第16話:灰川雪弥




「……僕は【灰川雪弥】です…。研究対象は…」


「え?」


「え?…どうかしました?」


 彼の声を聞いたおれはふいに声が漏れた。


「あの、自己紹介…続けてもいいでしょうか…」

 不安そうにおれの顔色をうかがう。


「あ、あ!ごめんごめん!どうぞどうぞ」


 莉未を含めた皆が引いていた。


「…嬌太郎、お前どうせハーレムにやきもち妬いたんだろ?」


 瑛人が小声で嫌味を吐く。


「…そんなんじゃねーよ」


 何故だろう灰川雪弥の声に…聞き覚えががあるようなないような。


 その日はお互いの研究内容の確認と相互性の有無を話し合い解散となった。


~~~~~~


「なあ瑛人、灰川って誰?」


「は?誰ってさっきのやつだろ」


「ちがくて。どんなやつなの?ってこと」


 同じ学科なのに今までほとんど接点がなく、彼のことを知る機会など無かった。


「どんなやつ、かぁ。まああのルックスだからモテてはいるね。なんつーか、おれが太陽だとしたら灰川は月?みたいな?」


 確かにイケメンなのかもしれない。

 アッシュ系の髪色に目元は優しい感じだった。


 その上、甘いイケボ。


 まさかあの研究室のハーレム状態は彼目当てで集まった女子達が作ったものなのか?


 だとしたら莉未は…。

 でも研究室を選ぶ前はおれと付き合っていた、大丈夫なんだよな?


 ってまたそんなこと…考えないようにしよう。


「でも灰川って基本的に独りで居るよなー。友達いないんかな」


 友達がいないのにモテるなんてどんなチートを使ってやがるんだ。


 所詮顔か…瑛人といい灰川といい…。



―――― 「あ、あの!」


 駆けてくる足音と甘い声。


 振り返ると息を切らした灰川が居た。


「あれ、灰川くん?どうしたの?」


「えー、っと、あの。…はあ…はあ…」


「おいおい、どこから走って来たんだ?そんなに息切らしちゃって」

 瑛人が心配そうにのぞき込む。

 灰川はすぐには声でないようで出発点を指さした。


「えーっと、あそこ??」


 彼は膝に腕をつき下を向きながら頭を縦に振ったが、おれと瑛人は顔を見合わせた。

 なぜならそこが20メートルも離れていない2号棟の入口だったからだ。


 やっと落ち着いた灰川は顔を上げ話し合始めた。


「あのさ…はあ…はあ、ごめんね急に」


「いや別にいいんだけど、どうしたの?」


「えっと……」


「なに?どしたん?」

 背の高い瑛人は中腰になり灰川の話しを聞く。


「せっかくだし……一緒にご飯でもどうかなって…」


「ご飯…?」


「あ!いやだめならいいんだ!君たちがちょうど食堂の前に居たから…さ」

 灰川はバツが悪そうにまた下を向いた。


「いいぜ!何食うの?雪弥は!」


「え、雪弥…」


「あれ、名前で呼ばれるの嫌だったか?」


「ううん、てか入学してから下の名前で呼ばれたの初めてで、変な感じ…」


 こんなにもコミュ力に差があるものなのかと見せつけられた。


「じゃあおれも。雪弥、よろしくな」


「瑛人くん、嬌太郎くんよろしくね。…本当にありがとう。…ぅう…」


「え?え!?泣いてんの!?」


「あ…あ、ごめん…!つい…」


「瑛人、何泣かしてんだよ」


「は!?おれかよ!雪弥泣くなってぇ、なんかいじめてるみたいじゃねぇか!」


「おい、とりあえずその大声はやめとけ…」


 周りは瑛人の声が響き渡り静まりかえっていた。


「雪弥、瑛人のことはいいから飯行こ。何食うの?」


「…えーっと…ラーメンかな…」

 おれは瑛人を置去りに雪弥と食堂に入った。


「おいおいおれも行くから!」


 その後雪弥の涙は止まり、3人で談笑した。



♦♦♦♦♦♦♦♦♦



 雪弥…いいやつだったな。


 最初はすかしたやつなのかなとか思ってたけど。


 ……でもどうしてあの時ふいに声が出たんだろう。


 自己紹介で雪弥の声を聞いた時に何か既視感があったんだよなあ。



 うーーーーん


 分らん!



 そういえばmmと打合せしないとな。

 そこそこ案は考えて来たからぶつけてみよう。



―――― SNSメッセージ ――――

『mmおつかれさま、今日少し打合せしたいんだけど時間どうかな?』

―――― SNSメッセージ ――――



 20分後。あ、返事だ。



―――― SNSメッセージ ――――

『ごめん今日はバイトだから無理かも。ほんとごめんね!』

『了解、バイト頑張ってね』

―――― SNSメッセージ ――――



 そりゃそうだよな。いつでも合せられるわけないよな。

 んー、せっかく時間あるし動画編集でもするか。


 おれは撮りためていたファイ○ルファイトの動画に手をつけた。


~~~~~~


 ふう、だいぶ捗ったな。


 ちょっと休憩がてら他の実況動画でも見ようかな。


 you○ubeのおすすめ動画一覧をスクロールしていると【廃リバー】の実況動画が出てきた。

 お、廃リバーだ。


 出てきたのは廃リバーの【ダーク○ウル】

 難易度がトップクラスのものとして有名なゲーム。

 雑魚敵と遭遇した時でさえ緊張感が半端じゃなかった。

 …アクションゲーが苦手なおれにとって投稿することはないであろうゲームの一つだ。


 まあ見てみるか。


 前回はジャッ○アイズを見たが今回はアクションのレベルが桁違いだ。


 本当にクリアできたのか??


~~~~~~


 まじか…上手いなんてもんじゃない。


 爽快すぎる、そんなにサクサク進めるのか?というくらいゲームが進行していく。



===廃リバー実況動画===

「はい、ここはこうして…」

「この敵はこれでいいですね」

「…あとはこのまま」

「あいつは放置でいいですね」

「あー、このステージはちょっと難易度低めでしたね」



―――コメント欄―――

『廃リバー上手すぎ』

『ハイリバさんかっこいい』

『見てて気持ちいい』

『耳の保養』

―――コメント欄―――



「じゃあ今回はここまでですね。ありがとうございました」


==============


……イイネとチャンネル登録の催促は無しか。


 なんか、必死になって登録者数を増やそうとしている自分が情けなくなってきたな。



♦♦♦♦♦♦♦♦♦



 今日は珍しくサークルに来ている。

 まあただ仲間内でゲームをするだけなんだが。

 サークルの室内にはPC5台が貸与されている。


 部員はおれを含めたった4人。5人いなければもうすぐ廃部だと脅されている。

 おれは廃部になっても何も構わないのだが、仲間たちが不憫なのでたまに勧誘に手を貸している。


 もう一人…下手でもいいから誰か入ってくれないか。


 おれ達陰キャ4人が人通りの多い通りでウロウロしていると一人だけ立ち止った。



「あれ、嬌太郎くん?」



 そこには相変わらず独り行動をしている雪弥がいた。


「あ、雪弥。何してるの?」


「売店に行くところだったよ」


「そっかあ」


「うん、じゃあまたね」

 雪弥は小さく手を振り階段へ向かった。


 あれ…雪弥ってサークル入ってるのか??

 ダメ元で誘ってみるか。


「おーい!雪弥!」


 いきなり大声で呼ばれた雪弥はビクッと肩を浮かせ、小走で戻って来た。


「なに…?」


「あのさ、雪弥ってサークル入ってる?」


「サークル?入ってないけど…」


「まじで?じゃあさ良かったらうちに入らない?」

ゲームサークル】と書かれた画用紙を胸元に上げた。


「ゲームサークル?…何をするサークルなの?eスポーツみたいな感じ?」


「表向きはね」


「どういうこと?」


「んー…実はただゲームをするサークルだったりする感じかな…ハハハ…」

 後ろの3人もてへへと笑う。


「えーっと…楽しいの?」


「あ、え、楽しいよ!すごく!」


 ごめん雪弥、すごく楽しいわけではないです。


「…ぃろう…か…な」


「え?なに?」


「…入ろうかなって、嬌太郎もいるしゲームでなら他の人とも仲良くできるかもしれない…」



 恥ずかしいのだろうか、雪弥は終始うつむいている。


「ほんと!?まじか!ありがとう雪弥!」




―――― 嬉しすぎて肩を組むと雪弥は顔を上げ笑っていた。



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