何してんだよ」
瑛人が声を荒げ立ち上がる。
「おーい、君島くん。少し静かにして下さい」
講師の先生に注意され渋々座る。
「嬌太郎くんそれ本当なの?」
「うん、本当だよ」
「じゃあ莉未ちゃんのことはもういいんだな?」
「くどいぞ。お前散々おれに次に進め、とか言っておいてなんだよ今更」
二人とも言い返すことができなくなったのだろう、下を向いて黙っていた。
~~~~~~
両隣りのどんよりとした二人に囲まれつつも講義を終えた。
「んじゃ、おれこれで今日はもう講義ないから帰るよ」
どんな顔でおれを見送ったのだろうか、でもそれはどうでもいいことだった。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦
―――― SNSメッセージ ――――
『おつかれさま、今日動画の打合せしない?』
―――― SNSメッセージ ――――
少し憂鬱だけど動画も進めないと。
―――― SNSメッセージ ――――
『ロキもおつかれさま。そうだね、20時とかでもいい?』
『了解、じゃあそれくらいの時間に電話するよ』
『うん、よろしく!』
―――― SNSメッセージ ――――
そろそろLI○E教えてくれないかなあ、PCの通話ツールだと音質悪いんだよなー。
まあいいか、動画の編集しよ。
~~~~~~
20時だ、かけてみるか。
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
『もしもし』
『もしもし、mmです』
『ロキです、お疲れです』
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
(うわあ、なんか緊張するな、毎回)
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
『またお互い敬語だね』
『あ、ごめんごめん』
『いいよいいよ』
『えーっと、次はディア○ロス亜種かな?』
『そうだね、ロキ頑張ってよ!』
『あいつ苦手なんだよなあ』
『私も~』
『クリアできるんかな』
『やるしかないね!』
『だねー』
『…ロキなんか元気ない?』
『え?そうかな?』
『うん、元気ないよ。どうしたの?嫌なことあった?』
『うーん、まあちょっとね』
『なになに?』
『えー、うーん、まあいいか。元カノとまた揉めたってだけだよ』
『また??……でも私もちょっとつらいことあったなぁ』
『元カレと?』
『そそ、悲しかったけどロキと話してたらそれもまぎれてきたよ』
『ならよかった。好きな人できたからって嫌味言わなくていいじゃんってさ』
『あー、私もそう思った!なんか私たちの悩みっていつも被ってるよね!』
『確かに!』
『ロキと話しできるとスッキリするなあ』
『おれもそう感じる』
『……じゃ、じゃなくて!打合せだよ!』
『あ、そうだよ!脱線させてごめん、mm』
『大丈夫だよ』
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
後日、撮る動画の内容を細かく打合せし、解散した。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢
通話を終えたmm(莉未)。
ロキ…ロキと話すと落ち着くなあ。
それに対して嬌太郎は…!
莉未は嬌太郎がロキだと思ってもいなく、嬌太郎から生まれたストレスは皮肉にも当の本人(ロキ=嬌太郎)との会話によって和らいでいた。
これは嬌太郎にも言えること。
お互い通話をしているにも関わらず何もかもがすれ違っている。
莉未はデスクから化粧台にゆっくりと移動し引き出しを引く。そして三桑園の池をバックに写る二人の写真を取出し、中央を両手で押え引き裂いた。
…つもりだったが、その両手に力は入らず写真は床にひらひらと落ちていった。
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