第19話:もしかして勘違い?



16時


講義が終わり部室へ向かう。


幽霊部員のおれが部室へ行くのは年に3回程度なのだがこれからは訪れる機会も増えるだろう。

なぜなら待望の新入部員が加入したからだ。


今日はその彼が始めてここへ来る。

PC周りは清掃し、清潔感を意識してます風に向かい入れる予定だ。


おれ達4人は席につきPCでゲームをしながら彼を待つ。


ガラガラガラ、戸車がすり減っている引き戸を開け5人目の彼が入って来た。


「ごめん!ちょっと遅れちゃった、…はあ…はぁ…」

雪弥は走って来たらしく、息を切らしていた。


「そんな急いで来なくてもいいのに」


「ごめんね」


雪弥が落ち着いたところで自己紹介をする。


「えーっと、おれと雪弥はもう知れた仲だから。他の3人を紹介するよ。手前から田中、山田、佐々木。みんなゲームしか取り柄の無いやつだよ」


「僕は灰川雪弥です。みなさんよろしくお願いします!」

ペコリと頭を下げる。


田中「そんなに固くならなくていいよ」

山田「こ、こちらこそよろしくです」

佐々木「…よろしく」


見事に陰キャが5人も集まったもんだ。


「ここにはPCが5台あるんだよ。ちょうど1台空いてたからそれを雪弥が使ってよ」

一番手前にあるPCを指さした。


「うん、ありがと!」


「でさ、ちょっと雪弥のプレイを見てみたいんだよね」


「え?入部試験?」


「そんなのないよ。どんなプレイをするかこの3人も見てみたいって言うからさ。ゲームはその辺から適当に選んでいいよ」


「なるほど…なんか緊張するね。えーっと…うーん、じゃあこれは?」


「…ダークソ○ル?難しくない?」


「そうかなあ?」

雪弥は涼し気な顔をしてセットした。


おれ達は椅子に座る雪弥の後ろから画面に食い入った。

雪弥が使うことになったPCにはもちろんダークソ○ルのデータはなく、最初からのプレイとなる。


初っ端の雑魚から強いの知ってるのか?雪弥は。


ちなみにアクション系全般が苦手なおれは全く歯が立たなかった。


ようやくロードが終わりゲームが始まる。



~~~~~~


え…おいおい、雪弥…お前…。


北の不○院をあっさりとクリアしてしまった雪弥を見た時、おれ達4人は顔を見合わせ呆然とした。


「ちょっと時間かかりすぎたね…ごめん」


いやいやサクサク進み過ぎて逆に怖かったんだけど。

でもどこかで見たことのあるようなプレイスタイルだったな。


「雪弥…ダークソ○ルよくやるの?」


何周かしてないとここまで容易にこなすことは不可能だ。


「え、2回目かな…。だいぶ前にやったゲームだから少し手間取ったよ」


やっぱり怖い。

でもなんだろうな…この既視感。最近どこかで見たことがあるような……、うーん…あれ、あっ!廃リバーじゃないか!?雪弥はあの実況者に匹敵するほど上手い。


「雪弥ってあの廃リバーと同じくらい上手いんじゃない?」


すると雪弥の手は止まり分かりやすい作り笑いをした。


「え、そ、そうかなー…。ちょっと分からないや」


「あれ、まだ見てなかった?彼の実況動画」


「う、うん。まだ見てないんだよね。ごめん」


「そっかあ、今度見てみてよ。上手すぎてびっくりするよ」


「そんなに上手いかなあ」


さっきから顔が引きつってるけどおれ何か嫌なこと言ったか?……あれ?そういえば前もこんなことがあったな。

確かあの時、廃リバーの話しが出た直後に雪弥の言動がおかしくなったんだよな。


もしかして…。


「もしかしてさ…」


「…え!何!?」


「もしかして、雪弥って廃リバーの友達か何かなの?」


雪弥は目を丸くしてキョトンとした。

図星かな。


「…あ、えーっとそんな感じだよ。よくわかったね」


「やっぱりなー。この前もなんかテンパってたからおかしいと思ったんだよなあ。で、中の人はどんな人なの?」


「中の人?…えっと…。普通の人だよ」


「普通って言われてもなあ。友達ってことは同い年?」


「え、うん。そうだよ」


「そっかー、一回でもいいからゲーム教わりたいなあ」


「……僕で良ければ教えるけど」


「そうだな、雪弥もめちゃくちゃ上手いしな。これからよろしくな!」


「うん、こっちこそよろしくね」


何故か雪弥の笑顔には陰りがあったように見えた。



♦♦♦♦♦♦♦♦♦



今日もまたmmとモン○ンの打合せだ。

こっちから通話かけてみようかな。



ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー

『もしもし、mm今大丈夫?』

『ちょ、ちょっと待ってて!』

『え、うん』

ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー



(タイミングが悪かったかな)



ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー

『ごめんごめん!ちょっと電話友達と電話してたからさ』

『え、大丈夫なの?』

『大丈夫!今終わったところだったから』

『なんかごめんね?』

『ううん、電話って言っても通話しながらゲームしてただけだから』

『そうなんだ』

ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー



(…まあ他の人とゲームしててもおかしくはないよな)



ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー

『てか、ロキのためだよ?』

『え?どういうこと』

『だーかーらー。ロキのためにわざわざその人にモン○ンを教えてもらってるの!』

『そうなの??本当に練習してると思わなかったよ~』

『あー、笑わないでよ!ちゃんと練習してるんだよ!』

『ごめんごめん』

『教えてくれる人が同じ大学の人でさ、めちゃくちゃゲーム上手いんだよね。それで付き合ってくれない?って言ったら、いいよって言ってくれてさ。』

『へぇ、もしかしてプロだったり?』

『そのくらい上手いと思うよ。他にもいろいろやってるみたいだけど、私アクション系は基本やらないから細かいところまでは聞かなかったよ』

『そっかあ、おれも一回教えてもらおうかな?』

『だめだよ!ロキが上手くなったら私たちのバランスが崩れていい動画を作れなくなっちゃうでしょ?』

『え、うーん。そうかも…。じゃあ今回は諦めるよ。いつか紹介してね』

『いいよ!じゃあ動画撮っていこっか』

『おっけー。えーっと今日はナル○クルガ討伐でいいんだよね?』


『うんうん、じゃあ最初に…こうして…』

『そうだね、でもそのタイミングでこうするのはどうかな?』

『ふむふむ…』


~~~~~~


おれとmmは2時間ほどかけ納得のいく動画を撮った。

あとはこれをおれが後日編集して投稿するだけ。



ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー

『今日もお疲れ様ロキ。またね』

『はーい、おつかれさまー』

ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー



やべーもう12時か、少しだけ編集するか。

てかおれのスプ○トゥーンの編集もまだだったなぁ。

…やらないと…早くやらないと……。


おれにとってこのデスクは第二のベッドとしての役割も備えてある。



♦♦♦♦♦♦♦♦♦



―――― ピピピ、ピピピ


……朝か。講義が始まるな、早く行かないと。


~~~~~~


いつものように売店前で待ち合わせる。

が、

今日は瑛人は午後からの講義しか取っていないためおれが待っているのは雪弥だけだ。


同じサークルとしての雪弥とは仲良くなれるが莉未の彼氏としての雪弥とは上手くやっていけるかどうか不安しかない。


買ったコーヒーを半分飲んだところで雪弥の姿が見えてきた。


「嬌太郎くん、ごめんね。待たせたかな?」


「いや全然大丈夫」

なんか彼氏と彼女みたいだな。

なんだろう、女子はこういった守ってあげたくなる存在惹かれるのだろうか。


莉未もそこに惚れたのか?…まあおれには無いからなあ、雪弥みたいな ”可愛さ” は。


「まだ時間あるしゆっくり行こうか」


「うん、そうだね」


雪弥…お前莉未のことを大事にしてあげられているのか?

だめだ、いつまでこんな感情が残っているんだ。

でもさ…。


「……雪弥」


「ん?何?嬌太郎くん」


「いや、そのさ…」


聞きずらい…。


「なに?」


「だからさ…ちゃんと大事にしてやってくれよ…」

これくらいしか言えないな。


「…え?なんのこと?」


は?ピンと来ていない雪弥に少し腹が立った。


「莉未のことに決まってるだろ!」


「え!…莉…未…さん?がどうしたの?」

雪弥は立ち止りたじろいだ。


「とぼけるのはもういいって、付き合うならちゃんと大事にしてほしいってことだよ…」


「付き合う?なんのこと…?」


「は?莉未と付き合ってるんだろ?少し前から知ってたんだよ」

以前、付き合ってほしいだの夜よろしくねだの…散々知ってたじゃないか。


「あの…さ、僕莉未さんと…付き合ってないんだけど…」


「へ?」

付き合ってない?


「…何か勘違いしてない?同じ研究室だから少し仲良くしてくれてるけど、それ以上の関係は一切ないよ?」


「じ、じゃあさ、莉未が付き合ってほしいって言ったのに対して雪弥がいいよって答えたのはどういうことなんだよ。それに夜に家でって…」

あの会話の内容は絶対的な証拠になっている。言い逃れはできない。


「あー、もしかしてゲームのことかな?」


「ん?…ゲーム?」


「うん、少し前からゲーム教えてるんだよ。なんか上達しないといけないって息巻いてたんだよね」


教える?


「じゃあ付き合うっていうのは…」


「うん、ゲームに付き合うってこと。あとプレ○テ4でオンラインをやるには家でやるほか方法がないからね」


夜って、大学から帰ってからってことか?


「じゃあ付き合ってるわけじゃないってこと…?」


「うん、ゲームをたまに一緒にするくらいだよ」


「…へ、へえ…そうだったんだ…」


拍子抜けして声も出なくなっていった。




―――― なんだ、そうか…よかった



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