第8話:同い年だったんだね






「よ!嬌太郎きょうたろう!元気!?」

赤髪ショートヘアの女子高生が玄関の前に立っていた。


「なにしに来たの?」


「はー?なにって、そりゃあ義理の兄にあいさつしに来たんだよー」


「義理の兄でもなんでもないでしょ。ただ莉未と付き合ってただけだし」


そう、ここにいる両耳と口にピアスを開け、全身真っ黒なだぼだぼの服を着ている見るからに不良っぽい少女は莉未りみの妹の〈星 瑠美るみ〉高校2年生だ。

清楚系な莉未とは対照的過ぎるため、初めて会った時は本当に姉妹なのかと本気で疑った。


「なあ、ちょっと休ませてくれよー。街中は疲れた」


「だめだよ。莉未の妹だとしても女の子を部屋にはあげられないよ」

瑠美はここから高速バスで2時間ほど離れた田舎町に住んでいる。


「なに。やましいこと考えてんの??」

口元の金色のピアスを光らせニヤニヤと笑う。


「はあ?からかうのやめてよ」


彼女はウソウソと手を払いずかずかと部屋に入っていった。


「おー!…、なんか普通だな。つまんねぇ」


「何を期待してたの」


「エロ本的な物が散乱してると思ったわ」


「そんなのないよ!」

今時本を持ってるやつなんていないだろ。


瑠美はベッドに寝そべりある物を発見した。


「嬌太郎のパソコンすげー。なんで画面が2つもあるんだ?」


まあ気づくよな…。だが実況をしているなんてことはバレてはいけない。

莉未にさえ秘密にしてるのだから。


「最近の授業はパソコンをよく使うんだよ」


「へえ~、だから莉未ねぇも2つあったのか」


え?莉未ってそんなPCの環境整えてたか?2・3回しか莉未のアパートに行ったことがないからその辺は気づかなかったな。


「莉未の所には行かないの?なんでおれのとこに来たのさ」


「あぁ、なんかバイトあるから今は無理なんだって。合鍵で部屋入って待っててって言われたけど、ヒマじゃん?だから嬌太郎のとこに来たんだよ」


まあ街中で迷子になられるよりはマシか。


「なあ莉未ねぇがバイト終わる頃に一緒に迎えに行こうよ?」


「……行かないよ。おれ達別れたんだ」

視線を落とすおれに瑠美が吠えた。


「は?……あぁぁ!?別れたぁ!?なんでだよ!?」


「言えない」


「てめぇ浮気か!?莉未ねぇになんかしたのかぁ!?」


「……」


「おい!黙ってんじゃねーよぉ!」


「ごめん、でも言えない」

莉未を悲しませてしまった。誰かに話したところで何も解決はしない。




「………ってね!ウチこういうのやってみたかったんだよなぁー!!」


へ?


さっきまで獣のような顔をし詰め寄ってきた瑠美の表情はすっかりいつも通りに戻っていた。


「嬌太郎のことは分かってるからさー、別れた理由なんてたぶんどっちもどっちでしょ?それにすぐに元に戻ると思うよ!」

何も根拠は無いが、瑠美の顔は自身に満ち溢れていた。


「そう簡単な話じゃないよ」

おれが表情を曇らせたのを見た瑠美はベッドから立ち上がった。


「街中行こう!」


「街中ぁ?」


「そうそう!ここに居てもつまんないしさ!」


ヒマだから来たんじゃなかったのかよ。


「いいじゃん別に、嬌太郎もヒマそうじゃん」


配信しようと思ってたんだよな…まあ夜の方がいいか。


「わーかったよ。でも莉未がバイト終わる頃までだよ」


「わかってるよ!」

さっきから耳が痛くなるほど声がでかい…。


電車に乗り街へ着く。


「ウチクレープ食いたいなあ!クレープ屋どこ?嬌太郎!」


「え、えーっと。確かあの百貨店の中にあったと思うよ。フロアガイド見に行こうか」


この百貨店、莉未とよく来てたな。


前を走り振り向く瑠美の笑顔が莉未の笑顔重なった。


だめだ、もう忘れないと。


その後瑠美と服を見たり喫茶店に行ったりといろいろな店を巡り歩いたが莉未との思い出が溢れるほど積み込まれていて忘れるに忘れられなかった。

もうそろそろ莉未のバイトが終わる時間だ。

二人で電車に乗り、莉未のアパートの最寄り駅で降り近くまで送った時。



「莉未ねぇとのこと、忘れんなよ!今日はありがとなー!」



「お、おぅ」


忘れるなよって…、あいつ最初からそのつもりでおれを連れ出したのか。

何も考えてないように見えて案外人のことよく見てるんだな。


じゃあね、と手を振り駅へ戻った。



♦♦♦♦♦♦♦♦♦



「昨日は瑠美のこと、ありがとう…じゃ」


へ?なに?。


講義前に教室でふて寝していた時、またもや莉未が現れ、おれが言葉を返す間もなく席へ戻って行ってしまった。

もちろん寝ぼけていたので内容は聞き取れない。


「嬌太郎どしたん、仲直りしたのか?」

後ろに立っていた瑛人えいとにペットボトルで頭を小突かれた。


「痛て…、仲直りなんかしてねーよ。たぶん妹のことで話しかけにきたんじゃねーの」


「へえ、莉未ちゃんって妹いたんだ。まさか妹に手出してんのか?お前」


「んなわけねーだろ、ちょっと街を散策しただけだ」


「デートやん」


「言うと思った。違うからな」


「はいはい、じゃあ何を言いに来たんだろうな」


「知らないよ」


「そっかー。あ、そういえばさコラボ候補の人の実況動画見たぞ」


「そうなんだ。面白かった?」


「面白いっていうかさ、なーんか変な感じしたんだよなー。聞いたことあるような声でさあ」


「その人3年前くらいからやってるからどこかでさらっと聞いたのかもよ?」


「かなあ、まあそうか。結構可愛い声してるよな」


「あぁ、そうかもしれないな」


mmの声か…、今まであまり気にしたことはなかったが、確かに透き通ってて優しさのある声だよな。


そんな彼女とコラボするんだもんな。釣り合うのか?おれ。



♦♦♦♦♦♦♦♦♦



今日は配信するぞー。

いつものように日中にSNSで告知しておいたのでそこそこ視聴者は集まってくれるだろう。


画面を開き時刻ちょうどに開始する。



===ロキ配信===

「…声どうですか?聞こえる?」


まずは音量の調整から始まる。

いつも同じ設定なのに毎回注文をつけられるのはどうしてだろうか。


「大丈夫そうなので始めますねー」

「えー今日はタイトル通りみんなに報告があります」


この日のタイトルは【緊急報告】大袈裟だがこれならいつもより人が集まってくれるはずだ。


「前にも話したんだけど、コラボについてですね。」



―――チャット欄 ―――

『コラボ決まったんだ』

『誰と?』『だれだれ』

『いつやるの?』

『レト○ト?』

『ナ○リ?』

『キ○でしょ』

―――チャット欄 ―――



そんなレジェンド枠の方々とできるわけないでしょうが。


「いやいや、その方々は雲の上の存在なんで無理です」


「コラボ相手は前回みんなに名前を出してもらったmmさんです」



―――チャット欄 ―――

『まじか』

『mm?』

『あー知ってる』

『いいじゃん!mm!』

『酔っ払いの人やん』

『めっちゃ好き!』

『すげー』

―――チャット欄 ―――



「これから企画の打合せとかしていくんですけど、前もってみんなに報告してからコラボ動画を出そうかと思って。たぶんmmさんも配信で告知してるんじゃないかな?」



―――チャット欄 ―――

『楽しみすぎる』

『mmちゃんは1時間後くらいにやるみたいだね』

『ゲームは何にするの?』

『スマ○ラ』

『mmってAP○Xやってなかったっけ?』

―――チャット欄 ―――



「えーっとね、とりあえずは王道な感じで行こうかなっておれの中では考えてる。まだ確定ではないけどね」



―――チャット欄 ―――

『楽しみにしてます』

『早めに』

『絶対面白いじゃん!』

『期待しかない』

―――チャット欄 ―――



「プレッシャーすごいなー!まあ頑張ります。じゃあ時間余ってるんでスマ○ラでもしますか!」



===ロキ配信===



2時間ほど視聴者と死闘を繰り広げた。


その後mmも無事視聴者への報告が済んだようで、SNSのメッセージが届いた。



―――― SNSメッセージ ――――

『こんばんわ、私も視聴者さんに報告終わりましたよ』

『mmさんお疲れ様です。自分は報告後にゲーム配信してました』

『いいですね!』

『あの…mmさんって確か21歳ですよね?』

『え、そうですけど…。配信で聞いちゃいました?』

『はい、おれも21歳だったのでしっかり覚えちゃってました。敬語なしにしませんか?』

『はい、敬語なしにします。…じゃなくて敬語にするね』


『え?』


『…え?』

―――― SNSメッセージ ―――― ――――





―――― なんだ?何かが引っかかる…




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る