第12話:不安すぎる配信






「地下への隠し階段作ってみてよ、だめなの?」



莉未・・・、どうしてこんなところに。



「えーっと、なにしてんの?」



「なにって…ただリクエストしてるだけ。だめなら別にいいよ」



試してるのか?おれの実力を。



「3分」



「え?」



「だーかーらー。3分で作ってやるよって」



さっきも一回作った、いや配信でmmにリクエストされた時にも作っていた。


楽勝だ。



「そんなの無理に決まってるよ」



「時間数えてていいよ」



「え、え!?」



戸惑う莉未をよそにマイ○ラのワールドをリセットし、ロードする。



「じゃあ今から3分ね」


即ピストン・レッ○ストーンなど必要な物をインベントリに入れとりかかった。



カチッカチカチカチ…。


痛々しいほどのヲタク特有のオーラと激しいマウスのクリック音を出しながら3分も経たないうちに、それを完成させた。



「これでいい?」



「……え?」



「え?、って作り終わったんだけど」



「早すぎだよ、てかマイ○ラ上手いの初めて知った」



「そうだっけ?」


確かに言ったことはないな。



そのあと莉未は本当に完成しているのかどうかを確かめるためにPCの前に座り作動させている途中に手が止まった。



「ね、ちゃんとできてるでしょ?」



「……」


え?なに、無視かよ。



「マイ○ラ…よくやるの?」


莉未は急に立上り俯いたまま聞いてきた。



「え、まあそこそこ?」



「…そっか」



「なんだよ、それ。そっちが作ってって言うから作ってやったのに」



「忙しいから行くね」



莉未は足早に持ち場に戻って行った。



毎度のことながら何を考えてるのか分からないなあ。



おれ達は休憩を挟みながらこの鬱陶しいイベントが終わるのを待った。




♦♦♦♦♦♦♦♦♦



20時



大学祭が終わり、アパートに着く。


この時間に帰宅したのは打上げがあったから、とかそういう理由ではない。


イベント会場からサークル棟までが極端に遠い為、貧弱なゲーヲタのおれ達にとってPCを運ぶなどという作業が一世一代の大労働だったためだ。



まあ打上げをするほど行動力のある人間もいないのだが。



アパートに着いた30分後だろうか。



mmからメッセージが届いた。




―――― SNSメッセージ ――――


『おつかれさま。今日大変だった?』


『mmもおつかれさま。大変だったよー』


『そっかあ』


―――― SNSメッセージ ――――




なんだ?なんの要件だ。




―――― SNSメッセージ ――――


『どしたの?』


『今日は大学だったの?』


『そうだね、実は大学祭だったんだよね』


『何かの係?』


『いやサークルの出し物だよ』


『そうなんだ、ゲームとかしてたら見てみたかったな』


『ゲームだよ?ほんと疲れた』


『FPSとか?』


『いやマイ○ラ、この前の配信みたいなことしてたんだよね。そういえばまた隠し階段も作ったよ』


『いいね、見たかったな。じゃあね』


『え?うんじゃあね』


―――― SNSメッセージ ――――



なんだ?そんなに気になることか?



―――― そういえばプライベートのことを話すなんて初めてだな




♢♢♢♢♢♢♢♢♢




―――― これは莉未の今日の出来事




時間は遡る。莉未は昼食をとる為、交代で持ち場を離れていた。



いろいろと並ぶ出し物や屋台を周り、最後に通りの隅にあるゲームサークルを見つけた。


嬌太郎がこのサークルに入っているのを知っていた莉未は少しだけのぞいてみることにした。



すると休憩中なのか人はいなく、机の陰にかがむ嬌太郎の姿を確認した。



机の前にはマイ○ラでなんでも作ります、という文字の入った模造紙が貼られていた。



(へぇ、嬌太郎ってマイ○ラできるんだ。……リクエストの一つくらいいいよね)



「地下への隠し階段やってみて」


(言っちゃった…)



「…えーっと、なにしてんの?」


(そんな言い方しなくていいじゃん…)



「だめなの?」



「いいよ、3分ね」



「え?」



「だから、3分で作るってこと」



「そんなの無理に決まってるよ」



「時間数えてていいよ」



カチッカチカチ…3分も経たずマウスの音が止んだ。



「これでいい?」


(え?もうできたの!?)



「早すぎだよ、マイ○ラ上手いの初めてしったよ」


(…マイ○ラ一緒にしてみたいなぁ)



「そうだっけ?まあ見てみなよ」



「え、うん」


(ほんとにできてるのかな、え、これってロキと一緒の作り方じゃない?)



「ね、ちゃんとできてるでしょ?」



「マイ○ラ…よくやるの?」



「え、まあそこそこ」


(ロキと一緒…、たまたまかな)



「そっかじゃあ忙しいから行くね」


(あとでロキに聞いてみよ)



莉未は持ち場に戻りその日最後まで仕事に追われた。




(はあ、疲れた…。あ、ロキに連絡してみないと)




―――― SNSメッセージ ――――


『おつかれさま。今日大変だった?』


―――― SNSメッセージ ――――



(あれ、もう返信きた)




―――― SNSメッセージ ――――


『mmもおつかれさま。大変だったよー』


『そっかあ』


『どしたの?』


『今日は大学だったの?』


『そうだね、実は大学祭だったんだよね』


―――― SNSメッセージ ――――




(え?大学祭?偶然?)




―――― SNSメッセージ ――――


『何かの係?』


『いやサークルの出し物だよ』


―――― SNSメッセージ ――――




(サークルって…思い切って聞いちゃえ)




―――― SNSメッセージ ――――


『そうなんだ、ゲームとかしてたら見てみたかったな』


『ゲームだよ?ほんと疲れた』


『FPSとか?』


『いやマイ○ラ、この前の配信みたいなことしてたんだよね。そういえばまた隠し階段も作ったよ』


―――― SNSメッセージ ――――




(え…え…、どういうこと!?ロキと嬌太郎…いやそんなはず…でも偶然にもほどがあるよ)




―――― SNSメッセージ ――――


『いいね、見たかったな。じゃあね』


『え?うんじゃあね』


―――― SNSメッセージ ――――




(ロキは嬌太郎、嬌太郎はロキかもしれない。…でもどうしよう。コラボもするって決めちゃったし。その上嬌太郎は私のことに気づいてないだろうし…。うん、今度録画する時に聞いてみよう。はっきりさせないと)




ついにロキの正体を嬌太郎と見抜いた莉未は次の接触のタイミングで確信をつくことに決めた。




♦♦♦♦♦♦♦♦♦




「なあ嬌太郎」



「なに」



「こんなにコードたくさんあって意味分からなくならねーの?」



次の講義まで時間が空くときはこうして瑛人がうちのアパートに来ることが多い。



「とりあえずベッドに座ってカップ麺食うのやめてくんないかな」



「はーい」



「コードは分からなくならないよ普通」



「へぇ、流石だな。あのさ今度おれにも配信させてよ!視聴者のコメント読むの夢だったんだよなあ」



「はあ?無理に決まってんじゃん、大体おれとお前の声じゃ…」



「ん?何?」



「まあボイチェンでいけなくもないか、この前ちょっといいの買ってみたんだよね」



「じゃあそれでやってみようぜ!」



「いや、やっぱり無理」



「なんでぇ!?」



「だって瑛人余計なことしか言わないでしょ」



「言わない言わない!約束する!」



「むりー、期待させて悪いけど」



「あ!じゃあさ、隣りに嬌太郎が居ればいいんじゃね!?変なこと言った瞬間消せばいいだろ?」



「はあ?無茶苦茶だな…」




でもちょっと性能を確かめてみたいよな、それに他の人がおれの声を正確に再現できてるのかも知りたい。


視聴者さえも騙せるのか?




「分かった、でも一つ約束しろ。口調を完コピしてくれ」



「余裕だって!じゃあ今日の夜また来るわ!」



そろそろ時間になる、と言って瑛人はアパートを出た。



心配しかないけどまあ一応SNSで告知するか。


【今晩雑談します】よし。




♢♢♢♢♢♢♢♢♢



一方、莉未



(ロキだ…、今晩雑談します…か。嬌太郎の雑談)




ロキ=嬌太郎だとほぼ確信している莉未はロキのSNSを見た後スマホをしまい講義を受けた。





―――― (違うアカウントで質問してやるんだから)






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