第10話:呼び捨てでいいじゃん
「嬌たろ~飲んでるか~?」
虚ろな目をしている彼は親友…いや友達の瑛人。
飲めないくせに調子乗りすぎだろ。
女A:「瑛ちゃ~ん、私も飲みた~い」
女B:「うちも!うちも!」
女C:「瑛人くんの隣行ってもいい?」
瑛人の独壇場じゃねーかよ。
男A:「なあ、きょうすけ君。オレらも本気出さないとなぁ!」
お前はほんと誰なんだよ。
最悪だ…人生初の合コンがこんな形で行われるなんて。
おれは引き立て役にすらなっていない。
隣でカクテル飲んで、すかしてるやつはもう何がしたいのかすら分からない。
帰りたい…。
「みんな~、聞いてくれ!」
瑛人がへらへらしながら立ち上がる。
「そこにいるおれの親友の嬌たろ~って実は~」
ん…何を言う気だ?
「実はゲぇムじっ…ッ!…ウえっ…!おろrrッ…」
滝だ。
それも嵐の後の土石流。
瑛人がおれの秘密を暴露することを途中で察し止めに入ろうとしたが、結果的にそこへ近寄らなくてよかった。
瑛人はそのまま倒れ込み、周りに居た子たちは危機一髪といったところで難を逃れていたが、隣に居る男Aは見事に”もらって”いた。
ドン引きした女の子達は悲鳴をあげ、汚物でも見るかのような顔をし店を出て行った。
まあ汚物なのだが。
残されたおれは瑛人の”おろろろ”を処理し、両脇を持上げ引きずりながら部屋を出て支払いを済ませ外へ出た。
この金はあとでしっかりと徴集するつもりだ。
……もう一人は申し訳ないが置いていく。
すまない。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦
翌日、朝10時
…トントントン
んー、なんだよ…。
昨晩ゲ○まみれの瑛人をアパートに投げ入れたのが夜の0時。
それから帰って寝たのが1時半だ。
もう少し寝させてくれ。
おれは聞き覚えのあるノックを無視し二度寝した。
ふわぁ~あ。
よく寝たな…めちゃくちゃ寝たな…。
もう11時半か…11時半…11時半!?
今日10時半から定期テストじゃなかったか!?
起きた瞬間、単位に関わってくる大事なテストを受けれないことを確信した。
まじかよ…、一応教授に顔だけでも出しに行くか。
アパートから出て校内に着き、教授の部屋に行く途中後ろから誰かが駆け寄ってきた。
「バカ…、起きればよかったのに」
莉未は一言放つと友達とどこかへ行った。
―――― なんだよ…まあバカなことをしたのは認めるけど。
その後真っ青な顔をした瑛人が死ぬほど謝罪してきたのは言わなくても分かるだろう。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦
―――― SNSメッセージ ――――
『ども、おつかれです』
『ロキもお疲れ様です』
『今日からマイ○ラの動画内容を考えていこうか』『うん、でもいきなりシリーズ物はやめておこ』
『どういうこと?』
『仲良すぎ、って思われるし(笑顔)』
『確かにそれは困るかもね』
(まあ…流石にmmも嫌だよな)
『なんだろう…とりあえずは建築の美的センスで競うみたいなのは?』
『あ~、最近多いよね。お互いにアスレチック的なのを造って一人ずつトライしていくとか?』
『なるほど…、どっちがレッドス○ーンを使った巧みな装置を作れるとか?…ってそれ私負けるね(笑顔)』
『だね(笑顔)。とりあえず2パターンで何か考えていこうか』
『うん!』
様々な案を出し終えた所、結局は無難に建築を主体とした動画を2本出すことにした。
『まあこんな感じで進めていこう、日時はどうする?希望日があれば聞くよ』
『うーん、ちょっとバイトのシフト確認するね』
『バイトしてるんだね』
『普通にコンビニだけどね。でも急に呼ばれることもあるから大変だよー』
(莉未もそんなこと言ってたなあ)
『あー、おれの友達もそんなこと言ってたよ』
『でしょー、でも動画撮る日はそれも断るから!』『なんかごめんね』
『だいじょうぶだよ!えーっとじゃあこの日の…この時間帯でいいかな?』
『おけ、じゃあ当日よろしくね』
『こちらこそよろしくね』
―――― SNSメッセージ ――――
♦♦♦♦♦♦♦♦♦
うーん、最近また伸び悩んできたなぁ。
投稿している動画をスクロールし再生回数を眺める。
う~ん…何が足りないのか。
でもmmとコラボしたら何か変わるかもしれないな。
コツコツ頑張るか。
コラボとは別に個人の動画も投稿していく為、ネットで中古ゲームを見て漁った。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦
mmとのコラボ動画の題材となるゲームはマイ○ラで、内容は建築物のセンスを競うもの。
なのだが
mmのマイ○ラ生放送を何度か見たがおそらくおれが余裕で勝つだろう。
そこで提案したのが、mmがおれに二つのキーワードを与え、その二つを上手く建築に取り入れセンスよくまとめるというもの。
つまりハンデキャップを設けるということだ。
もちろんそのキーワードは当日の収録開始直後に言い渡されるのでおれもまだ知らない、いや彼女もまだ決めていないかもしれない。
そして何より大事なのは、今日はおれとmmが初めて通話をする日ということだ。
LI○Eの交換は断られた為PCのツールを使うことになっている。
ただこのツールを使う際は声質にムラが出るという書き込みがあったのでお互いの声に違和感を持つかもしれない。
…今更だが正直かなり緊張している。
女子と通話をするなんて莉未以来なかった。
陰キャなおれはmmと上手く会話を交わすことができるのだろうか。
9時になる。
ついに打合せの時間だ。
……きた。
ヘッドセットを着用し点滅している通話ボタンをクリックした。
ー♢ー♢ー♢ー通話中ー♢ー♢ー♢ー
『…あ、あ…、mmさん、…聞こえますか?』
『えーっと、はい、聞こえますよ』
『よかった。なんか緊張しますね』
『…ですね…』
(初めての通話。動画で流れているmmの声が新鮮に感じる。……でもなんだか…)
『よろしくです。なんか初めて話した感じしませんね』
『こちらこそよろしくお願いします。動画拝見させていただいてるので私はあまり違和感ありませんよ』
『そ、そうなんですかぁ』
(おれの思い違いかな)
『なんか敬語になっちゃいますよね、メッセージでは敬語使ってなかったのに』
『ですよね。おれも自然と使ってました…』
(めちゃくちゃ気まずい。沈黙は一番まずい、とりあえず…)
『きょ、今日はいい天気でしたね』
『え?あ、はい…いい天気でしたね』
(もっと気まずくなった…最悪だ)
『あの…ロキさん?あまり気を遣わなくていいですよ?』
『なんかごめんなさい…』
『いえいえ、謝るようなことしてないじゃないですか』
『そう言ってもらえると助かります』
『ロキさん、敬語止めませんか?ほらこうやって…。ロキ、敬語やめよう?』
『あ、そうですよね…じゃなくて、そうだね』
『ふふっ、いつかの私みたい』
(ん?…いつかのmm?いつかの…。初めてメッセージした時かな)
『今日は打合せやめて少し話そうよ。ロキがすごく緊張してるみたいなから』
『ごめんなさ…じゃなくて、ごめん』
『また謝った、私の方が早く緊張ほどけるなんて思ってなかったよ』
『おれ久しぶりだからさ、こういうの…』
『私は初めてだよ。でも今更だけどいきなり呼び捨てコラボって異例だよね』
『確かに…おれが先走ったからだね』
『でも私はこれで良かったと思う。だってこれからもコラボしていくんだもんね』
『え、そうなの?』
『…え…あ、ごめんなさい!勝手なこと言って…。すっかりそう思い込んじゃってた…』
『おれは全然構わないけど、むしろお願いしたいかも』
『え?いいの?』
『いいよ、よろしくね』
『やったー!ありがと!』
――――この鈍感すぎる二人はいつになったらお互いの正体に気づくのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます