第9話:初体験




「え?」


なんだろう、この既視感……以前どこかで感じたような…。



―――― SNSメッセージ ――――

『ロキさん……あれ?前にも敬語で話してましたっけ?……じゃなくて話してたかな?』

『いや、そんなはずないよ』

『だよね、なんか違和感あったから』

『そうかな?』(なんだろう…、なんとなく掘り下げる話題でもないような気がする)

『えーっとなんの話ししてたかな?私たち』

『とりあえず視聴者への告知が終わったってことの報告かな?』

『このまま企画の打合せする?mmさん』

『”さん”はつけなくていいよ。”mmみり“って呼んでね』

『じゃあおれのこともロキでいいよ、mm』

『なんかすごく違和感!さっきまでは他人だったのにね』

『うんうん、でも慣れていくよ。てかもう遅いし企画の打合せは今度にしよっか』

『そうしてもらえると助かる!大学のレポートもあるから』

『じゃあまた今度ね』

『はーい、お疲れ様』

―――― SNSメッセージ ――――



なんか思ってたより早く距離が縮んだな。

いいことなんだけどさ。


…あ、やべ!おれもレポートあるじゃん!

その日のレポートは異様なほど量が多く深夜までペンを走らせることになった。



♦♦♦♦♦♦♦♦♦


翌日


今日も売店の前で瑛人を待つおれも寝過ごしたが、まだここに来ていない瑛人はそれ以上にひどいようだ。

立っているのもだるいので近くの椅子に腰を掛けると隣りに莉未が座っていた。


…なんで最近よく会うんだよ。

しらっと椅子を離れようとしたが莉未の異変に気付いた。


「おい、クマひどいぞ」

ついつい声をかけてしまった。


「え!?……ってなんで隣りにいるのよ!」


「別に好きで座ったんじゃないよ。偶然そっちがそこに居たんだよ」


眉間にしわを寄せ上目遣いでにらんでくるが、何かに気づいたらしくそのしわを消した。


「そっちもクマひどいよ、また夜更かし?」


「え?」

近くのガラスで目の下を確認したところ、確かに不健康を象徴とするどんよりとしたクマができていた。


「私もう行くから、じゃあね」


莉未は椅子から立ち上がったがその直後によろめいた。それが恥ずかしかったのか早足で去っていった。


少し経つと金髪のイケメンさんが颯爽と現れた。

「おーい、嬌太郎。おはよー」


「おはよーじゃないよ、瑛人。もう講義始まるから」

寝坊しておきながらこんなに爽やかでいられる心境を知りたい。


「だな!嬌太郎急がないとだめだぞー」


おれが悪いのか?

うーん…こいつ悪気はないんだよなぁ…。

若干の苛立ちを抑え教室へ向かった。



♦♦♦♦♦♦♦♦♦


なんだか最近モヤモヤするなあ、莉未に見下されているような気がしているからか?


スーパーで買ってきたビールを片手にポテチを食う。

なんとなく今日は生の気分だった。


3つほど缶を空けたところでだいぶ酔いが回っていた。


たまにはほろ酔い配信でもするかぁ。

嬌太郎はこの時自身がほろ酔いではなく、泥酔の一歩手前であることを認知していなかった。

何故なら嬌太郎は生ビールにめっぽう弱いからだ。


配信を開始するや否や嬌太郎ロキは暴走した。



===ロキ配信===

「おーーーーーーい、こんばんわーーーーー、ロキだよー」

「なんかしよーぜ、なんかー」



―――チャット欄 ―――

『え?誰?』

『なになに?』

『なんかってなんだよ』

『なんかロキ様子おかしくね?』

『なんか草』

『酒か』

―――チャット欄 ―――



「おかしくないよー。スマ○ラか?AP○Xか?どっちにすんのー」



―――チャット欄 ―――

『やべえな草』

『たまにはAP○Xやろ』

『草』

『AP○Xいいね』

『でもロキってFPS全般下手だよね草』

―――チャット欄 ―――



「じゃあAP○Xやっぞー!パス貼るから入って来てよー」


嬌太郎は代わる代わる視聴者と3人チームを組み、バトロワした。


「おい!おめぇさっさと蘇生しよろ!」

「ガンガン進んで倒して来いよ!」

「フラット○インはおれのだって言ったろうが!」



―――チャット欄 ―――

『ロキおもろ草』

『やべーなこいつ』

『下手すぎワロタ』

『キャリーされてるだけやん』

『お願いそろそろ酔い覚めて』

―――チャット欄 ―――



2時間ほど経った頃、目が覚めたおれは視聴者のみんなに土下座謝罪したあと配信を終えた。



===ロキ配信===


また失敗した…、ビールはだめだな。


ピコッ。スマホかな通知音がした。

SNSを開くとmmからメッセージが届いていた。



―――― SNSメッセージ ――――

『ロキ大丈夫?』

『え、もしかして配信見てた…?』

『うん(笑顔)』

『最悪だ。忘れてね』

『いやいや、かなり衝撃的だったからそれは無理かな』

『だよね…』

『何かあったの?すごく荒れてたけど』

『うーん、大したことじゃないよ』

『大したことじゃないなら教えてよ』

『…まあいいか。元カノがなんか最近変に絡んでくるって言うか…。ちょいちょい話しかけてくるんだよね』

『へえ~、もしかしてさ、まだロキのこと好きなんじゃない?』

『それはないかな。いっつも怒ってるしさ』

『うーん、その元カノさんは何か言いたいことでもあるのかな?』

『ないない』

『そっかぁ、まあ復縁したら教えてよ(笑顔)』

『わかりましたよー』

―――― SNSメッセージ ――――



莉未がおれに言いたいこと?

どうせろくな事じゃない。


―――― SNSメッセージ ――――

『話し変わるんだけど、企画どうする?』

『あー、それね。いろいろ考えてたんだけど、やっぱり王道のマイ○ラからがいいかなって。mmも好きでしょ?』

『うん、好きだよ!いつも生放送してるしね』

『じゃあその方向で行こうか。サバイバルでいいよね』

『うんうん!』


その後企画の内容を細かなところまで話し合い大体がまとまった。


『もうこんな時間だね。遅くまでごめんね』

『いいよいいよ!気にしないで』

『えーっとさ、夜にこうして決めたりするのも無理がある時が出てくるかもしれないから、よかったらLI○E交換しない?』


あ、やべ…詰め寄りすぎたか。


『あー、確かにね。でもごめんね、もう少し仲良くなってからでもいいかな?私今まで一度もLI○Eの交換したことないんだよね』


丁重にお断りされた…。


『だね、ごめんごめん!SNSのメッセージで十分だよ』

『こっちこそごめんね、メッセージはしっかり確認するから!』

―――― SNSメッセージ ――――



mmとの話し合いを終えた後、ベッドに倒れうつ伏せになった。


しくったな…。まあ今は動画のことだけ考えよう。



♦♦♦♦♦♦♦♦♦



大学の食堂でいつものアジフライ定食は食べながら瑛人が来るのを待つ。

今日は食堂に入る前に莉未がいないかを入念に確認したので堂々と真ん中のテーブル席についている。


アジフライの尾を食べ終わろうとしていた時、食堂の入口に瑛人が居るのを確認できた。


「おーい、瑛人ー。ここ、ここ!」


彼の顔にはいつもの爽やかすぎる笑みはなく、見たこともないくらい下手くそな笑顔を作っていた。


どうしたんだ?あいつ。

食券も買わず重い足取りで向かって来る。


「なにかあったん?」

「うん…なにかあった」

明らかに様子がおかしい。単位でも落したのか?


「嬌太郎~、今日の夜空いてるか?…」


「え?まあヒマだけど。飲みいく?」


「え!?飲み付き合ってくれていいのか!?今行くっていったよな!?」

余ほど酒に飢えているのか瑛人は急にテンションを上げた。


「お、おう…」


「じゃあ7時に街中の改札前に集合な!おれ今日講義もう終わりだから早めに着いてるから!」


「え、あ、はい…」


瑛人は自分の言いたいことだけ言い終えると走って行った。


箸で掴んでいたアジフライの尾がやや冷めていた。



♦♦♦♦♦♦♦♦♦



夕方講義が終わった後電車に乗り待ち合わせ場所に向かう。


いつも通り一緒に行けばいいのに、などと考えている内にあっと言う間に目的地のホームに着いていた。


改札を出てまっすぐの所だよな……。


言われた通りにまっすぐ足を進めると瑛人が居た。


「よ、瑛人早いな」


「まあな!」


「んじゃ行こうか、いつものとこでいいだろ?」


「いやもう予約とってあるんだよ」


ほう、こいつが予約とるなんて珍しいな。


「わざわざ予約なんていらないだろ、二人で行くんだs……え?」


女A:「ねぇ、瑛人くん。はやくいこ~、私お腹すいちゃったぁ」

女B:「うちもうちもー!」

女C:「まってよぉ、瑛人く~ん」


は?


男A:「よろしくな!……えーっと…きょうすけ君だっけ?」

お前は誰だよ…。


「嬌太郎、こっちこっち!」


こっちこっちじゃねえよ!


「おい、瑛人。なんだよこれ…!」


「飲み会だよ。嬌太郎が行くって言ってくれたじゃん?おれさ、誘われたのはいいんだけど人が足りなくて困ってたんだよ」


足りなくて…じゃなくてさ…。




――――これ 合コンじゃねえかよ!



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