第17話:付き合ってほしいんだけど…




「…僕、そのサークル入ろうかな」


雪弥がおれの所属するゲームサークルに加入してくれたお陰で部員は5人に達し、廃部の危機は逃れた。

入部を決めたその日は雪弥が何か用事があるらしく翌日改めて部室に招待しようという流れになった。その後皆その場で解散した。


雪弥は電車通学のため駅に向かうというので、駅方面にアパートがあるおれは途中まで一緒に歩くことにした。

少しずつ心を開き始めてくれている雪弥に今日の用事の内容を聞いてみた。


「今日はバイトか何か?」


「ううん、今日はバイト入ってないよ。ちょっとやらないといけないことがあってさ」


「レポート?」


「違うよ、今日中に終わらせることがあったからさ」


「へぇ、なんか忙しそうだな」

バイトでもレポートでもないのに期日があるもの…、なんだろうか。


アパート前まで着いたのでそこで別れた。


「じゃあまたね」


「明日こそ部室行くから!」

雪弥は嬉しそうに手を振っていた。


~~~~~~


おれはアパートに着いたあとシャワーと洗濯を済ませ、作り置きのカレーを食べながら動画の編集を始めた。


22時、動画編集も粗方終わったところで休憩がてら【廃リバー】の動画を見ることにした。


以前ダークソ○ルを見た後チャンネル登録をしていた。


ダークソ○ルの続きを見ていると途中に、登録チャンネル一覧の廃リバーのアイコンに新規投稿通知が出た。

お、新しい実況か?内容を見てみるとバイオ○ザードの最終話だった。


あれ、もう完結?この前始めたばっかりじゃなかったかな。


確認してみるとやはり初期投稿日はつい最近で話数は他の人の半数で完結している。

サクサク進み過ぎて尺が余ってしまうのではないのだろうか。

これはこれで本人にとって負担になるよなあ。

そのうち投稿するネタが尽きてしまうのではないかと心配になった。


なにかとおれとは正反対なタイプだな。



♦♦♦♦♦♦♦♦♦



翌日


「おーい雪弥!」昼食を受取り席を探していると、瑛人が一人で定食を食べている雪弥を発見した。


「あ、嬌太郎くんと瑛人くん」


「なに食ってんの??」


「ただののり弁だよ」


「おれらと一緒だ、意外と美味いよねこれ」


「そうだよね!」


さっきまで暗い顔をしていた雪弥だが徐々に笑顔を見せてくれた。


「なあ雪弥、今日部室来れそう?」


「うん。行けるよ」


「え?何。もしかして雪弥ゲームサークルに入ったの?」


「うん、嬌太郎くんが誘ってくれたんだ」

雪弥は恥ずかしそうに人差し指でこめかみ付近を掻いた。


「はあ!?おまえらばっかずるいぞ!おれのことハブってんの?」

瑛人は口の中の物を飲み込んだ後睨みを利かせた。


「えー、じゃあ瑛人も入ればいいじゃん」


「んー、…おれ苦手だしなあ。見るのは好きだけどよ、実況動画とかさ」


「瑛人くん実況動画見るの?」


「見るよー、レト○トとかよく見るかな」


「へぇ、アクション系は見る?」


「余ほど気になったやつくらいしか見ねえかな。なに、雪弥もよく見るの?」


「えーっと、まあうん。アクション系は好きかな」


「雪弥も見るんだあ。おれも最近アクション系のやつ見てるよ。なんかめちゃくちゃ上手い人が居てさ、つい見入っちゃうっていうか」


「嬌太郎くんもなんだ。ぼくもその人の動画見てみようかな。なんて人なの?」


「えー、知ってるかなあ。おれも最近知ったんだよね。”廃リバー”って人だよ」



「…え…」



突然雪弥の笑顔が引きつった。


「もしかして雪弥も知ってた?」


「……あ、うん。知ってるかな」


「へえ、嬌太郎も雪弥も知ってるってことはそこそこ有名なんだな」


「かもな、おれアクション系のやつ下手だから教わりたいくらいだよ」


雪弥は何故か箸を持ったまま硬直していた。


「どした?雪弥」

瑛人が心配そうに声をかける。


「え、あ、ううん!なんでもないよ。あのさ嬌太郎くん、サークルの件また今度でもいいかな?」


「え?なんか急用?」


「う、うん。ごめんね」

雪弥は箸を持ち直しかきこむようにのり弁を食べ、じゃあねと言って出て行った。


「なんか気に障ることいった?おれ」

瑛人は自分を指さした。


「…わからん」


ゲーム実況の話しが嫌だったのだろうか。



♦♦♦♦♦♦♦♦♦



今日はmmと次のコラボ動画の打合せの日だ。

久々なので正直少し緊張している。


それも通話での打合せだからだ。


時間になる。



ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー

『もしもし、mm。お疲れ様です』

『お疲れ様です。この前はごめんね』

『いいよいいよ、バイトなら仕方ないし、こっちはいつでも大丈夫だから』

『ありがと。で、打合せの内容は次のコラボ動画の題材を何にするかの最終決定とその方針でいいんだよね?』

『そうだね。この前話した時モン○ンにしようってことになったけどどうする?』

『モン○ンで大丈夫だよ、でも私上手くないからなあ』

『ならちょっとは練習しておいてよ』

『えー、…わかったよー』

『頼むよ、mmさん。んじゃ早速内容決めていこうか』


~~~~~~

『えーっと、内容は…こんな感じで…うーん』

『それはこっちの方がいいんじゃない?』

『…確かに…うんうん』


~~~~~~

1時半程度話し合い大体の方針を決めた。


『よし、じゃあこんな感じでいいかな?』


『うんうん、あとはmmがどれくらい練習してくれるかだね』


『プレッシャーはかけないでよぉ!』


『ヘヘ、嘘だよ。ちょっとだけ練習するだけでいいから』


『は~~い』

ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー



コラボ動画の題材はモン○ンワールド。

お互いにデータを作り直しメインとなるクエストだけを二人で協力プレイするというもの。

進捗状況の確認が必要であるため、メッセージにて都度連絡を取り合うこととなった。



♦♦♦♦♦♦♦♦♦



翌日


おれは講義を受けるため教室へ入った。

確か、この講義は雪弥も受けているはず。

生徒が多いため小柄な雪弥を見つけるのは難しいと思われたが、彼は窓際の席にちょこんと座っていた。


「おーい、雪弥…って…え…」


雪弥は一人ではなかった。


雪弥の隣に莉未が居たからだ。

は?なんで…なんで雪弥の隣に莉未が。


おれは気づかれないよう本能的に雪弥の後方の席に回り込んだ。

なんでおれは隠れているんだろう、と思いつつも二人を観察していた。

そういえば莉未と雪弥は同じ研究室だったな、研究室関連の話しをしているんだろうか。


…にしては二人とも楽し気に話している。


雪弥はいつもあんな風に笑顔で話せたのか?何を話してるんだ。

……まさか付き合ってるとかじゃないよなあ。


雪弥と莉未が…なんかそういう風にしか考えられなくなってきたぞ…。

もし、そうだとしたら今後おれは雪弥とどう接したらいいのか。


そもそも雪弥はおれが莉未の元カレだということを知っているのか?


テンションガタ落ちのおれの耳に二人の声が聞こえてきた。


「ねえ雪弥くん、あのさ…付き合ってほしいんだけどいい?」


「え、莉未さんが良ければ…僕は全然いいですよ」


「やったぁ!じゃあ今日の夜にでもよろしくね!」


「うん、こっちこそよろしくね」



……え?付き合う?今夜?よろしく?…は?





―――― 嬌太郎は驚きのあまり茫然自失した。




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