第20話:少しくらい強引でもいいじゃん




「なあ、嬌太郎きょうたろう、雪弥ゆきや~」


「どうしたの?瑛人くん?」


「なんだよ」


午前の講義が終わり次の講義まで時間があるため近くのスター○ックスで時間を潰していた。


「いやさ、おれ達っていつもこの3人で一緒にいるってことは仲がいいってことじゃん?」


「え、うん…そうだね。ありがとうね」

雪弥が右手で後頭部を掻きながら照れる。


「違う違う、違うんだよ雪弥。おれが言いたいのは何故3人だけなのかってことだよ」


「は?何言ってんの?」

レポートに追われておかしくなったのか。


「だからさー、なんでいつも男3人でいるんだよってこと!」

瑛人の声は若干店内に響いた。


「え…え?それって変なことなの…?」


「なあ雪弥、大学ってのは何をする場所なのか分かっているよな?」


急に面倒くさい上司みたいになったな。

このコーヒー、アルコール入ってないよな?


「えーっと、専門的な勉強をしてそれを将来に活かすための場所…だと思います…」


「はあ…、な~~~んにも分かってないな。大学でやらなければいけないことはただ一つ!それはな………女の子達と楽しいスクールライフを送ることだ!」


なんとなくそんなことを言うのは分かっていた。

そしてドン引きしている隣りのOLの視線がだいぶ痛くなってきた。


「じゃあお前が女の子連れて来ればいいだろ?」

瑛人は歩いているだけど女子が寄ってくるほどのイケメンだ。


「違うんだって、嬌太郎。おれが連れてくるってことはその子達はおれにしか興味がないわけだ。それじゃなんの意味もないんだよ。3人とも楽しく過ごせないと意味が無いだろ?特に嬌太郎」


指を差すな、指を。

言い返すのも面倒だ。


「じゃあどうするんだよ」


「それを今から考えるんだよ。雪弥は何かいい案あるか?」

次は雪弥が指を差された。


「そ、そういうのは、僕分からないよ…」


「だろうなあ、まず広く考えるとうちの大学の女子じゃなくてもいいんだよ。例えば他校の子とかさ」


?:「うんうん、ウチみたいにすこーーしだけ田舎っ子でもいいしね」


「そうそう、田舎っ子…ん…え?…ちょ、誰!?きみ!?」


瑛人が振り向くと赤髪の少女が腕を組んで立っていた。


「よっ!」


「よっ、…ってきみ誰!?」



「え、瑠美ちゃん、なんでこんなところにいるの??」


「る、るみちゃん??嬌太郎お前おれに内緒でこんな可愛い子と付き合ってたのか!?」


「可愛いなんて言われると照れるなー!」

ヘヘヘと笑い少し照れくさそうにしている。


「違う違う、瑠美ちゃんは莉未の妹だから」


「へえ、莉未さんて妹いたんだね」

雪弥は意外にも平然としている。



「…!、そっちの大人しそうな人誰!?名前はなんていうの!?」

瑛人の肩をグッと押しのける。


「え…えっと。灰川雪弥はいかわゆきやです…」


「ウチは星瑠美ほしるみ!よろしくね雪弥くん!」


「あ、はい。よろしくお願いします…」


目からキラキラとしたものが雪弥に飛んでいるように見えるのは気のせいだろうか。


「おれは君島瑛人きみしまえいと!よろしくね瑠美ちゃん!」

ずり落ちた椅子から体勢を取り直す。


「あ、うん。よろしく」

瑠美がちらっと横目で素っ気なく挨拶すると瑛人はショックでまた崩れた。


瑠美がおれの元に寄ってきて小さな声でささやく。


「…ねえ、雪弥くんって彼女いるの?…」


あー、やっぱりそういうことね。


「…いないよ…」


伝え終える前に瑠美は小さくガッツポーズした。


「てかいつから居たの?瑠美ちゃんは」


瑛人のくだらない話しに付き合ってられず、ずっとスマホをいじっていた為全く気付かなかった。


「さっき来たばっかり!ウチも何か飲みたいなあ、あ!雪弥くんが飲んでるやつ飲みたい!」


「え…ブラックだけど、瑠美さん大丈夫なの?」

雪弥が口からカップを離し心配そうに問う。


「大丈夫だよ!いつも飲んでるもん!」


本当かな…見栄張ってるんじゃないよな。


「瑠美さんは大人なんだね」


笑顔を向けられた瑠美は赤面し視線を落とした。


「ヘヘへ、ま、まあね!…嬌太郎、早く買ってきてよ!」そのまま受け取りカウンターを指さす。「はいはい、ブラックね」



~~~~~~


「で、3人は何話してたの??」


「いやだからさー?毎日のように男3人で過ごすのは流石にきついよねって話しだよ」

瑛人は不貞腐れたように椅子の前脚を上げ後ろにグラグラと揺れる。


「3人?これからはウチがいるからそうはならないよ!」


「え?どういうこと?」


「だからー、ウチと…雪弥くんはさ…その…」


「分かったよ。じゃあおれと瑛人だけが孤立するってことね」

なんとなく瑠美が言いたいことは察していた。


「そうそう!雪弥くん…たまに会えるかな?…」

俯きながら雪弥を向く。


「え?僕なんかで良ければいいけど…」

ポケーっとしている雪弥は瑠美の気持ちに気づけるのか?いや無理かな。


「この金髪はいいとしてさ、嬌太郎はどうなの?莉未ねぇと」


「こ、この金髪って…。瑠美ちゃん辛辣すぎ…」


もう瑛人はボロボロだな。


「莉未とはもう何もないってば。しつこいよ」

もう別れてから2ヶ月は経つ、莉未は次に進もうとしているはずだ。



「バカ!」

瑠美は飲めずにずっと手に持っていただけのコーヒーをテーブルに置いた。



「バカってなんだよ」


「バカだからバカって言ってるんだよ!バカバカバカ!」


「悪いけど何も知らない人にそんなこと言われたくないよ」


…なにがバカだよ、


……。


「はぁ、おれ行くわ」

バッグを持ち席を立つ。


「え!嬌太郎くん、どこ行くの?」


「…帰る」


「何言ってんだよ。落ち着けよ嬌太郎、瑠美ちゃんも冗談半分で言ってるんだからよ」

瑛人は席を立ち肩をおさえる。


「いいよいいよ、バイバイ嬌太郎」

瑠美は背中越しに手を振る。


「…くっ」

瑛人の手を振り払い外へ出た。



♢♢♢♢♢♢♢♢♢



残された瑛人、雪弥、そして瑠美。


「嬌太郎と莉未ちゃんに何があって別れたのかは本人同士しか知らないことなんだから、そこはあまり問い詰めない方がいいと思うよ?」


「うん、僕もそう思うかな」


「…だって、だってさ」


「だってなに?」

瑛人が心配そうに見つめる。


「ウチは…、あの二人が一緒に居てくれることにすごく幸せを感じてたんだ。いつかウチもあんな風になりたいなって思うくらいに…」


「んー、でもそれは押し付けってやつだよ。本人達はもう何とも思ってないかもしれないじゃんか」


「分かってる…でも諦めきれない。たぶんね、莉未ねぇも嬌太郎からの言葉を待ってるんじゃないかって思うんだ」

瑠美は窓の外をじーっと眺めている。


「でもおれ達には何もできないよ。強引に合わせたら悪化しちまうぞ?」




「………一度強引に会わせてみる?」

雪弥が沈黙を破った。


「は?だからそれは良くないって言ったばっかだろ?」


「うん、でも一つだけ工夫してみたらいいんじゃないかなって」


「どういうこと?雪弥くん」


「うーん、まずはどこかで待ち合わせをしていたら時刻通りに来ていたのが当人の2人だけだったというベタなパターンを用意するよね」


「ベタすぎるぞ。そんなの即行帰って終わりだ」

おいおい、と言わんばかりの顔をする。


「うん、そこで一つ仕掛けようと思うんだ」


「なにを仕掛けるの??」


「待ち合わせ場所を二人にとって最も思い出深い場所にするんだよ。それなら何かしら話しが沸いてくるんじゃないかな?」


「ふむふむ…。確かにすぐに帰るってことはないかもしれないな」


「いいじゃん!それ!さすが雪弥くん!」

瑠美は前のめりに雪弥の方を向く。


「で…でも、上手くいく保証はできないよ…」

雪弥は急に縮こまった。


「いや、大丈夫だ!やってみる価値はある!」


「うんうん!やってみよう!」


「早速日時決めようぜ!2人とも都合のいい日教えてくれよ」


「えーっと、じゃあ僕は…この日なら…」


「ウチはこの日ならいいかな!」その後3人は作戦を煮詰めていった。





―――― この強引な作戦で嬌太郎と莉未の溝は修復されるのだろうか



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