第13話:嬌太郎なんでしょ?





19時15分


「嬌太郎!きたぞー!」


「うるさ、声でかいよ。某実況者さん並みにうるさいよ」


「だって楽しみで仕方なかったんだよー」


「はいはい。瑛人、ちゃんと約束覚えてるか?」


「おう!口調だろ?こんな感じでどうよ(こんばんわー。ロキです。みんなおつかれ)どうどう!?」


うーん。ま、いいか。


「ちゃんと最後までそれでやってくれよ」


「おけおけー」


少し時間あるけどセッティングだけしてしまおう。


~~~~~~~~~


配信ボタンを押すだけでスタートできるところまでの準備を終えた。


「今日は20時開始にしてあるからなんか食わない?おれ飯食ってないんだよね」


「おれもう食ったからいいわー」


「えー、まじかよ。んじゃおれちょっとそこのコンビニ行ってくるわ」


「あ……、あー嬌太郎ゆっくり行ってきな!事故に合ったらやべーからさ」


ん?瑛人って人のことをそんな風に心配できるやつだっけ?…なんか意外だな。


「んじゃ行ってくるわ。何もいらねーの?」


「んじゃ肉まん買ってきてくれる?金は倍で返すよ」


「はーいよ」


バタンッ、玄関のドアを閉めコンビニへ向かう。


―――― あいつ…何かあったら即行切ってやるからな。



♢♢♢♢♢♢♢♢♢


一方、莉未


少しだけ遡る。


(やーっと、講義終わり)


「あ、莉未ちゃんじゃん!おつかれ!じゃあね!」


「瑛人くんもおつかれさま、またねー」


この日莉未と瑛人は同じ講義を受けていた。


莉未は校舎を出る前にSNSを確認した。


(えっと、ロキ…じゃなくて嬌太郎の配信は20時だったかな。うちに帰るまで間に合うかな…)


19時に講義を終えた莉未は19時10分に教室を出た今、駅へ向かい電車に20分ほど乗って帰る為、帰宅時間はおそらく20時ギリギリといったところだろう


彼女はどうしても配信に間に合わせなければいけない理由がある為急いで駅へ向かった。



駆け足ししたが駅の100メートル手前で息を切らし歩くことにした。


体力のない彼女がここまで来るのにかけた時間はなんと10分。


(ふぅ、まあ通信料はかかるけどスマホで見ようかな)


莉未は20時までにアパートに着かないことを悟った。

19時半頃イヤホンをし路上を歩いていると何故かロキの配信が始まっていた。


(え、もう始まってたの!?)


驚いた莉未は急いで画面を開く。


(えー、もう視聴者さんと沢山話してる。…嬌太郎…でも何を聞けばいいのかな)


彼女は立ち止り悶々としていた。


するとそこへ聞き覚えのある声が聞こえた。


「あれ、こんな遅くにどうしたの?」


後ろには嬌太郎が居た。

(ん?…え…えぇ!?嬌太郎!?…え、だってだって…今配信してるはずじゃ…)


「なんで今ここに居るの!?」


「なんでって」

嬌太郎はすぐそこにあるコンビニを指さした。


「え、でも今…おかしいじゃん!」


「はあ?それはこっちのセリフなんだけど」


「…でも、だって…え?うーん…」


「なんかおかしいぞ、熱でもあるの?てかこんな暗い道を一人で歩くのはよくないよ」


「別に…」


「……駅までは送ってあげるよ」


「え?」


「女の人が夜道を歩くのは危険だよ」


「…ありがとう」

(ロキは嬌太郎じゃないのかな…現にロキは今も配信してるし…考えすぎだったみたい)



―――― 嬌太郎がロキだという誤解を解き、晴れ晴れとした気持ちで嬌太郎の後ろをついて行った。



♦♦♦♦♦♦♦♦♦



莉未、こんなに暗いのによく平気で歩いてられたなあ。


以前付き合っていた頃は毎日のように送っていた為、嬌太郎の中には複雑な思いが生まれていた。


って、もう20時になるじゃん。早く帰らないと。




―――― ……は?



===ロキ配信===


「いやー、みんなのコメント面白いのばっかりだね」


「えーっと、次はどのコメントにしようかな?…ッ…!?いてッ!」


ガタンッ!


おれは楽し気に配信している瑛人を椅子から引きずり落し、小さい声で脅した。


「…お前、何してんだよ。まだ20時になってねえだろうが」


「…わりぃわりぃ。ちょっと我慢できなくてさ。でも変なことは言ってないぜ?忠実にロキを再現したからな」


「…ほんとうだろうな。…まあ変われ」



===ロキ配信===


「みんなごめんごめん、ちょっと椅子から落ちちゃったよ」



―――チャット欄 ―――

『おいおい大丈夫か?』

『ワロタ』

『氏んだかと思ったわ草』

『続き話そうよ』

―――チャット欄 ―――



あれ、瑛人のやつほんとにおれを再現できてたのか?


「ごめんごめん、でもちょっと今日は腰打ってキツいから終わるね」



―――チャット欄 ―――

『お大事に』

『おじいちゃんやん』

『おk』

『また雑談よろ』

『おつかれ~』

―――チャット欄 ―――



ふう、なんとか乗り切れたか。


「おい瑛人…もうお前出禁だからな!」


「え~そんな殺生な」


「当たり前だろ」


ムシャクシャしたおれは瑛人をすぐにアパートから追い出した。


気をつけないと、もう目を離せないな。


21時

早めに配信を終えたのでその分撮りためていたスプラ○ゥーンの動画編集をした。



♦♦♦♦♦♦♦♦♦



「昨日何してたの?」


前方2メートルほど離れた場所に仁王立ちしている莉未が険しい顔をし唐突に話しかけてきた。


「昨日…ってコンビニ行ってあんたを駅まで送り届けたけど」


「そのあとは?」


なんなんだよ。面倒だなあ。


「コンビニで買ったやつをアパートで瑛人と食ってたよ」


瑛人に配信させてたなんて口が裂けても言えない。


「なになに?二人で何を仲良く話してたの?」


当人が颯爽と現れた。


「仲良くねえから!」

「仲良くないよ!」


おれと莉未の返事がシンクロした。


「えー仲良さそうだったけどなー」


ニコニコと笑う瑛人がいつになく憎かった。



♦♦♦♦♦♦♦♦♦



数日後


ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー

『お疲れ様です。ロキさん』

『おつかれ、あれ敬語に戻ってる?』

『あ、ごめんね!ついつい』

『いいよいいよ、気持ちは分かるから』

『ありがとね。そういえばこの前の配信さ、終わるのちょっと早かったよね?私最後の方見れなかったんだけど何かあったの?』

『あー、恥ずかしいんだけどさ。椅子から落ちて腰打ってさあ、それで急遽打ち切りにしたんだよ』


(まあ実際に腰を打ったのは瑛人なんだけどね)


『え?大丈夫なの??』

『うん、その日寝たらよくなってたから』

『ならよかったあ、今度からちゃんと気をつけてね』

『気遣いありがとう、じゃあ動画撮っていこうか』

『そうだね、ちょっと遅くまでかかりそうだけどロキ大丈夫?』

『大丈夫だよ、mmこそ大丈夫?』

『大丈夫!』

『じゃあ始めようか』

~~~~~~

『……えーっと、まず…。』

『…うんうん、…でもこれはこの方がいいんじゃないかなあ…』

ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー



莉未はロキが嬌太郎ではないかという疑念をすっかり払い、動画のまとめに時間を費やした。


―――― ピコンピコンピコン、ピコンピコンピコン


…んん、朝か。


朝8時。珍しく時間通りに起きることができた。


昨晩は深夜の2時まで作業をしていた為起きることができるかどうかが心配ではいた。


とりあえず朝から講義があるので教室へ向かった。

瑛人のやつ遅いなあ、遅刻確定かな。

あれ、そういえば莉未もこの講義受けていたはずだよな。


最近近くに居ることが多いので探したけど姿は見えなかった。

遠くの席に座っているのだろう。


講義に使う物をバッグから取り出し準備しているとスマホの着信音が鳴った。

まずい、またマナーモードにするのを忘れていた。

モード設定を変え中身を確認する。


ん?瑠美からだ。

何の用だ?


LI○Eを開く。



----LI○E----

『嬌太郎!大変だよ!』

----LI○E----



大変?何のことだ。



----LI○E----

『何が?』

『莉未ねぇが倒れたんだよ!』

『は!?どこで!』

『たぶんアパートだと思う…。さっき実家に電話来たんだけど、うちからそっちまで2時間かかるから嬌太郎に莉未ねぇのことみててほしいの!』

『え!…いやでも…おれ達別れたって言ったよね?』

『そんなん知るか!早よ行かんと蹴り飛ばすよ!!』

『わ、わかった、わかった!とりあえず行ってみるよ』

『うん、頼むよ!』

----LI○E----



びっくりした…。


……莉未が倒れた?


…早く行かないと!


道具をしまい教室を出て走り出した。


「おはよー、嬌太郎。ってどこいくん?もうはじまるぞー」


「今日はサボるわ!」

ポケーっと突っ立っている瑛人をよそに駅へ走った。





―――― 莉未…大丈夫なのか!?





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