第11話:なんでここにいるの?



mmとの初通話を終えたおれは緊張の糸がほどけ、ベッドに倒れ込んだ。


―――― ん……どこだ…ここ。


起き上がるとそこは眩しいほど白く開けた場所だった。


おれさっきまで…あれ、さっきまで何してたんだったかな。

何も思い出せない。

ぼーっとしているおれの後ろから誰かの声が聞こえる。


誰だ、振り返ると莉未が居た。

しかし莉未が声をかけたのはおれではなく莉未の隣りに立つ黒い影。

楽し気に話す二人に何故か苛立ち叫んだ。


「莉未!だれだよそいつ!」


だが声は届かず二人はどんどん離れていく。


え、おれ今なんで莉未の名前を…。


その時また後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。

「ねえ、こっちだよ」


え?また振り向くとそこには白い影があった。


「……誰?」


白い影はクスっと笑い答える。

「分からないの?」


そしてそれは莉未の選んだ道の正反対へ歩き始めた。


「ほら、行くよ…」



―――― はっ……夢か


莉未と影…、なんだったんだろうか。


莉未が話しかけていた黒い影は誰だ?おれに声をかけた白い影は誰だ?…


…分からない。


白い影に誘われたあと、おれは影について行ったのか?でも何かが引っかかる。


嬌太郎は寝起きの脳みそでそれなりの考察していた。



♦♦♦♦♦♦♦♦♦



mmの事情もあり、コラボ動画の録画は来週となった。


大学で忙しくなるためと聞いていたのだが詳しくは言及しなかった。

忙しいと言えば、おれもそれなりに忙しくなる。

週末に大学祭を控えているからだ。

うちはFラン大学なのにかなり手が込んでいて、委員関係の人は特にバタバタしている。

その中に莉未もいる。相変わらずお人よしなので勧誘に断れなかったようだ。

付き合っていた頃はできる範囲でサポートをしてはいたが、今は赤の他人。手伝う義理も無いし、あっちもそれを望んでなどいない。


彼女も忙しいようだがおれも実はやることがある。


研究室での催し事はないものの、サークルでの活動はある。

言ってはいなかったがゲームサークルに入っている。

入っていると言ってもいわゆる幽霊部員で1年に3度顔を出すか出さないかの存在。


そんなゲームサークルでの催しはマイ○ラ。


内容としては、客が指示したものをおれ達が回路などを駆使し忠実に再現すること。

いつも配信や動画投稿をしているおれにとっては容易なものだった。

だが最近はマイ○ラも久しくプレイしていない為腕がなまっているかもしれないので今晩配信にて大学祭当日のリハーサルを行うことにした。


とりあず今のうちにSNSで告知をしておこう。

【夜9時からマイクラ配信:なんか作ります】


これでいいかな。

昨晩も遅くまで動画編集をしていたおれは講義の時間まで教室の机で寝ることにした。


30分後


ん…ん、あれ、もう時間か。

顔を上げると講師が出席カードを配り始めていた。

瑛人が居ない為、この講義もおれ一人だ。こういった時に友達の少なさを感じ急に虚しさを覚える。


出席カードを受け取った時に2つ前の右斜めの席に莉未が座っていることに気づいた。


ほんと最近近くにいること多いよなあ。


あいつも一人なのか。

莉未の左右には友達らしき人はいないようだ。


ん、もう始まるのにスマホいじってるのか?余裕だなあ。


自称”真面目”なおれは前を向き講師の口が開くのを待っていた。



ピコンッ



あ、やべ。スマホの通知音が鳴り周囲の連中の視線が集まる。

恥ずかしくなったおれは少し縮こまりサイレントモードに切り替え、ついでに中身を確認した。


SNSのメッセージだ。

視聴者からの応援メッセージか?それともアンチか?

中を確認し差出人を見るとそれはmmからだった。

mm?コラボ動画の確認か?内容を見るとそこにはこう書かれていた。



―――― SNSメッセージ ――――

『おつかれです。今日の配信告知見ちゃったよ。なんか面白そうだね。私もお題出してもいいかな?』 ―――― SNSメッセージ ――――



あー、告知見られたか。えーっと…。



―――― SNSメッセージ ――――

『mmもおつかれ。なんとなくたまにはこういう企画もいいかなって。いいよ。じゃあその時メッセージ送ってよ。あとチャットにも打ち込んでね』

―――― SNSメッセージ ――――



無理難題がこないといいが…。

mmからのメッセージはすぐに届いた?今日は休みなのか?



―――― SNSメッセージ ――――

『やった!じゃあ9時過ぎに見に行くね』

『了解。じゃあまたね』

―――― SNSメッセージ ――――



コトンッ。


前方から小さな音がした。


mmへメッセージを返したおれはスマホを机に置いた。


コトンッ。



♦♦♦♦♦♦♦♦♦



夜21時


遅い食事を終え、ヘッドセットをかぶり配信ボタンを押した。

いつも通りボリュームの調整を済ませ、挨拶から入る。


===ロキ配信===

「こんばんわー、みんな今日もおつかれです」


―――チャット欄 ―――

『ロキもおつかれ』

『間に合ったー』

『今日マイ○ラなんだ』

『配信久々やん』

―――チャット欄 ―――


「確かに久々だ。そうそう、マイク○ラしていくよ。スマ○ラはまた今度で」


―――チャット欄 ―――

『なんか作るってなに?』

『はよ作ってや』

『家とか?』

―――チャット欄 ―――


「今日はみんなから案をもらってその中から一つずつ選んで作っていくっていう企画だよ」


―――チャット欄 ―――

『すごいやん』

『んじゃロキの顔をリアルに再現』

『ダイヤ製造機』

『カンニング禁止な』

―――チャット欄 ―――


「ダイヤ製造?そんなことできるんだっけ?んーなんか回路使ったやつでよろしく」


―――チャット欄 ―――

『んー、なにかな』

『どこ○もドア』

『マグマ製造』

―――チャット欄 ―――


「マグマはやったことあるから無しで。どこ○もドアはどうかなー」


その後適当なもの1つ装置を作り終えたところで、mmからメッセージが届いたことに気づいた。



―――― SNSメッセージ ――――

『あー、遅くなってごめんね。今からでも遅くない?』

『おつかれ、遅くないよ。何がいい?』

『えーっとねー、私地下への隠し階段みたいなのがいいなあ』

『それ作ったことあるかな』

『え、ごめん!じゃあ…』

『いや、それでもいいよ。チャット打っておいて』

―――― SNSメッセージ ――――



階段は以前配信で作ったことがあるがまあいいだろう。


===ロキ配信===

「えーっと、あ。階段?それいいね久々に作ろうか」


―――チャット欄 ―――

『それ見たことある』

『つまらんなー』

『おれは初めてかも』

―――チャット欄 ―――


やはり初見の視聴者は少ないか。


「まあまあ、初心者向けの意見もはさんでいこうよ」


チャットを拾いながら15分ほどで完成したところでまたmmからメッセージが来た。



―――― SNSメッセージ ――――

『すごい!やっぱロキすごいね!』

『いやこれは誰でも作れるようなものだから』

『私は作れないなあ』

『同じ手順で作ってみなよ。あとyou○ubeにもいろんな人の動画乗ってるはずだよ』

『わかった!ありがとね!』

―――― SNSメッセージ ――――



こういっちゃ悪いがmmには作れないだろうと思っていた。

彼女が配信でゴー○ムトラップの作成に何度も何度も挑戦し、結局作れず挫折していたのを見たからだ。


その後視聴者からのお題に何件か答え2時間経ったところで配信を終えた。


…mmが本当に来るとは思わなかったなぁ。

まあでもちょうどいい肩慣らしにはなったかな。



♦♦♦♦♦♦♦♦♦



3日後、大学祭当日


おれはサークルの準備の為、朝早くから大学のメインとなる通りに机を用意しPCの接続をした。


サークルの仲間と一息ついたところで校内放送が流れ校内に人がなだれ込んでくる。



おいおい、こんなに来るなんて聞いてないぞ。



サークルで用意したPCは3台。

子どもも遊びに来ているようだから確実にここは長蛇の列ができる。



案の定、押し寄せきたキッズの群れをなんとか捌き、後ろにある水を飲み休憩をしていると。



「地下への隠し階段やってみてよ」


と空気の読めない声が聞こえた。



少し疲れていたので背中越しに返事をする。


「あー、それさっき作ったんで。違うのでもいいですか?」



目をこすりながら前を向き直すとそこに立っていたのは莉未だった。



「だめなの?」




――――ん…… いや、なんであなたがここにいるの。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る