第7話:赤髪の少女
はあ、どうしたものか。
SNSのメッセージで自分から誘っておいて、やっぱりいいですなんて言ってさ。
そのあとmmは配信でコラボしたかったな、とか言ってくれてるし…。
ほんとバカなことしたな。
悔やんでも悔やみくれないものを抱え、大学の食堂へ入る。
食券を買いアジフライ定食を受け取り、席に着こうとした時に目の前のテーブルにいた莉未と目が合った。
最悪だ、さっさと遠くの席へ移ろう。
「ねえ」
振り向くと莉未はおれに顔を向けず話しを続けた。
「大丈夫なの?」
まあ、温かみのある声ではなかった。
「ん、何が」
おれもそれなりの態度で返事をする。
「だから……遅刻してないよね、ってこと」
「してないけど?」
「そう…、ならいいわ」
なんなんだ?莉未のやつ。
…まあ、明け方まで動画編集とかしてる日は危ういけど。
「じゃ」
「……」
なんだ無視かよ。
おれが席に着くや否か、莉未は席を立ち、早足で食堂をあとにした。
変なやつ。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦
その晩
仕方ない、もう一回メッセージ送るかー。
先日強引に話しを切ってしまったからかなり気まずい。
んー、とりあえず…。
―――― メッセージ ――――
『お疲れ様です。この前はこっちから誘っておきながら身勝手に話しを打ち切ってしまって本当にすみませんでした」
―――― メッセージ ――――
すぐは返ってこないこないだろうとコンビニに行こうと靴を履いた時スマホの通知音がなった。まさかmmじゃないよな。
そのまさかでメッセージの差出人はmmだった。
―――― メッセージ ――――
『お疲れ様です。いえ、気にしてませんよ。少しだけ驚きましたけど。どうかされましたか?』
―――― メッセージ ――――
気にしてないんだ、じゃあ配信で言ってたことは本当なのか?だったら……。
―――― メッセージ ――――
『あの、コラボの件なんですけど。前向きに考えていただければと思いまして』
『私とコラボしてくれるってことですか?』
『はい、mmさんが宜しければ、ですけど…』
『えーっと、むしろ私でいいんでしょうか。ロキさんは人気実況者さんなので視聴者さんに嫌な思いをさせてしまう可能性もありますよ』
『そこは大丈夫ですよ。むしろ視聴者もそれを望んでるというか。この前の放送でもmmさんの名前が出ましたし』
『え、あー。そうなんですね。それは嬉しいです』
『じゃあOKということでいいですか?』
『あ、はい』
―――― メッセージ ――――
なんかコラボに乗り気じゃないように感じるんだけど気のせいかな…。
〈莉未(mm)は自ら自分の名前を出したことに対し後ろめたい気持ちが溢れていた〉
―――― メッセージ ――――
『何か気になることあれば言ってもらっていいですよ』
『もう一回配信で聞かなくても大丈夫ですか…?』
『そんなに気にしなくてもいいですよ。てか何回も聞いてたら鬱陶しがられるんで』
『わかりました。でも私コラボとかしたことないんですけど、どうやってそこまで運んでいくんですか?急にコラボしてたら視聴者さんも引いちゃい可能性もありますし…』
『そうですね…自分が以前やった時は配信で告知しましたね。今度コラボ実況出しますって』
『じゃあお互いに配信で告知して、それから動画作っていく感じですか?』
『たぶんそれでいいと思いますよ。動画投稿もゆっくりでいいと思います』
『なるほど…。じゃあ近々配信しますね』
『おれもそうします』
『いろいろ教えていただいてありがとうございました』
『こちらこそ迷惑かけてすみませんでした。ではまた打合せしましょう』
『はい。よろしくお願いします』
―――― メッセージ ――――
……息が詰まる。
やっぱ初対面の人とコラボなんて無理があるのかなあ。
すげー疲れた。
―――― 一方、mm(莉未)
「ふう…。緊張したなぁ。失礼なこと言ってなかったかな、少し硬すぎたかな…」
莉未は机の上で顎を両腕で支え、あれこれ考えていた。
「ロキさんって優しい人なのかも。私のことすごく気にかけてくれたし。上手くコラボできるように頑張らないと!」
彼女はロキの素顔が嬌太郎とも知らず、彼の期待に応えようと気を引き締めた。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦
よしよしよしっ!やっとmmとのコラボにこぎつけたぞ!
あとは視聴者に報告+告知をして、mmと打合せ+動画作りだな。
こんなことならもっと早く誘っておけばよかったよ。
安心し気が抜けた嬌太郎は、気絶を疑うほど早く眠りについた。
翌日大学の講義が終わった後嬌太郎は直帰せず電車に乗り街へ向かった。
改札を出て嬌太郎はとある工場に入って行く。
「こんちわー。今日から短期バイトの伏見でーす」
そう嬌太郎は新規のバイトを始めていたのである。
日雇いバイトはその日に給料を手渡しでもらえるもので短期で働きたいおれにとってうってつけのものだ。
これで機材の新調と液晶タブレットの購入ができるぞー。
彼はmmとのコラボに向け心機一転、作業環境を整備しようとしていた。
慣れない力作業でヘトヘトになった嬌太郎はバイトを終え開札を通り、列に並び電車を待つ。
おれこのバイトやっていけるんかな…。
スマホで動画を見ようとした時それに気づいた。
…まじかよ。
一つ離れた列に莉未が並んでいる。
それも結構な人数が並ぶ列だ。
おいおい、大丈夫か?あいつ。
過去に彼女は軽い痴漢に会っている。
…ったく。
これだけは放っておけない。本能に従うがままに莉未が並ぶ列に移り、彼女の後ろの二人のオッサンの後ろに並んだ。
3分ほど待つと、電車の滑車がレールを擦る高い音が聞こえ、停まると同時にスーツを着た男が流れるように下車し、それに続き列に並ぶスーツの男たちは吸い込まれるように乗車していく。
まずいな。
莉未が押し寄せられる波に逆らえずどんどん奥へ押し込まれていく。
行くしかないか。
スーツ中年をかき分け莉未の隣りにたどり着く。
こんな今にも痴漢が起きそうな電車によく乗れるな、あれだけ気を付けろって言ったのに…。
莉未はおれに気づくこともなく吊皮に掴まりスマホを見ている。
呑気な奴だな。
電車が発車し車内が揺れつまいたおれは莉未の肩に腕をぶつけてしまった。
やばいバレる。
驚いた莉未はゆっくりとこっちを見た。
痴漢だと思ったのだろうが、おれだと認識した瞬間ホッとした表情に変わった。
「な、なんでここにいるのよ」
そりゃそう思われても仕方ない。
「そっちが満員電車に乗ろうとしてたからついて来てやったんだよ」
「…え?…そんなこと…別にいいのに」
何故か俯く彼女におれは続けて言うことは特になかった。
「じゃあね…、ありがと」
「あ、うん」
4つ目の駅で莉未は降りて行った。
今日はなんか大人しかったな。
―――― 嬌太郎はバイトと莉未のボディガードで疲れたのか、車内で眠り終点まで起きることはなかった。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦
日雇いバイトは7日間終え5万円ほど溜まったところで契約を破棄した。
本当はもう少し欲しいところだったが、もやしっ子のこの身体がこれ以上は勘弁はしてくれというので辞めざるを得なかった。
とりあえず機材の新調だけはしておこう。
5年も前から使っていたものなのでそろそろ取り替えたいと思っていたところだった。
液タブに関しては諦めた。ボロいペンタブをこれからも使って行くことにする。
2日後、環境のセットが終わりようやく動画編集と配信ができるまでになった。
よーし、とりあえず配信でみんなにあれこれ報告しないとだな。
新しい機材で配信の準備を整えたところで玄関チャイムが鳴った。
ピンポーン
はあ、誰だよ。
宅配か?瑛人か?重い腰を上げ玄関ドアを開ける。
「よ!嬌太郎!元気か!?」そこには赤髪ショートヘアの少女が立っていた。
―――― なんでお前がいるんだよ!?
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